今年、韓国の球場でファンが最もハマった応援歌とは?韓国の応援事情
今年の韓国KBOリーグでファンたちがどハマりした応援歌がある。サムスンライオンズの遊撃手、イ・ハクチュの応援歌だ。
以下はその応援歌を歌う様子と制作秘話を取材したMBCスポーツの映像だ。
映像:MBCスポーツ探検隊 MBCスポーツ(1分23秒からも応援の再生あり)
一度聞くとクセになる(中毒性がある)旋律、小刻みにジャンプを続けながら、両腕を胸の前で組み、両手を上に広げるという簡単な動きの連続。そして「イ・ハクチュ ウォオオオオ」という口ずさみやすい歌詞の繰り返しが韓国の野球ファンのハートをつかんだ。
他球団のファンも歌いたくなる応援歌
公式戦の残り試合がわずかとなった9月28日、この応援歌が2つの球場で熱唱されるという珍事があった。
テグサムスンライオンズパークで行われたサムスン対SKは7-7で迎えた延長10回裏、サムスンが1死一塁のサヨナラのチャンスを作った。打席には「ハマる応援歌」の主である2番イ・ハクチュ。
イ・ハクチュは1ボールからの2球目、直球をジャストミートし、打球はライトスタンド中段に飛び込む7号サヨナラ2ランとなった。熱狂するホーム三塁側のサムスンファン。ひと通りの勝利のセレモニーが終わると、場内では自然発生的にイ・ハクチュの応援歌の合唱が始まった。
筆者はその様子を記者席で眺めていると、テグから200キロ以上離れたソウル・チャムシル球場でもイ・ハクチュの応援歌で盛り上がっているという情報が記者の間で持ちきりになった。
イ・ハクチュの一発でサヨナラ負けした首位SKはこの敗戦で2位トゥサンとのゲーム差が0.5に縮まった。その9分後、チャムシル球場のトゥサンはハンファにサヨナラ勝ちしSKと同率首位に。トゥサンファンは「イ・ハクチュのおかげで首位に並んだ」と応援歌の熱唱に至ったという。
球場からの帰り道、誰もがつい口にしてしまう「イ・ハクチュ ウォオオオオ」というフレーズ。韓国の野球ファンがひいきチームを越えて、「いま、一番歌いたい応援歌」がイ・ハクチュの応援歌だ。
30年近く続く「プロ応援団」が仕切るスタイル
韓国の応援のスタイルは内野席に設けられたステージ上で、球団がイベント会社から雇用する球団専属の応援団長とチアリーダーがリード。ステージ上にはスピーカーが設置され、音響担当者がマイクを手にした団長の指示と試合の流れを見ながら適宜、選手別応援歌などの音源を出す。太鼓を叩くスタッフもいる。このスタイルは1990年代から続いている。
応援団長以下、スタッフが帯同するのは基本的にホームゲームのみ。応援の先導を興行主(球団)による来場者向けのサービス(イベントのひとつ)と考えた場合、ホームゲームだけの活動となるのは当然だろう。
しかしソウルを中心とした首都圏でのビジターゲームや、ビジター応援デーなどでも応援スタッフ一行が出向くことがある。韓国は入場券収入から経費を除いた28%がビジターチームにも配分されるため、他球団の主催試合でも自軍のファンが来場することは球団にとってプラスになるからだ。
ちなみに応援団長には大学の応援団長出身者が多い。
クラシックからレディー・ガガまで幅広い選曲
応援歌は前出のサムスンのようにオリジナル曲もあれば、既存曲のメロディーを採用したものも多い。そのジャンルは幅広くK-POPや国内外のスタンダードナンバー、クラシックなど様々だ。
洋楽が用いられることあり、例えばLGの捕手、ユ・ガンナムの応援歌はレディー・ガガの「The Edge of Glory」のサビの部分を使っている。
映像:LG TWINS TV
またサムスンのキム・サンス内野手の応援歌の原曲はBOYS AND MEN 研究生の「ドドンコ Don't worry」という選曲だったりもする。
それらの曲は球団が著作権料を支払って使用しているが、以前、応援歌に採用されている曲の著作権所有者が「著作者人格権」を主張し、曲を応援歌に使用しないよう求めたケースがあり、現在球団は曲の使用許可も得た上で使っている。
音源にはメロディーだけではなく、カラオケにおけるガイドボーカルも収録されているため、歌詞を知らなくても繰り返し聞いていれば口ずさむことが出来る。
そしてほとんどの応援歌に簡単な振り付けもあり、その様子を初めて目にした日本のファンや野球関係者は、「コンサートみたい」、「野外フェスのよう」という感想を持つことが多い。韓国のファンは自軍の攻撃中、歌い踊っているが、一投一打に反応もしているのでまったく野球を観ていないということでもないようだ。
また振りつけやチアリーダーの動きを完コピした少年、少女が、通路で踊り続けている姿を見ることもある。
応援が興味のきっかけになることも
人が何かに興味を持つきっかけは様々だ。韓国のプロ野球への入口が応援だったという人は国内外問わず少なくない。
インターネット上には球団公式、非公式のものも含めて数多くの応援歌や応援風景の動画がアップロードされている。それらを見て日本との違いを感じ、楽しむというのもシーズンオフの過ごし方としてアリかもしれない。