物分かりの良い乗客に負担を押し付け? ~ 急増する乗客に「人員削減」で対応なのか

平常時でも長蛇の列になる切符売り場(撮影筆者)

・増加する観光客とビジネス客

 国際観光振興機構(JNTO)の発表によると、2018年5月の訪日外客数は前年同月比16.6%増の267万5千人。前年同月を38万人以上上回り、5月として過去最高を記録した。2018年に入ってからの1月から5月の5か月間の訪日外客数は、13,194,400人となり、前年同月比15.6%増と好調に増加している。

 以前は、夏季休暇や春節の時期など特定の時期だけに多かった外国人観光客が、年中、目に付くようになった。

・東海道新幹線の乗客も増加

 JR本島各社も、新幹線を中心に乗客が増加し、2月に発表になった2017年4月から12月期の連結決算は、いずれも好調だった。

 JR東日本が売上高2兆2,070億円で前年同期比2.1%増、純利益も6.2%増の2,688億円、JR東海が売上高1兆3,743億円の4.2%増、純利益が2.6%増の3,397億円。JR西日本は売上高1兆1,113億円の4.3%増、純利益が17.2%増の1,084億円。外国人観光客の増加だけではなく、国内景気の安定からビジネス客や観光客も増加している。

 

・車内のトラブルも増加している

 「お客様同士でのトラブルはよくあります。海外からのお客様は、大きなスーツケースをいくつも持ち込みますから。」東北新幹線の車内で、車掌は申し訳なさそうにそう話す。長期間の旅行を楽しむ外国人観光客は、大きなスーツケースを車内に持ち込むが、自席に置けないために、車両の最後部の座席の後ろに置く。そうすると、最後部の乗客はリクライニングを使えなくなり、車掌に苦情が来る。

 「座席の上の荷物棚も大型になっていて、ある程度のスーツケースは載せられるのですが、大きくて重いものは持ち上げることはできませんし、仕方なくデッキに置くことが多いのですが。」東海道新幹線の車掌はそう話す。

 JR東日本やJR西日本の一部の新幹線車両には、荷物置き場が設けられているが、JR東海の新幹線車両には設けられていない。

大きなスーツケースの置き場がなくトラブルに発展することが多い。東海道新幹線車内。撮影筆者。
大きなスーツケースの置き場がなくトラブルに発展することが多い。東海道新幹線車内。撮影筆者。

・5月24日の信号トラブル

 5月24日の夜、東海道新幹線の米原駅で信号障害が発生し、長時間、運転見合わせが起きた。午後8時半ころに障害が発生し、運転の見合わせが起き、その後、11時ころになって運転再開したものの、再び停止。結局、多くの列車が新大阪駅に到着したのは25日未明だった。

 筆者も、11時ころに名古屋駅で運転再開を聞き、乗車したものの、発車後に再び停車。結局、新大阪駅に到着したのは、午前4時だった。新大阪駅では、仮眠用の車両が用意されており、車内アナウンスで「京都駅では用意がないので、新大阪駅まで行ってほしい」という案内がなされた。

未明に到着したものの仮眠用車両はすでに満席。毛布やマットなども配布されない。疲れ果ててベンチに座り込む人たちの姿も。(5月25日午前4時ころの新大阪駅・撮影筆者
未明に到着したものの仮眠用車両はすでに満席。毛布やマットなども配布されない。疲れ果ててベンチに座り込む人たちの姿も。(5月25日午前4時ころの新大阪駅・撮影筆者

 新大阪駅では、すでに多くの人が溢れており、停車している仮眠用の車両も満席状態であり、駅のベンチは以前とは異なり、横にもなれず、床や階段に座り込む人が多かった。改札口には、案内や払い戻しを求める人が列を作り、さらに交通機関がないために、ホテルがある人たちも、「結局、タクシーに乗るまでに2時間待たされた」(東京から大阪に出張してきた会社員)という状況だった。毛布やシートが配布されることもなく、飲料水や食事の提供もなされていなかった。

