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回転ずし?焼き肉?それとも、そうめん流し?~鹿児島の夏の贅沢

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
谷山観光協会直営 慈眼寺そうめん流し

日本全国画一的になったと言うものの、まだまだそれぞれの地域地域には、特色ある食文化が根付いています。

そんな中でも、「町おこし」からスタートした新しい名物が、複数の場所で定着し、成功している例というのは珍しいと思います。

・そうめん流しと流しそうめんは違う

鹿児島に行き、行きつけの料理店で常連客と店の大将と話している時、なんの拍子からか、「そうめん流し」の話になりました。竹を半分に切って、樋のようにつないで、水を流し、そこにそうめんを流す。そう思ったら、「それは、流しそうめん。こっちのは、そうめん流し」さらに、「鹿児島に何度も来ているのに、行ったことがないのか。それでは、ダメだ」とまで言われてしまいました。

・本当に楽しいのか・・・?

「円形の水が回っている機械があって、そこにそうめんを入れると、くるくる回る。それをみんなですくって食べるんだ。楽しいよ。」そうめんを目の前をくるくる回っている水の中に入れて、それをすくうのが楽しいのか。話を聞いているだけは、なぜ常連客の人たちと大将が、「あんな楽しいものはない」と言っているのか、理解できません。

しかし、「それでは、ダメだ」とまで言われると、やっぱり一度は行ってみないとと、今回、鹿児島に行く用事があったので、実際に行ってみることにしました。

・慈眼寺そうめん流し

流しそうめんの元祖は鹿児島県指宿市の唐船峡です。しかし、今回は時間的に制約があり、鹿児島市内の谷山観光協会 直営慈眼寺そうめん流しに行ってみました。

鹿児島中央駅から、車で約30分。戸建て住宅が並ぶ宅地を抜けて、山を上がると、深い森と湧き水が流れる清流のある公園に着きます。そこにあるのが、慈眼寺そうめん流しです。

清流の流れと湧き水の流れでる音が涼し気で、空気も少しひんやりしているようです。川沿いにずらりとそうめん流し器が並んでいます。

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・元祖町おこし

回転式そうめん流し器は、1967年(昭和42年)に当時の揖宿郡開聞町の井上広則助役(後に町長も務める)が開発、特許も取得し、町おこしのために唐船峡で町営のそうめん流し場を創業したのが始まりだそうです。これが、現在の指宿市営唐船峡そうめん流しです。豊富な湧き水を使ったそうめん流しが話題を呼び、その後、このそうめん流し器を使ったそうめん流し場は鹿児島を中心として、九州各地で開設されるようになります。

地元の湧き水を使うことで、動力は不要。井上氏はこの回転式そうめん流し器の特許を一式、1970年(昭和45年)に開聞町に譲渡したのです。元祖町おこしの事例と言えます。豊富な湧き水と、夏に食べるそうめん。どこにでもありそうな地元の資源を、うまく使った町おこしだったからこそ、50年も続いてきたのでしょう。

今回訪れた慈眼寺そうめん流しも、観光協会直営。どことなくアットホームな感じがするのはそのせいでしょう。お客も大半が観光客というよりも、地元の人たちが多かったです。

・回転ずし?焼き肉?それとも、そうめん流し?

さて、肝心のそうめん流しですが、お昼時、多くの家族連れで賑わっていました。地元の方に聞くと、夏のこの時期、家族で食事でもとなると、「回転ずし?それとも、焼き肉? それか、そうめん流しに行く?」となると言います。

確かに暑い夏に、冷たい湧き水が流れる木陰で食事を採るのは、気分が良いです。火は一切使いませんから、バーベキューや焼き肉のように暑くもならなければ、煙りなども出ません。さらに値段はリーズナブル。鹿児島の人たちは、贅沢だなあと思ってしまいます。

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・桜島型のそうめん流し器

緑の森の中に、赤いそうめん流し器が映えます。湧き水の勢いをそのまま回転力に使っていますから、モーターやポンプがある訳ではなく、静かです。

結構な勢いで、水がくるくると、ちょうど洗濯機の中のように水が流れています。湧き水なので、ひんやりしています。そうめんが絡まらないように、中央部分からも水が勢いよく出ています。豊かな湧き水を使っていますから、まさに「源泉かけ流し」状態。店員の方は「鹿児島だから、桜島の形なんです」と言います。

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・すくうのは結構、難しい

そうめんを適当にとって、回転する水の中に入れると、勢いよくそうめんが流れます。思ったよりも、すくうのが難しく、楽しめます。ちなみに、通常型は時計と反対周りに水が流れます。左利きの人の場合、すくうのが難しいので、その場合はちゃんと時計回りに流れる台があるそうです。

子供たちはもちろん、大人も楽しみながら、そうめんをすくっては、鹿児島地方の甘みの強い出汁に入れて食べます。

・鹿児島の夏の贅沢

鯉の洗いや両棒餅(じゃんぼもち=みたらし団子によく似た鹿児島の郷土菓子)などもあり、自然に囲まれた中でゆっくり楽しむことができます。

確かにこれは、鹿児島の人たちが強く勧めてくるだけのものはあるなと感じました。町おこしが生んだ「鹿児島の夏の贅沢」。やっぱり、実際に行ってみないと判らないものです。

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谷山観光協会(直営慈眼寺そうめん流し)

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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