元ヤクルト林昌勇 神宮で惜別の22球 韓国で果たせなかった引退の区切り
ヤクルトは11日、球団設立50周年を記念したOB戦「オープンハウス presents Swallows DREAM GAME」を神宮球場で行った。
雨にもかかわらず27,727人がスタンドを埋めたこのスペシャルマッチ。参加した43人の元選手のうち外国人選手はアーロン・ガイエル元内野手と、今春、不本意ながら引退を決断した元投手のイム・チャンヨン(林昌勇、43)の2人だった。
想定外だった昨季限りでの引退
「招待を受けること自体が光栄です」
在籍時のものとデザインは違うが、7年ぶりにスワローズのユニフォームに袖を通したイム・チャンヨンはそう言って笑みを浮かべた。しかし、昨秋の時点ではシーズン中に日本に来るとは考えてもいなかった。
イム・チャンヨンは昨年6月、所属していたKIAタイガースのキム・ギテ監督(当時)と起用法を巡って不和が生じ2軍に降格。7月に昇格すると先発起用となり、昨季は37試合5勝5敗4セーブ4ホールド、防御率5.42で24年目のシーズンを終えた。
フリーエージェント(FA)権を再取得するも行使せず、チーム残留を考えていたイム・チャンヨンだったが、10月12日に球団から予期せぬ戦力外通告を受ける。その後、所属先を模索するも42歳という年齢がネックになり、開幕を直前に控えた3月11日、所属会社を通して引退を宣言した。
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イム・チャンヨンが公の場に姿を現すのは10月12日のロッテジャイアンツ戦に先発して以来、約9か月ぶりだ。引退試合は行われていない。イム・チャンヨンの引退の経緯を知るファンにとって、今回のOB戦は引退の区切りでもある。筆者も同じ気持ちだった。しかしイム・チャンヨンはこう話した。
「引退試合という意味は持ちたくない。きょうはレジェンドゲームの参加者の一人として楽しみます」
神宮での特別な記憶
久々に訪れた神宮。イム・チャンヨンは球場全体をぐるりと見渡し、「変わりないですね。外野席が少し変わったかな?」と口にした。彼は球場へ向かう道すがら、こんなことを思ったという。
「初めて神宮に来た日のことを思い出した。ワクワクと緊張、日本でやれるか?という不安感があった」
イム・チャンヨンのヤクルト入りが発表になった2007年冬、韓国での反応は冷ややかなものだった。右ひじの手術を経たことで「終わった選手」という評価が大半を占めていた。
しかしその後の活躍は周知の通り。ヤクルトでの5年間で128セーブを記録し、退団後はメジャーへ渡り、日米韓での通算成績は1004試合141勝99敗386セーブを誇る。24年間の現役生活の中でも日本での時間は特別なものだった。
「ヤクルトに5年間いたことが、今もファンの記憶に残っていて感謝している」
9か月ぶりのマウンドでの22球
「最後の登板から全くボールを投げていない」と話したイム・チャンヨン。しかしユニフォーム姿は昨年までと変わりない。試合前のキャッチボールで徐々に感覚を取り戻していた。
日本語で「1(いち)イニング」とこの日の役割を話したイム・チャンヨンは、雨天により5回までの特別ルールのドリームゲームに臨んだ。
5回裏、「Swallows LEGENDS」の9番手として三塁側のブルペンからマウンドに上がったイム・チャンヨンは「GOLDEN 90’s」の笘篠賢治、大野雄次に120キロ台前半のボールを連続中前安打される。
しかし2者を置いて1番飯田哲也を迎えたところから、ボールに力がこもった。この日の最速128キロで飯田をセカンドゴロに打ち取ると、続く真中満もセカンドゴロでこれが併殺打となった(注:微妙なタイミングでイベント判定により一塁はセーフ。三塁走者が生還し2死でイニング続行)。
そして3番古田敦也にはさらに力が入り、4球目を空振り三振。Swallows LEGENDSが6-3で勝利しゲームセット。イム・チャンヨンの惜別登板は終わるはず、だった。
だがGOLDEN 90’sから泣きの1イニング追加の要求があり、Swallows LEGENDSの若松勉監督は「ピッチャーがいないんだよ」と言いながら6回突入が決定。若松監督に説得されたイム・チャンヨンは6回裏にもマウンドに上がることになった。
2イニング目となったイム・チャンヨンは池山隆寛、内藤尚行、度会博文の3人を9球で抑えて、今度こそゲームセット。イム・チャンヨンは2回22球を投げてマウンドを後にした。
クールな男を興奮させた一夜
試合後、イム・チャンヨンは「いい仲間たちと楽しい時間を過ごした。興奮した」と普段のクールな様子とは違った表情を見せた。そして最速128キロに「9か月ぶりに投げたんだからこんなもんでしょ」と苦笑した。
試合終了後のファイナルセレモニーでは照明塔の明かりが消され、スポットライトとレーザー光線がグラウンドを照らした。そして選手全員のグラウンド一周。「引退試合という意味は持ちたくない」と話したイム・チャンヨンだったが、手を挙げてファンの声援に応えたことで、現役への区切りとなった。
「韓国でもこういうレジェンドを呼んだイベントをやった方が良い」
イム・チャンヨンは繰り返しそう話した。実際韓国でも華やかなOB戦や引退試合は行われている。ただイム・チャンヨンにとってこの日のスペシャルマッチは興奮を抑えられない程、魅力的なものだった。
現在、イム・チャンヨンはサングラス販売の事業を行っている。2人の息子は野球よりもサッカーに興味があるという。彼が次にユニフォーム姿を見せる日はいつになるだろうか。