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空き店舗、無くならないのは「困ってないから」~商店街はどこへいく?

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
空き店舗が減らないのは、困っていないから(提供:イメージマート)

・「困らないのでそのまま」

 一般財団法人大阪商業振興センターが、大阪府内の236商店街からのアンケート調査を2021年11月に発表した。この「コロナ禍における府内商店街等の空き店舗実態調査報告書」によると、7割の商店街で空き店舗があり、5店舗以上の空き店舗があるのは全体の3割となっている。また、空き店舗になっている期間は平均 23 ケ月間と長期化する傾向にある。

 では、どうして空き店舗のままかという理由は、第一位が「賃料等の条件があわない」が 46%、次いで「困らないのでそのまま」が 31%、そして、「もう貸す気がない」が 11%の順となっている。要するに「困っていないのそのまま」なのだ。

 大阪府内の不動産会社の経営者は、「商店街などに店舗を持っている経営者は、1970年代から1980年代に儲けて、店舗や自宅だけではなく、アパートやマンションなど不動産を所有していることが多い。生活には困っていないので、賃料を下げてまで貸さなくても良いという人が多いのでは」と話す。

空き店舗が減らない理由は・・・
空き店舗が減らない理由は・・・

・店舗用物件は減っている

 大阪市の近郊、吹田市は2000年年代から人口が増加傾向にあり、ショッピングセンター、ドラッグストア、スーパーマーケットの進出が続く激戦区である。それだけ、小売業、流通業にとっては有望な市場が形成されている地域だと言える。小売業の売り場面積は、人口増加に合わせて、2014年以降、増加している。

 この吹田市の店舗数、空き店舗数の推移を見てみると、空き店舗率はこの10年近く9%台が続いている。空き店舗率だけを見ると、空き店舗率の悪化には歯止めがかかっているように見える。

 ところが、店舗数も大幅に減少している。2012年の店舗数1,184を100%とすると、2020年には店舗数は878、74%まで減少している。

 大手・中堅流通企業が次々と進出する中で、個人商店向けの店舗は減少しているのだ。「吹田市の場合、廃業した後はマンションや戸建て住宅に転用されることが多い。賃貸料も高額なことが多いので、チェーン店でないと借りることが難しい。」中小企業支援団体の職員はそう説明する。

空き店舗率は歯止めがかかっているようだが。
空き店舗率は歯止めがかかっているようだが。

・「ビルに建て替え、賃貸業でやっていく方が良い」

 こうした傾向は、大阪に限ったことではない。東京都内の商店街の商店経営者は、「商店街が元気だったのは、私たちが50歳代だった20年前くらい。息子たちに家業を継がせるよりも、再開発に合わせてビルに建て替え、賃貸業でやっていく方が良いと考える人が多いのは仕方ないでしょう」と話す。

 商業コンサルタントの一人は、「大都市部の中心市街地にある商店街は、住宅に転換しても、大手企業にテナント貸ししてもやっていける。地方部の場合は、人口減少し、集客力が低下しているために賃料を下げて貸し出すオーナーもいるので、若い世代の開業希望者が開店するケースも出ている」と言う。

 一方、起業支援を担当する自治体職員は、「大都市部では、商店街などで開業しなくても、SNSなどを活用すれば不便な場所でも集客ができるし、ネット通販などで売上を上げる方向に力を入れる人が増えている」と話す。

・「空き店舗が増えて困るのは誰か」

 この20年ほど、中心市街地の空き店舗の増加が社会問題として、取り上げられてきた。『2014年版中小企業白書』では、「商店街はますますその活力を失っているのが分かる」と指摘されている。

 しかし、冒頭の大阪府の調査のように「困らないのでそのまま」で、「もう貸す気がない」あるいは「賃料等の条件があわない」ので賃料を下げてまで貸し出さないのが、実情なのだ。いったい空き店舗が増えて困るのは誰だったのか。

・「商店主を救うのか、商店街を救うのか」

 京都府のある商店街組合の組合長は、「商店主を救うのか、商店街を救うのかのどちらなのかが、問題なのだろう」と言う。「商店主の利益だけを考えれば、住宅やチェーン店にテナントとして入ってもらうのが正解。しかし、地域の中で商店街をどう位置づけるのかと考えるのであれば、廃業した後の使い方も考えてもらわないといけない。自分は困っていないからというのを、どう説得するかも、商店街組合の若手商店主の大事な仕事だと思うが」と言う。

 高齢化した商店主たちが廃業し、店舗をマンションやテナントビルに替えて、小売業から不動産賃貸業に転業する。商店主たちは救われるが、小売用の店舗が減少し、店舗も大手企業のチェーンが入るようになると、商店街としての魅力は低下し、衰退の道を進む。

コロナ禍で賃料が下がってチャンスだと考える起業希望者もいる。(画像・筆者)
コロナ禍で賃料が下がってチャンスだと考える起業希望者もいる。(画像・筆者)

・次世代の小売業の苗床としての役割

 京都市内のある企業経営者は、所有する物件を小売業で起業する人たちに低賃料で店舗を貸し出している。「京都で小商いを始めようという人を、個人的な繋がりで集めて、貸し出している。繁盛したら、本格的な店舗を他で借りて出て行ってほしい。元々、小売業は小商いから始めて行くもので、製造業などに比べると参入しやすいのが良いところだったはずだ。そういうことができるのが町の良さのはず」と言う。

 商店街には、次世代の小売業の苗床としての役割も大切だ。「困らないのでそのまま」な経営者を、どのように地域活性化のために協力してもらえるようにするか。

 コロナ禍からの復興の道筋をつけるためにも、商店主だけではなく、広く地域社会の中での商店街の再評価が重要になっている。

参考

一般財団法人大阪商業振興センター、「コロナ禍における府内商店街等の空き店舗実態調査報告書」、2021年11月

中村智彦「大阪府北摂地域の大規模小売店出店状況とその分析-大阪府吹田市を事例に-」、『神戸国際大学経済経営論集』第41巻第1号、2021年12月。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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