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なんで自分の金を出すのに手数料が!? ~ 給付金や補助金の引き出しで損していませんか

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
(写真:アフロ)

・「なんで自分の金を出すのに手数料がかかるんだ!?」

 「なんで自分の金を出すのに手数料がかかるんだ!?」ある金融機関の窓口で、高齢の男性が憤慨していた。その金融機関では、一定金額の残金が口座に残っていない場合、自分の所有する口座からATMで現金を引き出すのにも手数料がかかる。「長い間、ほったらかしにしていた俺も悪いが、なあ、こんなのあるか?」と男性は、入り口に立っていたガードマンに話しかけながら、憤懣やるかたないといった風に店舗を出て行った。

 この金融機関だけではなく、多くの金融機関で預金残高や取引実績によって、サービスや手数料に差をつけることが一般化している。うっかりしていると、せっかく入金された給付金や補助金の引き出しで損してしまうかもしれない。

・銀行に口座を開くのはタダ

 日本では「銀行に口座を開くのはタダ」というのが長い間の「常識」だった。それどころか、硬貨数枚を持参して、口座を開設するだけで、貯金箱だの、食品用ラップフィルムだの、ティッシュペーパーを袋に一杯もらえたのははるか昔の話だ。

 欧米などの金融機関では、口座管理料が必要とされてきた。東南アジア諸国でも、口座管理料が必要な場合が多く、例えばシンガポールで銀行口座を開こうとすると、初回入金額や最低預金額が定められているほかに、ネットバンキングだけではなく従来通りの通帳が必要ならば別料金がかかる。最低預金額を下回れば、毎月口座管理料が差し引かれていくので、少額の口座を放置しておくといつの間にかお金が無くなっているということになる。

 日本でも、口座管理料の有料化が動き始めている。すでにメガバンク各行が、2年から10年といった長期間、出入金が行われていない放置口座で、一定以下の金額しかない場合は、口座管理料を徴収するようになっている。これらの動きは、将来的には諸外国と同様に口座管理料が導入されていく前段階だとも理解されている。預金残高が一定以下になれば、ATMの利用料金が必要になるのも、同様の流れだと言える。

・両替も有料に

 「キャッシュカードに、通帳だけでも、数百円くらいはかかります。それに開設に窓口に来れば、人件費もかかる。」ある金融機関の職員には、そう話します。「ATMも、実はかなり経費がかかります。缶ジュースの自販機とは違いますからね。トラブルに備えての人材、現金を詰めに行くための警備会社との契約、その他、一般の人が考えている以上にお金がかかっているので、できれば自行独自のものは縮小したいのが本音です。」

 有料化が進んでいるのは、ATMの利用だけではない。先日も、「貯金箱に貯めた小銭を銀行に持って行ったら、手数料を要求された」と知人が苦笑いをしていた。

 実は、昨年あたりから金融機関の多くで「大量硬貨取扱手数料」というのが新設されているのだ。例えば、みずほ銀行であれば、持ち込み硬貨の枚数が101枚以上になると550円、501枚以上だと1,320円、1,001枚以上になると1,980円で、それ以降500枚毎660円が加算される。ATMであれば手数料はかからないが、1回当り100枚程度までしか入金できない。手数料を払いたくなければ、自身でATMで時間をかけ、何回かに分けて入金するしかない。

・支店が無くなり、ATMも廃止に、そしてついには銀行そのものが

 政府が「景気対策」として続けてきたゼロ金利政策と、規制緩和により無店舗による低経費を武器に参入してきたネットバンクなどとの競合で、金融機関の経営は年々厳しくなっていた。

 金融機関では、経費削減のために支店の廃止統合を進めている。さらに、キャッシュレスになっていくことを前提にATMの統合や廃止も進めている。それでも以前は、コンビニATMなどでの利用料金を無料化することで利便性を維持してきたが、最近では、これも一定金額以上の預金残高が無ければ、無料回数が限定されたり、有料に変化してきた。うっかりして、自分の取引銀行が優遇設定をしていないATMで時間外に引き出すと、びっくりするような手数料を支払うはめになる。そして、ネットバンキングが利用できないと、様々なサービスを受けることも難しくなりつつある。

・手数料の増加と地域経済

 金融機関の各種手数料が上昇しているのは、ゼロ金利政策が銀行の利益を圧縮してきたからだ。さらに地方では高齢者が増加し、年金などの預金が増えてる一方、地方経済の悪化で優良貸出先が減るという傾向が、金融機関を追い詰めてきている。

 地方銀行を退職した元行員は、「未だに金融機関は余裕があるはずだから、地方企業に出資しろ、業績関係なく貸し出せという説を振り回す大学の先生がいるけれど、どこにそんな余裕があるのか。新型コロナウイルスの影響が拡大し、地方の経済がこれ以上衰退すれば、生き残れない地方金融機関がさらに出てくるだろう」と言う。さらに、「ネットバンキングで稼ぐ新興の金融機関に対抗するために、支店やATMの廃止や統合は一層、進むだろう。さらに金融機関同士の合併やグループ化が進み、各種手数料も少額預金者やネットバンキングを使用しない人たちへの窓口サービスなどでは、高額にならざるを得ない」とも指摘する。

・自衛するには、小さなことかもしれないが

 自衛するには、小さなことかもしれないが、個人や個人事業主ができることは、まずは取り引き銀行の口座を見直すことからだろう。いろいろな都合で気が付くと、複数の金融機関の口座に分散してしまっていることも多い。まずは、これらを整理し、優遇制度が受けられる預金最低額や給与振り込みや公共料金支払いなどの取引ポイントをクリアするようにするのが重要だ。災害も多くなっている中で、金融機関の貸金庫も需要が高くなっているが、支店の廃止統合などで空きが少なくなる傾向があり、さらに預金残高や取引ポイントが評価基準になっているケースが多い。

 もちろん利便性も重要だ。コンビニATMの利用料金や利用時間帯などが自分のライフスタイルに合っているかどうかも見直す必要がある。2020年5月から、東急電鉄が横浜銀行、ゆうちょ銀行のモバイル決済アプリを使って、駅の券売機から預金を引き出せるサービスを始めるなど、新たなサービスも始まっている。

 「給付金や助成金の申請やら振込やらで、自分の持っている口座とそのサービスを見直した。そうしたら、知らない間に、手数料が上がっていたり、支店が無くなっていたり、今まで無頓着すぎたと反省した。低金利時代だし、気を付けないと、いろいろな手数料などだけでもかなりの金額になる。」40歳代の自営業者の男性は言う。

 「なんで自分の金を出すのに手数料がかかるんだ!?」とがっかりしないためにも、すぐに自分の口座を見直した方が良さそうだ。そして、その背後で起こっている地域経済の問題にも目を向けてみてはどうだろう。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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