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ウラン生産国ニジェールが駐留米軍に撤退を要求――代理戦争と地域分断を警戒するアフリカ

六辻彰二国際政治学者
外交関係悪化に伴いニジェールから撤退するフランス軍将兵(2023.12.22)(写真:ロイター/アフロ)
  • 西アフリカではニジェールにおける昨年のクーデタ以来、ニジェールを含む3カ国とそれ以外の国の間で対立が深まっている。
  • この対立を加熱してきたのは、ニジェールの資源開発などに既得権を持つフランスと、なりふり構わずアフリカ進出を目指すロシアのテコ入れである。
  • この対立の果てにニジェールが駐留米軍にも撤退を求めたことで、この地域でロシアが隠然と影響力を伸ばすのはほぼ確実とみられている。

 アフリカの貧困国が超大国アメリカに部隊の撤退を求める。こうした逆転現象は西アフリカのサハラ砂漠一帯、いわゆるサヘル地域での緊張と分断の果てに生まれた。

西アフリカに生まれた新同盟

 サヘルでの緊張のきっかけは、ニジェールで昨年7月末にクーデタが発生し、その対応をめぐって周辺国が分裂したことだった。

 周辺国が加盟する西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)はクーデタを批判し、経済制裁を発動しただけでなく軍事介入も示唆した。

 これに対して、やはり軍事政権のマリとブルキナファソは反対しただけでなく、ニジェールへの軍事介入を「自国への宣戦布告とみなす」と牽制した。3カ国は相互防衛協定を結んでサヘル諸国同盟を発足させたうえ、今年1月にはECOWAS脱退を宣言した。

 こうして緊張が高まった結果、ECOWASは2月末に制裁解除を決定した。これはECOWASが軍事介入を事実上諦めたことを示唆する。

 これに先立って、西アフリカのリーダー格ナイジェリアのクリストファー・ムサ司令官は「戦争をしたがっている者がいる」、「この地域を代理戦争の場にしてはならない」と述べ、外交的な問題解決を目指すべきと強調していた。

 ムサ司令官は具体名をあげなかったが、前後の文脈からフランスとロシアを指すとみてよい。フランスはニジェールへの軍事介入にECOWAS加盟国以上に積極的で、これに対してロシアはサヘル諸国同盟にテコ入れしているからだ。

反フランス感情とクーデタ

 フランスが軍事介入に積極的なのは、ニジェールの軍事政権が「フランス離れ」を鮮明にしているからだ。

 クーデタから約1ヶ月後の8月末、軍事政権はフランス大使に国外退去を命じた他、駐留フランス軍も撤退することになった。

 フランスはクーデタを強く批判しているが、それは表向きで強調される「自由と民主主義」だけが理由ではない。

 ニジェールを含むサヘルの多くを19世紀に植民地にしたフランスは、1960年前後に各国が独立した後も、この地域で大きな影響力を保ってきた。フランスにとって国際的な足場であると同時に、重要な資源供給地でもあったからだ。

【資料】アルジェリアのイン・エッケルにあるフランス植民地時代の核実験場跡地(2007.2.16)。現在でも放射能汚染により立ち入り禁止になっており、アルジェリア政府はフランスに謝罪を求めている。
【資料】アルジェリアのイン・エッケルにあるフランス植民地時代の核実験場跡地(2007.2.16)。現在でも放射能汚染により立ち入り禁止になっており、アルジェリア政府はフランスに謝罪を求めている。写真:Reuters/AFLO

 ところがアフリカでは近年、クーデタが多発している。マリ、ブルキナファソ、ニジェールなどでのクーデタは先進国から批判されても、それぞれの国内では支持の方が目立つ。多くのクーデタは、経済停滞やテロ多発などの社会不安と広範な政府批判を背景にしているからだ。

 そのためクーデタを主導する勢力が、危機に対応できない政府とズブズブの関係を築いてきたフランスにも敵意を示すことは不思議でない。

ウラン輸入の35%はニジェール産

 たとえばエネルギー自給を大方針にするフランスは原子力発電も重視しているが、輸入するウランの約35%はニジェール産である。

ニジェールのアーリットにあるウラン鉱山(2013.9.25)。経営するSOMAIR社の株式の63.4%はフランスのORANO社が、残りはニジェール国営ONAREM社が保有する。
ニジェールのアーリットにあるウラン鉱山(2013.9.25)。経営するSOMAIR社の株式の63.4%はフランスのORANO社が、残りはニジェール国営ONAREM社が保有する。写真:ロイター/アフロ

