「就職するより儲かる」、「相談してもムダ」は危険なサイン~就活生を狙うマルチ商法勧誘に注意

(写真:アフロ)

・「就活なんかムダだ」?

 ある駅前の喫茶店で、一際甲高く話す若い男性の声。若い女性を相手に熱弁を振るっている。

 「これがやりたいというので、君が就職活動をしているっていうのなら、尊敬するよ。でもさ、あれでしょ、親から言われてとか、周りが就活しているからなんじゃないの。それってさ、ムダじゃ無い?やっぱさ、やりたいことをやってさ、楽しくさ、お金も稼ぐっていうのが一番じゃ無いかなあ。オレはそう思って、大学中退して今のビジネス始めたんだけどさ。」

 時々、喫茶店やファミレスで目にするマルチ商法の勧誘だなと思ったが、いつもと少し様子が違う。

 「絶対に成功するなんては言わないよ。ビジネスだからさ、厳しさはあるよ。でもさ、そんな気持ちで中途半端な就活するよりさ、やりたいことしてさ、夢かなえようよ。うちのグループの社長も、元々、親が公務員で自分も堅い会社に入んなきゃって就職したけど、なんか違うって、会社辞めて、今のビジネスやって、いつも半分は海外で生活しているよ。外車も二台くらい持ってるし。オレはまだまだだけど、ビッグになれると思ってる。」

 若い女性は就活中の大学生らしいが、男性はいかに就職活動がムダなのかを力説する。そして、SNSを利用したビジネスで、誰でも簡単にできて、就職してもらう給料よりずっと良いという話をしている。

 「縁って大事じゃない。こうやって君とここでさ、ビジネスの話できんのもすっごい縁でしょ。でさ、まずさ、この出会いに感謝してくれて、オレが師匠で、君は弟子っていうことで、交流会に出てもらうことから初めて欲しいなあって。うちの交流会さ、すっごくて、普通の学生じゃ会えないような人がいっぱいくるんだよね。参加費がさ、少しかかるんだけど、そういうビックな人たちと縁を持てるって考えたら、大学の授業とかめじゃないっていうか。」

 話しながら自らが興奮しているのか、声がどんどん大きくなっている。

 「でさ、本音で言うとさ、ノルマっていうんじゃないんだけどさ、オレも毎月、弟子を入れなきゃいけなくてさ、君みたく優秀な子が入ってくれると、すっごい助かるんだよね。師匠として、ちゃんと支えていくから。」

 

 どうやら、本音が出てしまったようだ。さらに最初の交流会と勉強会の参加には3万円の会費が必要だと説明している。最初は簡単に払えそうな低額や無料の会費で誘い込むのも定石通りだ。しかし、今回、目撃した事例のほかにも、ここ数年、就活生をターゲットにしたマルチ商法の勧誘が激しくなっている。

喫茶店でマルチ商法の勧誘が行われていることも
喫茶店でマルチ商法の勧誘が行われていることも

・マルチ商法の被害者は20歳代が最多

 国民生活センターがまとめた2018年度のマルチ取引の年代別相談件数では、合計9759件のうち3891件、なんと40%が20歳代だ。マルチ取引とは、「商品・サービスを契約して、次は自分が買い手を探し、買い手が増えるごとにマージンが入る取引形態」を言う。取り扱われる健康器具、化粧品、学習教材、投資、為替なだと多岐に及ぶが、最近でSNSなどを作成することで収入が得られると勧誘し、その実、「儲け方」を教える教材を販売するという商材商法と呼ばれるものも増加している。

  

 国民生活センターと全国の消費生活センターをネットワークで結んでいる消費生活相談データベース(PIO-NET)によれば、ここ数年のマルチ取引に関する相談件数は、年間約1万件である。

・バイト先で、大学で、異業種交流会で

 大学生たちに話を聞くと、「バイト先でもっと簡単に稼げる方法があると勧誘された」、「突然、高校の同級生から電話があり儲け話があると言ってきた」、「就職活動で知り合った他大学の学生から社会人の人たちとの異業種交流会に来ないかと言われ、参加券を売りつけられそうになった」、「大学の先輩から、無料の講演会があるからと誘われたら、マルチ商法の勧誘会場だった」などという体験談が次々出てくる。一昨年からは、バイナリー・オプション(為替金融商品)で必ず儲かる方法を教える内容やAI(人工知能)システムが入っているというUSBを数十万円で学生に売りつけるというマルチ商法が流行している。セミナーや研修の参加やそれに付随する教材(商材)という名目だと、物品を販売するのとは異なるため、マルチ商法とは違うと勘違いする学生も多い。