改札口は問い合わせる人で長蛇の列。払い戻しも諦めて帰る乗客も。(5月25日午前4時・新大阪駅・撮影筆者)
改札口は問い合わせる人で長蛇の列。払い戻しも諦めて帰る乗客も。(5月25日午前4時・新大阪駅・撮影筆者)

 多くの乗客が困っている状況にもかかわらず、充分な駅員が配置されておらず、特に外国人たちは情報が得られず、困っている人も多かった。新大阪駅では、一部の出口が閉鎖されてしまっており、ホテルへの道筋が判らず。外国人観光客と一緒に日本人も右往左往していた。

・なんの補償もしないのか

 

 「台風や災害なら仕方ないが、自分たちのミスでこれだけのことを引き起こして、なんにもしないで済むんだ。航空会社なら、なんらかの補償をするだろうに。」動かなくなった車内で、出張帰りだというサラリーマンが言う。運送規約では、2時間以上遅れが発生すれば、特急料金を払い戻すことになっており、それ以上の補償はない。しかし、「今回の遅れは、JR東海のミスで発生したものだ。少なくとも新大阪駅から大阪市内までは臨時バスの運行などをすべきではないのか」(大阪への出張に来ていたサラリーマン)の意見も外れているとは思えない。

 払い戻しすら、「案内がなかったので、疲れていて、長い列に並ぶ気力もなく、そのまま帰ってきてしまった。」(東京から出張帰りだった中小企業経営者)という人がいるように、車内や駅のアナウンスで払い戻しについての案内はほとんどなかった。さらに、新神戸駅では返金処理機が故障して、別の日に来るように乗客が要請されるなど、トラブルが相次いだ。

 チケットレスで乗車できるエクスプレスカードの利用者は、自動改札を通過するだけで、後日返金される。長い列に並ばなくて済むのは助かるが、「エクスプレス予約をご利用いただきありがとうございます。以下のとおり、予約を払い戻しました。」の文言だけで、特急券分だけ払い戻されて終わり。形だけでもお詫びの一言はないのかと思う。

・乗客が増加しているのに、人員削減

 現場の車掌や駅員たちが、必死に対応していることは見ていても理解できる。しかし、ここまで乗客が増加し、しかも外国人観光客が増加している中で、JR各社が人員削減を進めていることも、混乱に拍車をかけている一因ではないか。

 6月9日夜には、東海道新幹線車内で殺人事件が発生した。それでも専門家やジャーナリストの論調は、不思議なことに、JR東海が今年になって車掌を一編成当たり3名から2名に減員し、関係子会社の社員であるパーサーに業務の一部を移管したことなどへの理解を示すものが多かった。

 東海道新幹線では一編成約1,000人の乗客がいる。航空機では乗客約50名に対して1名の客室乗務員が保安要員として乗務することが義務付けられている。航空機とは異なるとは言っても、1,000人に対応する正社員が2人しかおらず、別会社の社員に権限を与えて対処せるという手法は、もう少し問題視されてもよいはずだ。もちろん収益性の確保や、労働力不足への対応など、致し方ない部分もあるが、本当に安全性に死角は生まれていないだろうか。

政府は外国人観光客をさらに誘致する計画だ。(撮影筆者)
政府は外国人観光客をさらに誘致する計画だ。(撮影筆者)

・物分かりの良い乗客に負担を押し付けていないか

 日本人の乗客は、物分かりが良く、トラブルが発生しても騒ぐことはない。それが美点の一つとして指摘されることが多い。しかし、JR各社の経営陣は、そうした風潮に甘えていないだろうか。利用客が増加し、自然災害なども増加している中で、平常時だけを見て、人員削減を強行することは、経営上のリスクを高めるだけではなく、サービスレベルと同時に安全性も低下させ、利用客にもリスクを負担させることになる。

 「嫌なら利用するなという驕りが出てきているのではないか。」やはり5月24日のトラブルに巻き込まれたある企業の幹部社員はそう指摘する。今後、東京オリンピックなどを控え、さらにインバウンド誘致を図り、外国人観光客を増加させると政府は発表している。そんな状態で「おもてなし」などできるのだろうか。