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タクシーの形が変わる。私たちの生活スタイルが変わる。~JPNタクシーとUDタクシーが街を走り始めて

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
トヨタ自動車のジャパンタクシー(JPN TAXI)(写真:ロイター/アフロ)

・「同じ値段なの?」

 都内のタクシー乗り場で、いつもとは違うミニバン型の車両が来た。筆者の前に立っていた老婦人は、「これ、乗ってもいいの?」と戸惑った声を上げた。

 トヨタ自動車が2017年10月の東京モーターショーで出展したタクシー専用車JPN TAXI(ジャパンタクシー)は、同時に販売も開始され、あちこちで走り始めた。トヨタ自動車の発表によると、月間目標販売台数は1000台。2020年までには東京都内を走るタクシー約3万台のうち、3台に1台をこのJPN TAXIにする計画だ。

 東京都内を中心に、タクシーの形が急激に変わろうとしている。従来のセダン型に慣れてきた私たちには、少し戸惑うが、やがてこちらの形が普通になっていくのだろう。実はトヨタ自動車のタクシー車両のシェアは、9割程度だ。街で見慣れたタクシーのほとんどが、セダン型のトヨタ車だったが、これらは2017年に販売生産が終了し、今後はミニバン型のこのJPN TAXIに置き換わっていく。

京都でもあと数年でタクシー乗り場の光景が変わる(筆者撮影)
京都でもあと数年でタクシー乗り場の光景が変わる(筆者撮影)

・京都では、5年後には大半のタクシーがミニバン型に

 観光客の多い京都でも、2017年11月から導入が始まっている。今後、多くのタクシー事業者で5年程度ですべての車両がJPN TAXIになる予定だ。

 実際に京都駅から乗ってみる機会があった。スライドドアで乗り込め、天井も高い。座面も高いために、前方の眺めも良い。後方の荷物スペースもあり、確かにこれだと大きなスーツケースも載せられる。「運転もしやすいし、お客さんにも好評ですよ。ただ、ジャンボタクシーと間違えて、高いのじゃないかと乗る前にお聞きになるお客さんもいますよ。」と運転手が言う。

・黄色のUDタクシーが急増した鳥取県

 鳥取駅のタクシー乗り場に向かって、驚く人が出てくるのは当然かも知れない。黄色のミニバン型のタクシーが並んでおり、ボディには「UD」と書かれている。中には福祉タクシーだと思って、乗って良いのか迷う人もいるようだ。こちらのタクシー車両は、日産自動車のNV200タクシー ユニバーサルデザインである。

 この黄色のUDタクシーが導入されたのは2016年4月からだが、2017年末までで125台が走り、さらに2018年1月中にはさらに75台が導入されて、合計200台が走り回る。鳥取県のタクシー台数は722台(2017年9月時点・鳥取県ハイヤータクシー協会)だから、約4台に1台がUDタクシーとなる計算だ。大型などを除いて、駅のタクシー乗り場で待っている普通のタクシー車両では、実に3台に1台の割合になる。

 鳥取県にUDタクシーがここまで導入されたのは、鳥取県と日本財団が行っている「みんなでつくる”暮らし日本一”の鳥取県」のプロジェクトの一環で、公共交通機関の在り方を考える中で、UD=ユニバーサル・デザイン=「高齢化や人口減少が進む地域の足となり、年齢・性別・障害の有無にかかわらず、誰もが移動しやすい、新たな公共交通のモデル」(日本財団資料より)として補助を行ったからだ。

・NYのイエローキャブでも走っているNV200

 このUDタクシーは、日産自動車のNV200タクシーがベースである。2007年の東京モーターショーでコンセプトカーとして出展され、

2009年に日本ついでヨーロッパで販売が開始され、2010年には中国で販売が開始された。日本国内と海外の5工場で生産されるほか、OEMによる供給も行っている日産の世界戦略車だ。さらに、リーフに次ぐ量産型電気自動車として、2014年10月からe-NV200が販売開始されている。

日産・e-NV200 (筆者撮影)
日産・e-NV200 (筆者撮影)

 タクシーとしては、2010年に国土交通省が定めるユニバーサルデザインタクシーとして初の認定を受けたNV200タクシー ユニバーサルデザインが発売されている。海外でもロンドンタクシーやニューヨークのイエローキャブなどの特別仕様車がある。

 NV200タクシー ユニバーサルデザインは、車いすをそのまま載せるスロープが後部ドア下部に収納され、ドアの開閉に合わせてステップも出てくるようになっている。高齢者や車いす使用者など、大きな荷物を持った旅行者などにも利用しすくなっている。

 日産自動車もタクシー向けにセダンタイプを販売していたが、こちらも2014年に生産販売停止となっており、今後はこのNV200タクシー、NV200タクシー ユニバーサルデザインに置き換わっていく。

・タクシーの未来は・・・

 タクシー乗り場の風景が急激に変わることで、外国人観光客が増加していることを話題にする人もいるだろう、オリンピックが近づいてることを話題にする人もいるだろう、あるいは高齢者の増加を話題にする人もいるだろう。

 

 そんな中でも、地方部においては、これからの公共交通機関についての議論のきっかけともなっているようだ。人口の急激な減少による乗客の減少、高齢化による運転手不足など、深刻な問題が顕在化してきている。鳥取県のプロジェクトも単にUDタクシーを導入するだけのものではなく、そうした問題をいかに解決していくのかという大きな問題に取り組んでいる。

 ある地方のタクシー会社経営者は、「ここまで深刻な人口減少になると、思っているよりも自動運転車の活用が早くくるのではないか。乗客を運ぶだけの場合には、自動運転車も良いかもしれない。そうなった時に慌てないように、今から準備が必要だ。しかし、一方で人でしかできないサービスも残るだろう。どちらかだけというのではなく、経営者は両にらみでやっていく必要がある。さらに、地域から必要とされるサービスを提供しなくては生き残っていけない」と言う。

・タクシーの形が変わるのは、生活スタイルの変わる象徴か

 タクシーが変わるのは形だけではない。昨年からは、ウーバーに加えて日本最大手のハイヤー・タクシー会社日本交通による全国タクシーのアプリも、Google マップで利用できるようになった。Google マップは走行しているタクシーの位置がリアルタイムに表示されるようになった。地図を見ながら、タクシーを呼ぶことができるようになったのだ。

 ビッグデータの活用、位置情報サービスの活用などは、タクシー業界を大きく変化させている。タクシー利用者は平成元年の33万人から減少傾向が止まらず、平成26年には16万人と半減している。こうした市場の縮小の中で、どういった取り組みができるのか。こうした流れは、タクシー業界だけのものではない。国内を市場としている多くの産業、企業も同じである。

 タクシーの形が変わるのは、私たちの生活スタイルが変わる一つの象徴かもしれない。悲観するばかりではなく、メリットをいかに大きくするかに知恵を絞っていきたいところだ。

 

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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