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「実質半額」は9月以降 ~ Go Toトラベルキャンペーン

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
(写真:アフロ)

・見切り発車?

 いろいろ話題を呼んでいる、というか、批判ばかりが目に付くGo to トラベルキャンペーンだが、これを機会に出かけようと考える人もいれば、何とか少しでもお客が来てくれないかと祈るような気持ちでいる観光関係の経営者たちも多い。

 話題沸騰の中、今日から旅行代理店などで本格的に商品販売が始まる。しかし、Go to トラベルキャンペーンは、見切り発車過ぎて、利用者には判らないことばかりなのだ。

・観光業者もよく判らない制度

 「観光業者が政治家使ってやらせたんだろって、悪口を言われてますけど、なんにも知らされていないまま、始まっちゃってるんですよ」と、北陸地方のホテル経営者は苦笑する。「どうすればいいんだろうと、6月末からいろいろなところに問い合わせてみたんですけど、誰も判らない。肝心の旅行代理店に聞いても、さあ、どうしましょうって言うんですもの。詳細が判ってきたのは、やっと今月の20日過ぎくらいですよ。」

 4月に実施が打ち出されたGo to トラベルキャンペーンは、8月中旬から開始するとされていた。ところが、突如、7月になって前倒しされることが決まり、その詳細が発表されたのが7月10日。期間が7月22日からと発表された。とりあえず8月末までというのが発表されたのは7月13日になってから。そして、参加旅行業者や宿泊事業者の登録は、7月21日に始まったばかりなのだ。

 大手旅行代理店JTBのホームページを見ても、7月1日に特設ホームページが開設されているが、観光庁よりGo Toトラベル事業の詳細が発表されて、22日出発分から対象になったという告知が出るのは、15日だ。最大手でも、混乱しているのが見て取れる。

 大阪市内の別の旅行代理店で聞いてみたが、「いろいろ判らないことだらけで、あとになってトラブらなきゃいいなと言ってるんです」と担当者は言う。

・実質半額割引・・・だったはずが・・

 「トラブらなきゃいいな」という最大の理由は、割引率だ。政府は、「実質半額で旅行ができる」とぶち上げたはずだ。

 このキャンペーンの仕組みは、こうだ。仮に旅行代金が一人4万円だったとしよう。まず、観光客が旅行代理店に、交通費や宿泊代の合計金額4万円を支払う。政府が半分の2万円相当額を助成するから、実質半額で旅行できると理解している人が多いが、実は少し違う。

 観光客に還付されるのは、この場合、1万4千円だけだ。つまり、旅行代金の35%だ。残りの15%に相当する6千円は「現地で使える地域共通クーポン」で配布される。

・9月までは、35%割引だけ

 疑問を持った人がいるだろう。旅行が終わってから、旅行先の「現地で使える地域共通クーポン」をもらっても使い道がないではないか。

 その通りで、本来、このクーポン券は旅行出発前に、旅行代理店から渡されることによって、旅行先での消費拡大に活用されるはずのものだ。しかし、この「現地で使える地域共通クーポン」は、発行が9月1日以降になると発表されている。

 では、どうなるのかと言うと、「少なくとも9月1日までの出発分には補助額の3割相当の地域共通クーポンは付きません」(旅行代理店での説明)ということなのだ。ちなみに、9月のいつからになるかは、まだはっきりしていない。

還付請求の要・不要
還付請求の要・不要

・要注意「書類がないと還付してもらえない」

 7月27日からは、準備が整った旅行代理店や旅館、ホテルなどから、割引済の旅行商品が発売される。この場合は、旅行客は補助金額相当分が割り引かれた旅行商品を購入するので、手続きは不要になる。

 しかし、27日以前に旅行商品を購入した場合や、準備ができてない旅行代理店や旅館、ホテルから購入、宿泊する場合には、自分で還付請求をする必要がある。

 流れとしては、旅行代金を、まず全額を旅行代理店や旅館、ホテルに支払う。政府から35%相当の金額が還付されるのは、旅行後に申請してからだ。申請の受付期間は8月14日から9月14日の一か月間。旅行に出かけた人は、忘れないように今からマークを付けておこう。

