夢が無くなる初売りでいいのか? ~ 流通業界の正月休暇は広がるか

元日の新聞には初売りの広告が満載されてきた。(撮影・筆者)

・幸楽苑の「2億円事件」が話題に

 今年の正月休みの話題をさらったのは、ラーメンチェーン店の幸楽苑だろう。「売り上げ2億円を削ってでも、全店休みます」という広告は、インパクトがあり、話題となった。さらに、12月31日には、日本そばの写真を大きく配置し、「今夜はおそば屋さんで、年越しそばを食べてください。」と書かれたポスターも意表を突いたものだった。

 幸楽苑は、モール内の店舗を除き、12月31日の午後3時から1月1日の終日を全店休業とした。こうした休業を前面に出した宣伝広告は異例のものだが、一日の売り上げ2億円を削った分のPR効果を幸楽苑は手にしただろう。

 それにしても、ここまで流通業界や飲食業界の「正月休み」が話題になったのは、今までになかったことだろう。

・2019年の正月はどれくらいの店が休んだのか

 一昨年あたりから注目されている流通業界や飲食業界の年末年始の休業。今年は一体どういう状況になったのだろうか。

 昨年に引き続き、外食産業ではロイヤルホールディングスがロイヤルホストなどを1月1日を店休日として、全店を休業とした。また、大戸屋ホールディングスでも、大戸屋ごはん処の直営店の約半分を年末年始に休業とした。テンアライドも旬鮮酒場天狗や炭火串焼テング酒場などの店舗をすべて12月31日に一斉休業とし、一部店舗はその前後の年末年始にも休業とした。そのほか、31日から3日の間で、立地条件などを勘案して休業する店舗を増やしている企業も、年々増加している。

・百貨店業界とスーパー業界で対応に差が

 流通業界では元日休みが定着しつつあるように見える。百貨店では、元日と2日を休業とする三越伊勢丹グループを除けば、元日だけが休業で2日から初売りを始めたのが大半だ。しかし、セブン&アイ・ホールディングスの傘下のそごう・西武をはじめ、地方百貨店でもさくら野百貨店などでは、元日から初売りをする百貨店もまだ多い。

 年末年始の休業を導入する企業が増えているのは、スーパー業界だ。しかし、イオングループやセブン&アイ・ホールディングスの傘下のイトーヨーカ堂など、大手では元日営業を続けている。年末年始の休業の導入を進め、1月1日から3日までの三が日を休業としたのは、大阪の地場スーパーである万代(マンダイ)、東京都中野区のマルマン、神奈川県横浜市のオーケー、兵庫県加古川市のマルアイや、大阪府岸和田市のスーパーサンエーなど、むしろ中堅・中小のスーパーである。これら以外にも、昨年までは元日の一日だけの休業だったものを1月2日までの二日間の休業にしたスーパーも増加している。

・厳しい経営環境の中での判断が分れる

 飲食業界や流通業界は、若年労働者数の減少に加え、休みが取りにくく、長時間労働が常態化していることなどが嫌われ、志望者を確保することが困難になっている。さらに、アルバイトやパートの時給が上昇していることから、採算性も悪化している。

 飲食業界も、長年続いてきた低価格志向からの脱却が進まないままであり、激しい競争の中にある。さらに、税金や社会保険料の増加により勤労者世帯の可処分所得が減少している影響も出ている。

 流通業界も、ネット通販の急成長の影響を受け、業界そのものが急激に変化している。百貨店の売上減少の歯止めがきかない状況であり、さらに飲食業界と同様に消費者の低価格志向や可処分所得の減少も、大きな影響を与えている。

 いずれの業界も、地方部を中心に少子高齢化が進み、人口減少の影響が顕著になっている。売上の減少、利益率の低下、さらに人件費の上昇と従業員不足と、経営環境は次第に厳しさを増している。そんな中で、経営陣は対応を迫られている。

 2018年年末から2019年年始の飲食業界、流通業界の休業状況を見てみると、特に多数の店舗を持つ大手企業では、休業日や営業時間をいくつかのパターンに細分化して設定していることが判る。都心中心部のオフィス街の店舗では、年末から年始にかけての休業を行い、逆に観光客、初詣客などが見込まれる観光地やターミナルに隣接する店舗は営業するなど、「全店一斉」という従来のチェーン店舗管理から大きく変化を見せている。

