なぜ11歳の男の子は斬首されたか――アフリカ南部に広がる‘資源の呪い’

モザンビークの子ども(2019.5.1)(写真:ロイター/アフロ)

  • アフリカ南部のモザンビークでは天然ガスの開発が進むにつれ、海外企業がこれまでになく投資を進めている
  • その一方で、この国では従来ほとんどみられなかったイスラーム過激派の活動も、急速に活発化している
  • 一見無関係のこれらは深く結びついており、資源開発による利益が現地に恩恵をほとんどもたらさないことがテロの蔓延につながっている

 日本ではすでに忘れられかけているようだが、イスラーム過激派はこれまで活動があまりみられなかった地域にまで進出しつつある。

「私たちは何もできなかった」

 3月16日、国際人権団体セーブ・ザ・チルドレンはイスラーム過激派の活動が活発化するアフリカ南部モザンビークの最新情勢を報告し、11歳の男の子が首を刎ねられたケースすらあると発表した。

 セーブ・ザ・チルドレンの聞き取り調査に応じた28歳の母親によると、一家が住んでいたモザンビーク北部のカボ・デルガード州にある村がイスラーム過激派に襲撃された際、逃げ遅れた長男が捕まり、斬首されたという。他の子ども3人と隠れていた母親は「私たちは何もできなかった。だって、私たちも殺されるかも知れなかった」と述べている。

 その後、母親は子どもを連れて実家のある別の村に移ったが、そこもまた襲撃された後、避難キャンプに収容された。

 カボ・デルガード州ではイスラーム過激派の活動が急速に活発化しており、2月までに1312人の民間人を含む2614人が殺害された。それにともない、67万人以上が避難を余儀なくされている。この人数は1年前の7倍にあたる

 セーブ・ザ・チルドレンによると、避難キャンプに逃れられても、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩まされる人は多いという。

イスラーム過激派と無縁だった国

 モザンビークの人口の約20%はムスリムだが、これまでイスラーム過激派の活動はほとんどみられなかった。この国でテロが急増したのは2017年頃からで、ごく最近のことだ。

 この地域で破壊や殺戮を繰り広げる勢力は、アル・シャバーブ(アラビア語で「アラブの若者」)と呼ばれる。同じ名前の組織は北東アフリカのソマリアにもあるが、モザンビークのそれとは系統が異なる。ソマリアの方がアル・カイダ系であるのに対して、モザンビークの方は逆にアル・カイダとライバル関係にある「イスラーム国(IS)」に忠誠を誓っている。

 シリアを追われたISは各地に飛散しているが、いわば「未踏の地」だったアフリカ南部も、その射程に入っているのだ。とはいえ、なぜ急に、しかも激しく、モザンビークのイスラーム過激派はテロをエスカレートさせているのか

 アメリカやヨーロッパの経験からわかるのは、過激派が外から流入しただけでは大規模なテロにならないということだ。つまり、その土地に暮らす者のなかから自発的に協力する者が現れることで、イスラーム過激派によるものと限らず、テロは拡大する。

 だとすると、モザンビークでアル・シャバーブが急速に台頭する背景には、この土地ならではの事情があるとみられる。

「富める者のための政府」

 これに関して、当のアル・シャバーブの言い分を聞いてみよう。

 昨年3月、カボ・デルガード州のモシンボア・ダ・プライアにある天然ガス関連施設を襲撃したアル・シャバーブはその直後に犯行声明を出したが、そのなかでは「不信仰者の政府ではなくイスラームの政府を求める」といったイスラーム過激派特有の主張だけでなく、現在のモザンビーク政府が「貧者を貶め、富める者のために尽くしている」として、その不公正を繰り返し批判している。

 モザンビーク政府の不公正とは、何を意味するのか。

 ここで注目すべきは、現在のモザンビークが天然ガス輸出国であることだ。アフリカでも最貧困国の一つだったモザンビークでは2000年代に大規模なガス田が発見され、一躍世界の関心を集めた。その主な産出地の一つであるガボ・デルガード州には、米エクソン、中国石油天然ガス集団公司(CNPC)、イタリアのENIなど各国企業が続々と進出し、日本企業のなかではSMBCなどがこうした事業に出資している。

 その結果、モザンビークには2019年だけで21億ドル以上の投資が海外から流入したが、これはアフリカ第6位の規模で、モザンビークのGDPの14%にものぼる(世界銀行)。

 ところが、モザンビークに空前の好景気をもたらしたガス田開発は、地元にほとんど利益をもたらしてこなかった。モザンビークに限らずアフリカに進出する外資の多くは、「企業の社会的責任(CSR)」を謳いながらも、不正な貿易価格設定(trade mispricing)や租税回避地(tax haven)の利用により、その国に利益をほとんど還元せずに済ませてきた。それによってアフリカが被る損失を国際NGOオックスファムは年間110億ドルと算出している。このうちモザンビークに関しては、少なく見積もっても年間数百万ドルといわれる。

 しかし、モザンビーク政府はこれを積極的に取り締まってこなかった。これもアフリカ全体にほぼ共通するが、政府は外資からまじめに税金を取り立てるより、当の外資となれ合うことの方が多い。その方が政治家や官僚にとって個人的な利益になるからだ。

 アフリカ各国の世論調査を行うアフロバロメーターはモザンビークで「資源開発によって誰の利益になっているか」という質問を投げかけているが、これに対してガボ・デルガード州の住民のうち46%が「資源を開発する企業」、20%が「政府・与党」と答えた一方、「全てのモザンビーク人」という回答が11%にとどまったことは、ガス田開発の好景気の恩恵を地元住民がほとんど感じられず、むしろ外資や政府への反感・敵意が広がる状況を示唆する。

 これに加えて、警察がテロ対策と称してムスリムに暴行を加えたり、投獄したりしてきたことが、モザンビークで少数派であるムスリムの被差別感情を加熱したという指摘もある。

資源がもたらす副作用

 資源の乏しい日本では、資源の産出イコールよいことというイメージが強い。しかし、資源が豊かな国ほど、放漫財政になりやすい、インフレになりやすい、汚職が蔓延りやすい、といった負の面もある。これを一般に「資源の呪い」と呼ぶ。そのなかには資源がもたらす膨大な利益をめぐる暴力や紛争も含まれる。

 アフリカでも貧しい部類に属するモザンビークでは、これまで貧困が当たり前だった。人間は他人と自分を比較する生き物であり、いわば皆が貧しいなかでは貧困への不満も起こりにくい。

 ところが、ガス田開発で好景気に沸くなか、富める者とそうでない者の識別が鮮明になったばかりか、政府と外資の不透明な関係がより目立ちやすくなった。こうした不満が暴力的な反応を呼び起こしたとすると、アル・シャバーブのイスラーム的な主張は宣伝に過ぎないともいえる。

 もちろん、だからといって無関係の民間人への襲撃が許されるわけではない。社会全体への恨みを晴らそうとするテロリストの破壊衝動を満足させるために、11歳の男の子が首を切られなければならない義理は一つもない。

 その一方で、社会への憎悪を募らせた過激派を力だけで押さえ込むことが難しいのもまた確かだ。アル・シャバーブに手を焼いたモザンビーク政府は、リビア内戦などでも活動が目立つロシア人傭兵を雇い、その鎮圧に向かっているが、これはイスラーム過激派の敵意をさらに増幅させる効果をもつ。

 天然ガスの発見がモザンビークにもたらした副作用はあまりに大きいといえるだろう。