元ヤクルトのブキャナンが2ケタ勝利目前 韓国で成功の背景とは
昨年まで3シーズン、ヤクルトでプレーし、今季から韓国KBOリーグのサムスンライオンズに所属しているデービッド・ブキャナン(31)。ブキャナンはシーズン前半を終えたところで16試合に登板し、チームトップの9勝(6敗)を記録。先発ローテーションをきっちり守り、100イニング以上を投げている。
韓国でも先発投手として役割を果たしているブキャナンについて、その背景をヤクルト球団編成部の奥村政之国際グループ担当部長に訊いた。
注目度が低かったヤクルト入り当時
まず奥村氏にはヤクルト入りする前年、2016年のブキャナン獲得当時のことを振り返ってもらった。
「ブキャナンのことは球界全体的にノーマークで、私もマイナーリーグでは別の投手を追っかけていました。しかし投げているブキャナンを最初に見た時に、どこが良かったかは詳しく言えないんですが、獲得は可能だなと思いました。メジャー経験があって条件も揃っていたので、(20代後半の)年齢的にも追っかけやすいピッチャーでした」
日本の球団ではヤクルトだけが動向を見守っていたブキャナン。しかしブキャナンのことは韓国の球団も目をつけていた。獲得交渉の結果、ブキャナンはヤクルトを選んだが、もしこの時、ヤクルトが手を引いていたら、ブキャナンは3年前にKBOリーグ入りしていた可能性もあった。
当時のブキャナンについて奥村氏は「身長は190(センチ)ありますが、中肉中背で球速も150キロ出るか出ないか。外国人選手にパワーを求める傾向にある中で、ブキャナンは獲りたいと思う僕らと、会社や現場との意見が合致しないタイプでした。しかし外国人選手数人のうちの1人として『大やけどしない』ということで、会社の人たちを説得して獲りました」
入団してからもあまり注目されていなかったというブキャナン。「キャンプでも『メジャーでイチローから三振を奪った』ということくらいしか記事になりませんでした」と奥村氏は振り返る。
しかしフリー打撃での投球でブキャナンに対する周囲の反応が変わっていった。「上田(剛史)が『ブキャナンの球は打ちにくい』と言ったそうです。ブキャナンもそれを喜んでいて、オープン戦でも抑えてから注目されていきました」
内野の守備力がブキャナンの生命線
ブキャナンはヤクルト1年目、防御率はチームトップの3.66だったが、勝敗は6勝13敗で負けが先行、翌18年も10勝11敗と負けが勝ち星を上回った。
「1-0で投げ合って1点差で負けたり、8回まで0点に抑えていても9回に1点取られて負け投手になったりと、勝ち運に恵まれなかったピッチャーでした。セ・リーグのバッターは振ってこないですし、守備がしっかりしていればもう少し勝てたかもしれません」
では現在のブキャナンはどうか。奥村氏に今シーズンKBOリーグで投げるブキャナンの投球映像を見てもらった。
「韓国の打者はセ・リーグの打者よりも真っ直ぐに強くてパワーもある。ボールを振らせてゴロを打たせれば、ブキャナンの術中にハマっていきます。いい球筋をしていますね」
ブキャナンの特徴は変化球を低めに集めてゴロを打たせる投球だ。それを裏付けるものとして併殺打の数がある。今季サムスンでブキャナンが打たせた併殺打はリーグトップの20個で2位とは6個差。ブキャナンは自軍の守備力によって成否が左右するタイプと言えるだろう。
もしヤクルトに残留していたら?
奥村氏はブキャナンについて、こんな仮定の話をした。
「今年のウチはショートに(アルシデス)エスコバーが入って、サードの村上(宗隆)の守備がうまくなりました。飛躍的にダブルプレーが多くなって、その数はリーグトップです。この布陣でブキャナンが投げていたら勝ちがついたかもしれません」
昨オフ、奥村氏はブキャナンを残すかどうか、チームスタッフと保有期限ぎりぎりまで悩んだという。しかし所属年数を重ねたことでの年俸が上がり、監督交代というチームの転換期だったこともあって、再契約には至らなかった。
決別ではない両者の別れ。そのことはブキャナンにも伝わっている。ブキャナンは奥村氏に対して、サムスン球団を通してこうコメントした。
「常に尊重し、激励してくれて家族に対してもいい環境を整えてくれた。成績が良くない時も変わらず親切にしてくれてとても感謝しています」
2ケタ勝利まであと1つ
今季のブキャナンは得意球のチェンジアップに加え、ナックルカーブでカウントを稼いでストライクを先行させている。また捕手カン・ミンホがイニングごと、球審の特性に合わせた配球を見せ、ブキャナンの良さを引き出している。
ヤクルトでは18年に10勝をマークしたブキャナン。ブキャナンはサムスンの外国人投手としては15年のアルフレッド・フィガロ(元オリックス)、タイラー・クロイド以来、5年ぶりとなる2ケタ勝利まであと1つに迫っている。