 最近では、インターネットのSNSで悩み相談や自己啓発の記事などを読み、書き手と情報交換するうちに勧誘されたという事例も多い。学生たちに意見を聞くと、「ネット上で若者に人気のある芸能人なんかも、今の自分のままで良いとか、やりたくもない仕事をするくらいなら、おもしろおかしく金儲けをした方が良いとか言っているし、同じような話で勧誘されると、その気になるのも理解できないでもない」、「ネットで勧誘してくる人やその人の友人という人たちのページを見ると、高級な外車とか、海外のリゾートホテルとか、お金持ちの集まるパーティーとかの写真が公開されていて、もしかしたらそういう可能性もあるのかなあと思う」などと言う。

・自宅まで電話が・・・

 大学生の子供を持つある男性は、マルチ商法の勧誘が自宅まで掛ってきたと言う。

 「うちの子供はおもしろがって、電話をスピーカー通話にして、家族全員が聞けるようにして対応したのだが、切ろうとしてもこのご縁を大切にしたいだの言って、なかなか切らない。もう就職先が決まっており、そんなビジネスには興味が無いとやっと切った。」

 筆者が喫茶店で遭遇した勧誘と同様に、電話でも就職活動などムダだという論調で、呆れたと男性は言う。「こうした縁を大切にとか、出会いに感謝とか、よく言うよという言葉ばかりで、家族で笑わせてもらいました。」このように家族や知人と相談できる学生は恵まれている。

・「誰に相談してもムダ」が殺し文句

 こうした勧誘にはマニュアルがあるのか、最後に必ず言うことがある。

 「迷ってるのは仕方ないです。帰って、よく考えて、返事してくれたらいいです。でも、親や友人に相談してもムダです。だって、オレがそうでしたから、親も友だちも、おまえ、騙されているんだって、絶対、やめとけって。そこで止めていたら、今のオレはなかったですからね。だから、親や友だちに相談なんかしない方がいい。」

 高齢者のオレオレ詐欺でも、同様だが、誰かに相談されると困るのだ。人は、一人で考えると煮詰まってしまったり、同じ考えから脱却できなくなる。相手はそれが狙いだ。だから、誰かに相談されないように、すぐに行動するように促したり、このように相談してもムダだと思い込ませる。

・就活は辛い。しかし・・・

 慣れないスーツを着て、ネクタイを締め、あるいはパンプスを履き、だんだんと暑くなる街を歩く。第一志望の企業からは、お祈りメール(選考を通過できないと「今後のご活躍をお祈りいたします」と書かれたメールが来るので、学生たちはそう呼ぶ)が送られてくる。なにより、一体、自分がやりたいことは何で、どういった企業に就職したいのかも、曖昧で、はっきりしない。

 そんな時に、甘い言葉をささやかれると、そちらに逃げてしまいたくなる気持ちも判らないでもない。しかし、残念ながら、世の中に「絶対儲かって、誰でもできて、毎日楽しく、大金持ちになれる」ビジネスなんて、大学のキャンパスやバイト先にゴロゴロ転がっているはずがないのだ。就活は辛いが、ありもしない金儲け話に逃避しても、何も解決しないだけではなく、金だけではなく人間関係も、むしろ多くのものを失うことになる。もちろん、実際にそうした「ビジネス」で成功している人もいるだろうが、それは「宝くじで3億円当たっている人がいる」というのと同程度だ。

・保護者や教員も注意喚起を

 就職活動に疲れ、気持ちが揺れている時を狙って、自己啓発や生き方についての話をされると、ついそれにすがってしまおうかと考えてしまう学生もいるだろう。

 勧誘する側は、様々な理由付けを次々に学生たちに繰り出してくる。「就職のために必要な語学」であったり、「就職よりも、ずっと有利なビジネス」だったり、「普段会えないようなビッグな人たちが集まる異業種交流会」だったりする。最初は数万円と低額からスタートするが、次第に会費や購入しなくてはいけない金額が膨れ上がってくる。こうした勧誘のまま、費用を捻出するために多額の借金までしてしまう学生もいる。マルチ商法では強引な勧誘をしなくてはならず、友人関係をも失うことも多く、より孤立してしまい、相談する相手もいなくなることも多い。

 大学生といっても社会経験も知識も、まだ乏しい。保護者や教員も、日頃から違法なマルチ商法などに関して、学生たちに情報を提供したり、話し合っておく必要がある。なにか不審なことがあれば、すぐに最寄りの消費生活センターに相談することや、国民生活センターなどが提供する情報などを大学生たちに伝え、注意喚起することも大切だろう。