・休まず売上の姿勢も

 そもそも30年ほど前ぐらいまでは、町中でも年末年始に営業している店舗はごくわずかだった。平成の始まった頃は、年末年始だけではなく夏のお盆期間中も同様だった。オフィスに出勤したのは良いが、ほとんどの店が休業しており、昼食を食べるのに苦労した経験を持っている40代以上の人は多いだろう。コンビニの24時間営業も、同じ頃、1980年代半ば頃に一般化した。

 現在のように、スーパーや飲食店の24時間営業や年内無休が定着したのは、この15年ほどのことだろう。そういう点では、日本での生活にこうした長時間営業の店舗が一般化してしまっていることも事実である。これを変えていこうというのは、なかなか難しいことでもある。

 売上高の減少が続く百貨店業界を見ると、首都圏をはじめとする大都市圏の店舗よりも、より厳しい状況にある地方の店舗の方が元日営業を行っている傾向が強い。「初売り」での売上高上昇に経営陣の期待がかかっていることも理解できる。

・夢が無くなる初売り

 スーパーを運営する企業の中には、全店での一斉休業に踏み切らず、実験的にいくつかの店舗で正月休業を実施するところもある。「なぜ開いていないのかというクレームも少なくない」とする流通企業社員は、次のようにも指摘する。「いつでも開いているというのをウリにしてきたものを正月休むというのは、経営陣だけではなく、現場の責任者にとっても、営業日数が減少するため、売上減に繋がる可能性があり、それだけに勇気のいることだ。」

 あるスーパーにアルバイトに行った学生は、「年末からインフルエンザや風邪で休む社員さんやアルバイトが続出し、人の手当てで大騒ぎになった。本来、休みのはずの社員さんまでがヘルプで呼び出されるなどしていた」と現場の混乱具合を話す。さらに「自分は接客とか好きなのですが、さすがに正月休めない仕事は、就職先として検討しないかな」とも言う。「初売りで夢を失った」というだけではなく、流通業界にアルバイトで行った学生の多くが指摘するのが、正社員たちの激務と疲労度合いだ。正社員を見て、憧れるのではなく、ああいった職場には行きたくないと言う学生が多いのは、残念なことだ。

 「私の担当する店舗では、学生バイトが思ったほど集まらず、むしろ子供の手の離れた主婦のパートさんが戦力になったが、人手不足も限界まで来ている」と別の流通企業の社員は話す。「最近はアルバイトやパートのマナーも低下しており、当日欠勤や無断欠勤などが年末年始には続出する。開店時間前に電話が鳴ると、また誰かが休むのかとぞっとする。そうしたストレスいっぱいの社員を見て、さらに学生たちの気持ちが離れていっていることを経営陣は理解すべき」と苦笑する。

 消費者側の理解は進みつつある。様々なアンケート結果を見ても、正月休業に対しての理解度合いは非常に高くなっている。したがって、休業していることそのものには消費者側も抵抗感はない。ただ、今回、数十社のホームページを閲覧してみたが、いずれも年末年始の営業、休業がはっきりと判るように表示されているものはなかった。「やっているのか、やっていないのか」を明確化しなければ、消費者にとって最も不愉快なのは、「行ってみたら休みだった」という状況なのだ。こうした点では、もう少し各社ともに工夫が必要だ。

・縮小する社会で快適に暮らすには、どの分野でどの程度の不便さをシェアできるのか

 「盆暮れ正月もありませんでは、これからの時代、就職したいという人が少なくなるのは当然でしょう。北海道のセイコマートのようにコンビニでも店休日を設定したり、営業時間の短縮に乗り出しており、それが多くの消費者にも受け入れられている。政府の働き方改革にもつながる話で、流通業界や飲食業界を変える良いチャンスだ」と、ある中堅流通企業の幹部社員は言う。しかし、その一方でイオングループやセブン&アイ・ホールディングスなど大手流通企業なども参画した業界全体での取り組みとしていくことも不可欠だとも指摘する。

 現在、流通業界、その中で小売業で働く人たちは、全国で、従業者数は765万4443人(2016年)もいる。さらに、運輸業など関連する分野も含めれば、年末年始に営業するために働かなくてはいけない人たちは、より多くなる。

 当分の間、急激な人口減少が続くことからは避けられない。そんな中で、できるだけ多くの人が、より快適に生活するためには、取捨選択するべきことも多い。年末年始の休業によって、今よりも少し不便になるかも知れない。しかし、そこで働く人たち、さらには関係する業界の多くの人たちの生活環境を改善するために、まずは年末年始の休業を前向きに社会全体で取り組む時期になっているのではないか。