 そして、還付申請を行うには、「事後還付申請書」、振込先口座を明記した「口座確認書」、通帳かキャッシュカードの写しに加えて、旅行代理店への支払いの内訳が判る書類(支払いの内訳が明記された領収書や内訳書など)、宿泊証明書が必要となる。これらもしっかり保管しておく必要がある。

 「ホテルチェーンなどではすでに本社から通知が行っているところもある。しかし、個人経営のホテルや旅館などでは、周知されていないこともありそうだし、準備が整っていないこともありそうなので、支払い内訳書や宿泊証明書などは事前に印刷して持参した方が、当分は安心でしょう」と旅行代理店の担当者は話す。こうしたフォーマットは、日本旅館協会のホームページからダウンロードできる。

・27日以降は、順次、旅行代理店が割引済みの旅行商品を販売する

 7月27日以降、観光庁の認可を得た旅行代理店や旅館、ホテルなどは、最初から割引済の旅行商品を販売できるようなる。観光客は、すでに割引がなされた後の旅行代金(宿泊代金)を旅行代理店や旅館、ホテルに支払うことになるので、還付手続きは必要なくなる。

 ただ、まだ準備が整ってない場合も多いので、自分が支払う旅行代金や宿泊代金が割引済なのか、そうではないのかを確認し、もし割り引かれていない者の場合は、書類を整えて、還付請求をしなくてはならない。

・はっきり言って、よく判らない・・・・

 ここまで読んできて、疑問に思った方がもいるだろう。

 もう一度、整理してみよう。

 まず、Go to トラベルキャンペーンそのものは、実施期間を2020年7月22日から最長2021年3月15日とされている。個人旅行は2021年1月末まで、修学旅行に関しては2021年3月分までを対象とする方針が打ち出されている。ただし、予算額(1兆3500億円)到達すれば期間は短縮される。

 ところが、現在のところ発表されているのは、2020年8月31日までの宿泊についてであり、9月以降は未定とされている。

 また、9月以降は未定ながら、「現地で使える地域共通クーポン」の発行は、9月1日以降のいつかであって、まだ判らない。

 7月22日への前倒しも、東京除外の話もどうなのだが、どうも利用する側から見ても、非常に判りにくい。

実質半額になるのは、9月以降
実質半額になるのは、9月以降

・いっそ9月以降にする方が得?

 このGo to トラベルキャンペーンは、企画が発表された当初から疑問の多い事業だったが、実施を前倒しにしたせいで準備が間に合わずに混乱し、さらに新型コロナウイルスの感染者の急増で各方面から批判が強まっている。「なんとなく、旅行に出かけましょうという気分にならない」という意見も、筆者の周りでも多い。

 さらに、「実質半額」になるのは、9月以降だ。それまでは、35%引き。「ならば、今、慌ててでかけるよりも、9月以降で良いのではないか」となる人が多いのではないだろうか。

 そもそも、旅行者には35%の旅行代金で、旅行に出てもらい、15%相当の商品券を付けることで地域の産品などの売上げを上げることで、地方の商店や飲食店、製造業者などへの支援にするのが目的であるはずだ。ところが、準備が整わないままに見切り発車したために、経済効果も落ちてしまっている。

 旅行客の立場だけから考えると、「現地で使える地域共通クーポン」=商品券がもらえる9月以降に旅行を延期する方が得。しかし、それでは地方の疲弊している旅行産業には、間に合わないのではないか。拙速すぎた上に、新型コロナウイルスの感染拡大が再燃している以上、旅行産業を含む地方の中小事業者には、他の手段での支援策も検討すべき段階だ。

参考資料

 日本観光協会 「GoToトラベル事業 還付の申請書類について」 2020.07.23

 観光庁 「7月22日時点版 Go To トラベル事業」  2020.07.22

 観光庁 「サービス産業消費喚起事業(Go To トラベル事業)旅行者向け 還付取扱要領」

 観光庁 「旅行者向け Go To トラベル事業 事後還付手続きのご案内」

 観光庁 「サービス産業消費喚起事業(Go To トラベル事業)旅行会社・OTA 等旅行事業者・宿泊事業者向け取扱要領」

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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