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アメリカで突如浮上した「イランとアルカイダの連携」説は本当か

六辻彰二国際政治学者
国連総会に出席し、NYで記者会見をするロウハニ大統領(2017.9.26)(写真:ロイター/アフロ)
  • アメリカ政府高官は「イランとアルカイダの連携」を主張し、「イランの脅威」を強調している
  • しかし、その多くの根拠は20年以上前のイランとアルカイダの限定的な関係にあり、事実の誇張が目立つ
  • これは一種の陰謀論とも呼べるもので、イランへの軍事行動を正当化するためのものとみられる

 アメリカとイランの緊張が高まるなか、アメリカ政府高官は「国際テロ組織アルカイダがイランとつながっている」としきりに強調する。しかし、この主張は控えめに評しても事実の誇張で、悪く言えば国ぐるみの陰謀論とさえいえる

「イランがアルカイダとつながっている」

 6月19日、ポンペオ国務長官は連邦議会で「イランが長年アルカイダとつながってきた」と主張。1998年にケニアとタンザニアにあるアメリカ大使館をアルカイダが相次いで爆破した事件で、イランが工作員の輸送などで支援したことなどをあげ、「イランの脅威」を力説した。

 これと並行して、トランプ政権支持が鮮明なアメリカのFOXニュースや、トランプ政権と緊密で反イランが鮮明なサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)などは「イランとアルカイダの連携」を相次いで報じている。

 例えばUAE政府系メディア、アル・アラビヤはイランの元将軍の証言として「1990年代のボスニア内戦の際、イラン革命防衛隊は現地イスラーム勢力を支援し、アルカイダにも訓練を行った」と報じた。当然、イランはこれを否定している。

宗派を超えた共闘?

 もしこの説が正しいとすると、イランとアルカイダは宗派を超えて協力していることになる。イランはシーア派の中心地だが、アルカイダはスンニ派に属するからだ。

 一般的に宗派を超えた協力はないと思われがちだが、アメリカ政府やサウジ、UAEは実利的な利益や共通の敵がある場合、宗派の違いは絶対のものではないと主張する。

 この点において異論はない。

 例えば、シリア内戦をめぐり、イランはトルコとの協力を深めてきたが、トルコの多数派はスンニ派だ。また、これまでイランは各地のシーア派組織(レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派など)だけでなく、スンニ派組織(パレスチナのハマスやエジプトのムスリム同胞団など)も必要に応じて支援してきた。

 つまり、宗派を超えた連携は珍しくなく、逆に同じ宗派だから協力するとも限らない(サウジは宿敵イランと関係の深いカタールと2017年6月に断交したが、サウジとカタールはいずれもスンニ派)。そのため、アメリカという共通の敵を前にイランとアルカイダが将来において連携する可能性はゼロとはいえない。

接触イコール連携とはいえない

 ただし、少なくとも現状において、イランとアルカイダが連携する公算は限りなく小さい。

 米誌タイムのインタビューに応じた国務省元高官は、イランとアルカイダの接点に関する情報は以前から得ていたと明かしたうえで、「両者が協力してアメリカを攻撃することはほぼ想定できない」と述べている。

 実際、ポンペオ氏やアル・アラビヤが強調しているのは20年以上も前の、しかも限定的な協力で、仮にそれらが真実でも、「だからその後もイランとアルカイダは一貫して、しかも全面的に連携している」という証明にはならない。

 もし過去のある一時点の協力をもって「今も連携している」といえるなら、アメリカもアルカイダと通じていることになる。1980年代のアフガニスタンでソ連軍と戦うイスラーム義勇兵にアメリカは武器支援を行い、彼らが後にアルカイダを発足させたからだ。

 とすると、ポンペオ長官らの主張は事実の誇張とみてよい

 むしろ、イラン革命防衛隊はシリア内戦でアルカイダやイスラーム国(IS)とも衝突した。また、イランが支援するレバノンのヒズボラやパレスチナのハマスも、アルカイダ系組織としばしば交戦している。

なぜ「ウソ」をつくか

 先述のタイムのインタビューに応じた国務省元高官によると、ポンペオ長官が就任した頃から国務省内で「イランとアルカイダの連携」が語られるようになったという。

 なぜ、トランプ政権は根拠の疑わしい言説を振りまくのか。それはイラン攻撃の法的根拠を得るためとみられる。

 北朝鮮と異なり、イランにはアメリカ本土を射程に収める弾道ミサイルがないため、アメリカにとって直接の脅威ではない。そのイランを攻撃するには、「本土防衛のための海外での軍事活動」を議会に認めさせる必要がある。

 アメリカ以上に反イラン的なサウジアラビアやUAEは、こうしたアメリカ国内の事情に便乗して「イランとアルカイダの連携」を叫んでいるわけだが、その背景にはこれらスンニ派諸国こそ、自国でのテロを控えさせるため、アルカイダを支援していると長年みられてきたことがある。

 実際、2001年同時多発テロ事件で唯一生き残った実行犯ザカリアス・ムサウィは裁判で「サウジ王室から支援を受けていた」と証言した。最近では、アルカイダやISは南アジアへの進出を強めているが、これに関してインドの情報機関はサウジやUAEの関与を示唆している。

 とすると、サウジやUAEはこうした経歴を覆い隠し、全ての責任をイランになすりつけようとしているとみてよい。「イランとアルカイダの連携」はイランを悪役に仕立てるためのプロパガンダ、陰謀論とさえ呼べるかもしれない。

陰謀論に付き合うか

 アメリカは2003年のイラク侵攻で、誤った情報を根拠に「イラクの大量破壊兵器がテロリストの手に渡る危険がある」と主張し、一方的な攻撃に踏み切った「前科」がある。

 そのイラク侵攻でアメリカが国際的な信頼を失墜させた時でさえ、日本はこれを支持し、戦闘任務こそつかなかった(つけなかった)ものの、物資補給のため自衛隊をイラクに派遣した。

 今回のイランの場合、参議院選挙中ということもあってか岩屋防衛相はアメリカ主導の有志連合への参加はないと断言している。

 しかし、参院選の結果にかかわらず、選挙後に「状況が変わった」などの理由で自衛隊を(戦闘任務でなくとも)派遣することがあれば、アメリカ主導の陰謀論に加担したと言われかねないのである。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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