 フランス政府が大株主である原子力企業オラノは、ニジェールにある主なウラン鉱山の経営権の過半数を保有している。

 クーデタでバズム大統領を拘禁したチアニ将軍は、大統領警備隊の責任者だった。チアニはバズムが進めた汚職対策で自分が排除されることに懸念を募らせたともいわれる。

 とすると、このクーデタは単なるチア二の自己保身ともいえるが、それでもニジェールでクーデタ支持の世論が吹き上がったことが、フランスの危機感を強めたことは自然な成り行きだ。

 ニジェールではウラン以外にも、金、石油などが産出する。しかし、その開発は一部の特権階級と外国企業に利益をもたらしたが、ニジェールの貧困層にはほとんど恩恵をもたらさなかった(俗に「資源の呪い」と呼ばれる)。

 この背景のもと、フランスはECOWAS加盟国の軍事介入を積極的に支持してきたが、それと並行して「フランスが独自に軍事行動を起こそうとしている」という疑惑もしばしば浮上している。

 軍事政権は昨年9月、「ニジェール攻撃を念頭にセネガルやコートジボワールの基地に兵員や武器を集結させている」とフランスを批判した。これに関して記者会見で質問されたマクロン大統領は明言を避けた。

ロシアのテコ入れ

 クーデタをきっかけに、封印されていた反フランス感情が噴出したのはニジェールだけではない。周辺のマリやブルキナファソも同じだ。

 それはアフリカ進出を加速させたいロシアにとって、またとない「敵失」だったといえる。

 フランスやECOWASとの対立がエスカレートしていた1月、ニジェールはロシアと安全保障協力を強化することに合意した。それによると両国はニジェールの「戦闘即応体制の強化」のための協議を続けるという。

 ロシアはフランスと対照的に、ECOWASの軍事介入に反対する一方、ニジェールだけでなくマリやブルキナファソに対しても、イスラーム過激派対策などを名目に軍事協力を加速させている。

 さらにロシアはマリブルキナファソ原子力発電所の建設を計画しているが、これもサヘル諸国同盟へのテコ入れといえる。

 もともと原発建設はロシアのアフリカ進出の手段の一つだが、ニジェールが大陸屈指のウラン産出国であることを考えれば、サヘル3カ国をエネルギー分野で結束させる目的もうかがえる。

 露骨なニジェール支援に欧米では「そもそもクーデタにロシアが関与していた」疑惑も浮上しているものの確証はない

代理戦争を避けられたとしても

 こうして既得権を守りたいフランスと、なりふり構わず勢力圏を広げたいロシアが、それぞれアプローチを加速させ、それが現地で代理戦争への警戒を強めても不思議ではない。

 西アフリカのビッグ・ブラザーを自認するナイジェリアはニジェールのクーデタ直後、同国への軍事介入に前向きだったが、先述のように外交的解決を目指す方針に舵を切った

 この転換は、経済的、文化的な結びつきから軍事介入に消極的な国内世論が強かったことに加えて、地域分断を避けるための外交的判断が働いた結果とみてよいだろう。

 アフリカは現在、市場統合のプロセスにある。また、イスラーム過激派対策においても国境を超えた協力は欠かせない。そのため、アフリカの多くの国にとって代理戦争はもちろん分断も避けたいところだ。

 しかし、その期待とは裏腹に、分断はさらに深まる様相を呈している。

 ニジェール軍事政権が3月17日、フランス軍に続いて駐留米軍にも退去を要請したからだ。

 アメリカはニジェールでドローンなどによるイスラーム過激派掃討作戦を行ってきた。

 クーデタ後、アメリカは民政移管を求め、軍事援助を縮小したりしたが、分断のリスクを恐れてか、フランスとは微妙に距離を置いていた。実際、在ニジェール・アメリカ大使館は通常通り業務を行い、駐留米軍は規模を縮小しながらもテロ掃討作戦を続けてきたのだ。

 その米軍にも撤退を求めたことは、ニジェールやサヘル諸国同盟とロシアの関係強化がさらに進むことをうかがわせる。とすると、たとえ代理戦争にまで発展しなくとも、ロシアが西アフリカに隠然と影響力を伸ばす可能性はさらに高まっているといえるだろう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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