男性トップ棋士を次々なぎ倒し囲碁棋戦で準優勝 上野愛咲美女流棋聖 強さの秘密

表彰式で準優勝の目録を手にする上野愛咲美女流棋聖=2019年9月23日、筆者撮影

将棋の藤井聡太七段と同じ17歳の囲碁棋士、上野愛咲美女流棋聖が、一般棋戦(全棋士参加:性別年齢関係ない棋戦)「竜星戦」(囲碁・将棋チャンネル主催)で準優勝した。これは女性で史上最高位となる快挙だ。

歴史の扉をひとつ開いた上野女流棋聖の強さはどう育まれたのだろうか。

早碁三冠王をあと一歩まで追い詰める

上野女流棋聖は、326人が参加した予選からベスト16の本戦に進出。

そこから、元名人の高尾紳路元九段、現役タイトルホルダーの村川大介十段、前碁聖の許家元八段と、トップ棋士に連勝して決勝戦に臨んだ。

決勝の相手は、早碁三冠王の一力遼八段(22歳)。

序盤で劣勢になるものの、中盤戦で力を出し、一力八段が「負けを覚悟した」ところまで追い込んだ。しかし、最後の詰めで「勝ちの手はいくらでもあるけれど、唯一、そこだけは負ける」という手を打って涙を飲んだ。

とはいえ、女性でも男性のトップ棋士と遜色ない戦いができることを結果で証明した功績は大きい

「猛然と倒しに行く」長所を伸ばす

「戦闘的。弱い石を見たら猛然と倒しに行く。そういうものと思っている」

師匠の藤澤一就八段の上野評だ。

ふだんはおっとりとした雰囲気の天然キャラだが、盤上では全く違う

「ハンマーを振り回す」と例えられる豪腕で、相手の石を仕留めに行くのだ。

「猛然と倒しに行く」碁は、リスクが高い。

そんな碁を打つ子どもは多いものだが、たいていの指導者は、「攻めが続かなくなったら負けになるので、もっとバランス良く」とアドバイスするだろう。攻め一本ではなかなか勝率が安定しないというのが、多くの棋士が経験した上で得た見地だからだ。

碁は、盤上のスペース(地)を広く囲ったほうが勝ちのゲーム。攻め倒し、相手の石をたくさん取ることで相手の地を減らしたりすれば勝ちになるが、倒せなければ地の確保に手がまわらず負けてしまうケースが多いのだ。

上野女流棋聖の戦闘的な碁風は子どもの頃からだった。格上のインストラクターとの指導対局でも猛然と戦って石を取りに行っていたという。

そんな上野女流棋聖に、師匠は「すごいねー、こんな石取っちゃうの?」と褒めて、いいところを伸ばす声かけをした。

「石を取りたいのなら、取りに行けばいいのです。愛咲美はすごいキバを持っているのですから。でもそのかわり、それを達成するための読みの力、判断力、後半のまとめ上げる力などをつける必要があると話しました」と藤澤八段。

こんな環境のもと、上野女流棋聖はアドバイスを受け止め、長所を伸ばし、めきめきと力をつけていった。

プロ入り当初は多かった逆転負けも少なくなり、むしろ逆転勝ちできる自力がついた。

信じられないくらいの快挙を自然体で

もうひとつの長所は、メンタルだ。

決勝戦の前は、妹の中学1年生棋士・上野梨紗初段(仲邑菫初段と同期)と夕ご飯を一緒に食べ、遊んで過ごしたという。

棋士控室で待機しているときも、にこやかな笑顔を見せ、緊張したそぶりは全くない。同世代の棋士らと明るく談笑していた。

対戦相手の一力八段も「信じられないくらいの快挙を自然体でリラックスして打てるのはすごいことです。自分も17歳のとき決勝戦に臨んだのですが、緊張して自分らしい碁が打てなかった。ふがいない碁だったのを覚えています」と上野女流棋聖を賞賛した。

囲碁界は国内だけでなく、国際棋戦がある。世界戦での優勝は日本の悲願だ。

上野女流棋聖の活躍は、日本の未来が明るいことを期待させてくれた。

囲碁観戦記者・囲碁ライター。神奈川県平塚市出身。1966年生まれ。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。お茶の水女子大学囲碁部OG。会社員を経て現職。朝日新聞紙上で「囲碁名人戦」観戦記を担当。「週刊碁」「NHK囲碁講座」「囲碁研究」等に随時、観戦記、取材記事、エッセイ等執筆。囲碁将棋チャンネル「本因坊家特集」「竜星戦ダイジェスト」等に出演。棋士の世界や囲碁の魅力を発信し続けている。著書に「井山裕太の碁 強くなる考え方」(池田書店)、「それも一局 弟子たちが語る『木谷道場』のおしえ」(水曜社)、「囲碁の人ってどんなヒト?」(マイナビ出版)。囲碁ライター協会役員、東日本大学OBOG囲碁会役員。

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