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新型コロナで中国を警戒するアフリカ――そのなかで中国を支援する国とは

六辻彰二国際政治学者
訪中した赤道ギニアのンゲマ大統領と習近平国家主席(2018.9.2)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
  • アフリカの小国、赤道ギニアは新型コロナ対策として中国に200万ドルを提供すると発表した
  • このタイミングでの中国支援は、赤道ギニアが中国に恩を売ることで、自らを守るための選択とみられる
  • このパターンは、かつて赤道ギニアがアメリカを相手に行ったこともあるものである

 アフリカの赤道ギニアが新型コロナウィルス対策で中国に協力を申し出たことは、混乱に乗じて大国の懐に入り込む、特有の外交手法といえる。

赤道ギニアから中国への資金協力

 アフリカ中央部にある赤道ギニアは、四国の1.5倍程度の面積しかない小国ながら、生産量でアフリカ大陸第6位(BP)の産油国でもある。

 その赤道ギニアは2月5日、新型コロナ対策として中国に200万ドルを提供することを決定した

 これに関して赤道ギニア政府は「中国は常に赤道ギニアの力強く真摯な支援者だった。この(200万ドルの)協力はすでに多くの生命を危険にさらしている感染の拡大に取り組む中国とその人民に連帯を示すもの」と述べている。

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 新型コロナ感染に関して、アフリカからこうした支援が中国に提供されるのは、唯一ではないが決して多くない。

赤道ギニアの目的は

 国際協力に政治的な目的が含まれるのは、どの国でも基本的に同じだ。だとすると、公式声明はともかく、赤道ギニアにはどんな目的があるのか。

 その最大の目的は、このタイミングであえて好意を示すことで、中国に対する発言力を強めることにあるとみられる。

 これに関して、まず今日のアフリカにおける中国の立場について確認しよう。

 中国は2000年代からアフリカ進出を加速させ、現在ではアフリカ各国の最大の貿易相手国だ。習近平体制が推し進める野心的な経済圏構想「一帯一路」には、アフリカも含まれている。

 その結果、赤道ギニアへの中国の進出も加速しており、例えば2015年4月には20億ドル相当のインフラ建設を中国企業が行うことで合意している。

 ただし、中国への反応はアフリカでもさまざまだ。

 一般的に、中国との取引にチャンスを見出せるエリート層には親中派が目立つ一方、中国企業によるブラックな雇用などに直面しやすい一般市民には反中感情も小さくない。

 また、当然だが国ごとに「親中度」には差があり、一般的に西側の影響に対する独立志向が強い国ほど中国との関係に積極的といえる。

新型コロナのインパクト

 今回の新型コロナウィルスは、こうした微妙なバランスを揺るがした。

 アフリカ各国では、武漢に取り残された留学生の扱いが問題になっている。中国全土にはアフリカ人留学生が約8万人いるが、このうち武漢には5000人ほどいるとみられる。

 日本やアメリカなど先進国が自国民を退避させたのに対して、アフリカ諸国は武漢からの退避を進めていない。これは中国当局による武漢からの移動制限を尊重するものといえるが、武漢に取り残された留学生たちからの悲痛な声はSNSなどを通じてアフリカにも届いている

 その結果、中国との関係に基づいて留学生を武漢に止めるべきか、中国の不興を招いても留学生の帰国を進めるべきかが各国の国内政治の問題になりつつあるのだ。

 そのうえ、中国との距離感はアフリカ各国同士の関係にも影響を及ぼしている。

 エチオピアは中国との直行便の就航を継続しているが、中国便の受け入れを停止したケニアは「アフリカ大陸に感染を拡大させる」とこれを批判している。

大国に恩を売る小国

 このように中国との関係そのものがデリケートな問題になるなか、赤道ギニアがあえて中国への支援を表明したことは「中国は孤立していない」というメッセージを発信し、ひいては中国政府に「恩を売る」ことになる

 赤道ギニアはアフリカ屈指の産油国だが、2014年の原油価格下落以来、経済の停滞は覆うべくもなく、IMFの統計によると昨年のGDP成長率は-4.6%にまで落ち込んでいる。

 この状況のもと、中国からの投資は景気対策として重要だ。しかし、自分が弱っているタイミングで、ただ中国の投資を受け入れては中国経済に取り込まれることになる。

 つまり、このタイミングであえて中国を支援したことで、赤道ギニアは今後の経済交渉などでの発言力を引き上げたといえるだろう。

 中国の新華社通信は新型コロナ対策に支援した各国のリストを掲載しているが、そこには赤道ギニアと同じように判断した国が他にも含まれるとみてよい。

かつてきた道

 赤道ギニアに関していうと、大国の足元をみて、その懐に入り込むのは、これが初めてではない。この国のテオドロ・オビアン・ンゲマ大統領は、1979年のクーデタで権力を握り、実の叔父であるフランシスコ・マシアス大統領(当時)を銃殺刑に処して以来、権力を握り続けてきたアフリカ最長の「独裁者」の一人だが、2000年代初頭にアメリカを相手に今回の中国に対するのとよく似た手法をとっている。

 当時のアメリカは2003年のイラク侵攻で世界各国から不興を買い、アフリカでも批判の声が大きかった。一方、当時のブッシュ政権は中東との関係見直しに着手し、その一環として中東からの原油輸入を減らしたため、他の地域からの原油輸入を増やす必要に迫られていた。

 この状況のもと、ンゲマ大統領は2004年6月、それまで関係のよくなかったアメリカを突如訪問し、油田開発などの協力を一気に進めたのだ。これはンゲマ大統領にとって、アメリカから投資を呼び込むと同時に、自らの安全を確保する手段でもあった。

 ンゲマ大統領の支配は、反体制派を力ずくで取り締まり、石油収入を私物化するなど、「独裁者」と呼ばれるにふさわしいものだ。その結果、赤道ギニアから政治犯として逃れた人々の一部は、かつてこの地を支配したスペインに亡命政府を樹立している。

 この背景のもと、ンゲマ大統領がアメリカを訪問した直前の2004年3月には、スペインなどがバックアップしたとみられる軍の一部によるクーデタが発生している。

 つまり、イラク侵攻で評判を落としていた当時のアメリカにあえて接近することで、ンゲマ大統領は亡命政府寄りのスペインなどをけん制するとともに、アメリカに赤道ギニア国内の人権侵害などに口を出させなくしたのである。

アフリカはただ呑み込まれるだけか

 今回の赤道ギニアの中国支援は、かつて国際的に反感を集めていたアメリカにあえて接近したことを思い起こさせるものだ。

 一般に中国とアフリカの関係というと、中国の影響力にアフリカが取り込まれている、という文脈で語られやすい。実際、中国のアフリカに対する影響力は大きいが、アフリカが大国の足元をみるのも珍しくはない。

 その良し悪しはともかく、赤道ギニアの外交はこれを象徴するといえるだろう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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