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感染者拡大が飲食店復活を断つ~6月末は70%近くまで回復したが

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
(写真:アフロ)

・6月末時点では70%近くまで回復

 ポスタス株式会社が7月16日に発表した「6月度の飲食店売上動向について」によれば、POSデータ調査結果が、6月は昨年比で売上は57%、客数は57%となった。4月はそれぞれ23%、客数27%、5月は31% 客数32%と大幅な減少を記録していたの比較すると、6月末には売上・客数ともに70%近くまで回復しており、上昇傾向を見せていた。

 5月14日以降、 段階的に緊急事態宣言が解除され、25日の全国緊急事態宣言が解除されたことで、徐々に客足が戻り始め、売上げも上昇してきた。しかし、ここへ来て、飲食店経営者たちに再び危機感と緊張感が強くなっている。

・6月中旬以降は鈍化

 売上をみると、5月14日以降、反転して増加傾向を見せ、25日の全国緊急事態宣言解除と、順調な回復を見せてきたが、6月中旬以降、回復のペースが鈍ってきていた。6月19日には、全国県境移動制限解除が発表されたが、好影響を与えたとは言い難い結果になっている。

 東京都内の飲食店経営者に話を聞くと、「緊急事態宣言解除で、近隣に住む常連客は戻ってきたが、それ以上は戻ってこないですね」と言う。都心部では、依然として大手企業は在宅勤務を継続しており、出勤するようになった人たちも以前のように帰宅途中に飲食店に立ち寄るということが減っているようだ。さらに、ソーシャルディスタンスの遵守もあって、客席数を減らしており、「客単価を上げなくてはいけない状態なのだが、チェーン店を中心に割引攻勢をかけていて、結局、売上げを下げることになっている」と先の経営者は言う。

出所:ポスタス株式会社 https://www.postas.co.jp/data/3/index.html
出所:ポスタス株式会社 https://www.postas.co.jp/data/3/index.html

・夜8時を過ぎると、パタッと人通りが減る

 時間帯別売上構成比を見ると、2019年にはデイタイムの売上構成が22%前後に対して、 ディナータイムの売上構成が77%前後となっていた。

 ところが、今年の4月と5月には、デイタイムの売上構成が36%前後まで上がった。6月には、それが一転し、25%まで下がり、 ディナータイムの売上構成は昨年並みに戻してきた。

 しかし、 6月の売上げの前年対比では、ディナータイムが55%、 デイタイムは65%とディナータイムの回復の遅れが目立っている。

 大阪市内で飲食店を経営する男性は、「夜8時を過ぎると、パタッと人通りが減るんですよ」と言う。「ランチや弁当などでなんとかと、いろいろ工夫をしてみているのですが、夜の売上げの落ち込みをカバーするほどは難しいです」とも言う。

・テイクアウトも苦戦

 売り上げの低下をカバーするために期待されたのがテイクアウトだが、売上げの昨年比で4月はデイタイムが36.3%、5月が49.8%、6月も65.1%。同様にディナータイムが18.1%、24.8%、54.9%と、いずれも昨年同期よりも大きく売上げを下げている。

 都内で料理店を経営する女性は、「だいたい外出自粛になっている中に、わざわざテイクアウトで買いに来てはくれませんよね」と言う。「チェーン店のように元々からテイクアウトをやっているのなら対応できるだろうが、個人店ではなかなか簡単にテイクアウトに取り組めない。うちでは常連客からの予約でお弁当を作って、取りに来ていただいてますが、やはり価格面では勝負できないですからね」とも言う。

出所:ポスタス株式会社 https://www.postas.co.jp/data/3/index.html
出所:ポスタス株式会社 https://www.postas.co.jp/data/3/index.html

・感染者急増が暗い影を落とす

 大阪で飲食店を経営する女性は、「ソーシャルディスタンスとか、感染防止だとか、いろいろお金をかけて設備をして、やっとこれからと言う段階で、これだと気持ちが折れそうです」と言う。「通天閣とか太陽の塔とかを色で照らしてとかはいいですけれど、支援金や補助金の入金は遅いし、テレビを見ても政治家の人も専門家の人も言っていることがバラバラで、どうして良いのか。もう店を閉めた方が良いのか、今月末には決めなくては。」

 京都でも外国人、日本人とも観光客の姿が消え、「もう9時頃になったら、深夜みたいに誰も歩いていない。うちは出張とかの東京からのお客さんも多いのですが、行きたいけど、迷惑かけるからと7月入ってからは全部キャンセルです」と京都市内で飲食店を経営する男性は話し、「インバウンドに依存し過ぎたのを、良い機会だから、もう一度、日本人の京都好きの人たちに来てもらうように進めたいねと、同業者たちと話をしていたのですが、この状況ではねえ」と言う。

 

観光客であふれていた京都先斗町も、先が見通せるほどに。7月15日夕方(画像・筆者撮影)
観光客であふれていた京都先斗町も、先が見通せるほどに。7月15日夕方(画像・筆者撮影)

・事態が急変したのならば、臨機応変に政策も変更すべき

 帝国データバンクが発表した2020年7月16日16時現在での新型コロナウイルスの影響を受けた倒産は、全国に346件、そのうち業種別で最多なのは、レストラン、居酒屋、喫茶店などの「飲食店」の51件だ。

 東京の中小企業支援団体職員は、「こうした数字で上がってくるのは、法的整理をしたものだけ。数字に上がってこない自主廃業は、こんな数じゃないです。都内では、3月、4月から休業のままシャッターが上がらず、そのまま廃業のところが多い」と言う。さらに「老舗企業や名物店でも、この先、7月末から8月の夏休み期間もこの調子ならば、資金が流出するだけなので廃業を決めるところが相次ぐ。来年になったら、すっかり飲食街の顔ぶれが変わっているだろう」と言う。

 危機的な状況になっているにも関わらず、その対応は遅れ気味だ。東京に次いで倒産件数が多い大阪でも、休業補償や休業外補償などの助成金の支払いが遅延気味で中小企業経営者の不満を耳にすることが多くなっている。政府の施策や政策も、「決めたものは簡単に変えられない」という姿勢が頑なだ。

 新型コロナウイルス感染者が再び急増している局面になり、新たな対応が不可欠だ。政府は街の経営者の声に耳を傾け、臨時国会を開会し、2020年度第2次補正予算で積み増した10兆円の予備費の含め、すでに執行しているものも含めて、状況に合わせた緊急対策を決定、実行すべきだ。政府、官僚に危機感が大きく欠けているのではないか。ここへ来て、感染者の拡大が、多くの飲食店復活を断つ可能性が大になっている。多くの中小企業、個人事業者を破たんさせ、失業者を大量に発生させれば、日本経済の復活は、新型コロナを克服しても、大きく遠のくことになる。

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神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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