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子どもの権利擁護のための「第三者機関」はなぜ地方自治体だけでは不十分なのか?(こども大綱)

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:アフロ)

11月17日、こども家庭庁・こども家庭審議会 基本政策部会で、「こども大綱」答申案が公表された。

基本政策部会(第10回)

9月に中間整理が発表されて以降、通常のパブリックコメントだけでなく、こども若者や子育て当事者を対象にした公聴会、こども若者団体へのヒアリングなど、かつてないほどにこども若者の意見を聞く取り組みを進めてきた。

聞いた内容は、どう反映されたのか、あるいはどういう理由で反映されなかったのかを丁寧にまとめたフィードバック資料も公表しており、その姿勢も高く評価したい。

こども・若者、子育て当事者等の意見を聴く取組の実施結果及びフィードバックについて(案)

筆者が代表理事を務める日本若者協議会も、若者団体のヒアリングに参加し、筆者のほか、中学生、高校生が出席し、コメントした。

こども団体・若者団体に対するヒアリング①実施概要

日本若者協議会では、基本的には下記の資料に沿って発言したが、17日に公表されたこども大綱答申案には、絶対に欠かせないと主張した「影響力」という単語や、体罰・不適切な指導という項目が新たに加えられている。

こども大綱 若者団体ヒアリング(日本若者協議会)

こども大綱 良かった点:

・こどもを権利の主体として明確にしている点→パターナリスティックな価値観からの転換

・社会から逸脱したこどもに限定せずに、こども全般にしている点→部分的な事後対応ではなく、こども全般の権利保障に

・副題がウェルビーイングを軸にしている点(「~全てのこども・若者が身体的・精神的・社会的に幸福な生活を送ることができる社会~」)

改善点:

・こども参加を進める理由が不在-影響力を与える権利の保障(エンパワメント)

なぜ参加の機会を保障する必要があるのか?影響力を与える権利を保障するため。「影響力」のない「参加」は学習性無力感に繋がり悪影響。

影響力の保障を軸に、参加の機会、活動支援(若者団体に限定した財政的支援、ユースセンター等)、権限の付与(中央審議会など重要な会議にも参加)、民主主義教育・人権教育を整備していく必要性。真の意味で主体性を尊重するためには「こども若者★いけんぷらす」も政府から独立させた方が良い(子ども・若者の主体的な活動に、権限を与える=エンパワメント)

・学校内での子どもの権利保障が不十分(子どもの人権侵害を許容する特別権力関係論・学校部分社会論が残ってる)

啓発だけでは不十分。学校内で児童生徒の声を反映する仕組みが実質的に存在しない(生徒会の権限弱い)。

意見反映だけでなく、自己決定権の確保、過度に競争的な教育システム(子どもの最善の利益になっていない)、体罰(不適切指導)の防止など、学校内で子どもの権利が保障されていないから、児童生徒の自殺、不登校などの問題多数

・「若者の生活保障」(権利保障)の観点が弱い(特に20歳代後半・30歳代前半など、学生と子育て世帯の間が抜け落ちてる)

子育てや教育費に限定せず、家賃補助(住宅)、不安定な雇用・賃金の改善(労働)、ユースセンター(若者の活動支援)など、あらゆる生活領域において子ども・若者の権利を取り扱う必要性(韓国・青年基本法=「雇用」「住宅」「教育」「生活支援」「参画・権利」の観点から整備)

・第三者機関による権利救済機能の強化(こどもコミッショナー、国内人権機関)

現状、学校でブラック校則改善を訴えても、学校長・教員の善意に左右される。全てのこどもの権利を保障していくためには、パリ原則に沿った、政府から独立した国内人権機関が必須(個人通報制度も)

意見書(日本若者協議会)

青年期の生活保障など、まだまだ不十分な点はあるものの、そもそも審議会で十分に議論されていなかったりと、やむを得ない部分はある。

プロセス自体は丁寧だし、フィードバックも丁寧にまとめられている。

しかし、審議会の中でも度々議論が起こり、ほとんど全てのこども若者支援団体が求めている、子どもの権利擁護のための第三者機関(こどもコミッショナーや国内人権機関)だけは、どうしても理由が不十分なため、指摘しておきたい。

なぜ国レベルの独立した第三者機関が必要なのか?

第三者機関(こどもコミッショナーや国内人権機関)が必要という意見に対し、フィードバックとしては、下記のように「書いてある場所」が記載されている。

「こどもコミッショナー」と呼ばれる第三者機関は、①こどもの権利が侵害されたときの救済、②政策提言の機能を持つものと考えられます。

このうち、①権利侵害の救済は、まずはこどもなど住民に身近な地方公共団体が取り組むべきことです。P.14にあるように、その取組を後押しするとしています。

②政策提言機能は、P.36にあるように、法律で、こども家庭審議会がその役割を担うことになっており、同じような役割の別の機関を置くことは現時点で想定しておりません。

引用元:こども・若者、子育て当事者等の意見を聴く取組の実施結果及びフィードバックについて(案)

まず①の地方自治体に子どもオンブズマンがあれば十分という意見。

確かに、子ども政策は自治体に権限が与えられていることが多く、自治体で解決できることもある。

しかし、たいていの場合、その原因をたどっていくと、法律や、政省令・規則などにたどり着く。

例えば、ここ数年大きな話題となっている「ブラック校則」。

自治体や学校で解決することも可能であるし、実際に改善が進んでいるところもある。

しかし、これだけ大きな話題になっても、ブラック校則に苦しんでいる生徒は未だ多い。

その大きな原因は、法律で校則が規定されておらず、校長に大きな権限が与えられていることにある。

そのため、生徒がいくら人権侵害だと声を上げても、校長の裁量で人権侵害を放置することができる。

本来、法律で学校内における子どもの権利を尊重することを義務づけなければならないが、現状は指導用のガイドライン(生徒指導提要)にとどまっており(それも2022年12月の改訂で盛り込まれたばかり)、教職課程のコアカリキュラムや学習指導要領総則にも、子どもの権利は記載されていない。

そもそも、日本において子どもの権利が尊重されてこなかった最大の原因は、1994年に文部省が、子どもの権利条約批准によって学校が変わる必要はないという印象を与えたことにある。

5.本条約第12条1の意見を表明する権利については,表明された児童の意見がその年齢や成熟の度合いによって相応に考慮されるべきという理念を一般的に定めたものであり,必ず反映されるということまでをも求めているものではないこと。

引用元:「児童の権利に関する条約」について(通知)

こうした現状を踏まえれば、国での制度改善は必須であり、国レベルの第三者機関が求められる。

次に、②政策提言機能は、こども家庭審議会で十分という意見。

これも、なぜパリ原則(1993年に国連で採択された「国内人権機関の地位に関する原則」)で政府から独立した国内人権機関の設置が求められ、実際に120カ国以上で設置されているかを、きちんと理解していない。

一般的に、人権が侵害される被害者は弱者である。特に、子どもは参政権も限られており、権限や影響力を持っていない。

そして、加害者は政府自身であることもある。

それは世界大戦の反省を踏まえて設置された国連の根本的な考え方でもある。

だからこそ、国内人権機関は大学教員、NGO、弁護士などで構成され、政府職員は入らない。

人権保障の判断基準は、政府の方針ではなく、あくまで国際的に規定された人権条約に合致するかである。

政府と対等な立場で、外から(政府から影響を受けずに)チェックすることに意義があるのであって、政府の職員(官僚)が事務局を担っていたら、政府から独立して判断することは到底不可能であろう。

そして、日本に、政府から独立した国内人権機関がないからこそ、日本では十分に人権が尊重されていない。

関連記事:「ジャニーズ問題」どうしたら再発を防げるのか?人権教育と「国内人権機関」設置の必要性(室橋祐貴)

このように、正しく第三者機関(こどもコミッショナーや国内人権機関)の役割や意義を理解していたら、上述のようなフィードバック(こども大綱に反映させない理由)はあり得ない。

これが通用するようでは、結局政府の方針に合う意見のみを取り入れることになり、子ども若者の権利保障は十分に進まない。

それのどこが、「こどもまんなか社会」なのだろうか。

フィードバック資料の最後には、今の社会は「こどもまんなか社会」の実現に向かっていると思うかなどについて、インターネットモニターからの意見がまとまっている。

こども・若者、子育て当事者等の意見を聴く取組の実施結果及びフィードバックについて(案)
こども・若者、子育て当事者等の意見を聴く取組の実施結果及びフィードバックについて(案)

結果はネガティブな反応がほとんどで、SNS上でも政府不審が募っている。

「こどもまんなか社会」、こども家庭庁という新しい取り組みが成功するかは、真に子ども若者の立場に立てるかにかかっており、そのためには、「クリティカル・フレンド」の存在を許容できるかにかかっていると言っても過言ではない。

「クリティカル・フレンド」とは、必要なときは批判もする友人という意味であり、政府の方針に賛成してくれる有識者ばかりを選ぶのではなく、厳しい意見を言ってくれる人を有識者会議の中に入れたり、独立した立場からフィードバックをもらえる体制を作る。(日本政府は、こどもコミッショナーに限らず、独立したチェック機能が極端に弱い)

そうした「成熟した」態度を政府が身につけなければ、いつまで経っても対話に基づいた社会を築くことはできないだろう。

関連記事:「子ども若者大綱」から大きく改善した「こども大綱」。韓国・北欧の若者政策との比較をヒントに(室橋祐貴)

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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