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善戦と苦戦の背景。「何かあった?」の裏側は?/リーグワンD1第8節ベスト15【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
好調モウンガがライナーズの包囲網に阻まれる(写真提供=JRLO)

 目が覚めたようだった。

 昨季リーグワン1部最下位で今季もここまで全敗、勝ち点わずか1の花園近鉄ライナーズが、開幕7連勝中の東芝ブレイブルーパス東京を残り7分までリードしていた。鋭い出足の防御で、向こうの落球と反則を誘い続けた。

 3月2日、ホストの東大阪市花園ラグビー場での第8節でのことだ。

 最後は32―50と惜敗も、大差のスコアの敗因はわずかな誤差だった。前後半の終盤に1対1で差し込まれたり、時折対するスタンドオフのリッチー・モウンガのキックで背後を突かれたり。

 見方を変えれば、挑戦者と見られる側のクラブが白星を掴むには、思うに任せぬところを限りなくゼロにしなくてはならないと再確認できる。

 そう思わせる第8節ゲームには、同日の東京・秩父宮ラグビー場での一戦も挙がる。

 2勝目を狙うリコーブラックラムズ東京が、4強を争う東京サントリーサンゴリアスに0―62で屈した。

 昨季まで接戦を演じていたカードをワンサイドの流れで落とし、フッカーの武井日向主将は言った。

「ブラックラムズは、ひとりひとりが100パーセントの力を出し切らないといい試合にもならないチームだと思う。ひとりひとりの意識をチームとして浸透させなきゃいけないです。主将としてはそこをプレー面を含めてリードしないといけない」

 ゲームに臨む条件、ないしは背景が影を落とした。

 ブラックラムズは1月27日の第6節で、ディフェンディングチャンピオンのクボタスピアーズ船橋・東京ベイを17―18と追い込んでいた(東京・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場)。

 その日に示した自陣ゴール前での粘りは、前後のゲームでも披露。結果が出ないなかでも一定の「成功体験」を積んでいた。武井は続ける。

「いい試合をしてきたからこそ、(今回も)そういう試合になるんじゃないかと思ってしまったところがある」

 裏を返せば、概ねうまくいったゲームも結局は落としてきている、とも取れる。フランカーの松橋周平は、本当に自信を持って戦えたのかについてこう言葉を選ぶ。

「ずっと接戦をしてきて、なかなか勝てない…みたいなことが続く。僕らは切り替えを大事にしているのでマインド上は『次、勝とう』と一丸となってやっているのですが、やはり、どこかで傷付いているような部分もあったのかなと」

 ここへ、前節より中5日での調整を強いられていたこと、その間のトレーニングにある中心選手が出られぬまま満身創痍で本番を迎えたことなどが重なった。その向こう側にサンゴリアス戦があった。

 ある選手は、キックオフ前のウォーミングアップの時点で「身体が重かった」と訴える。主軸のひとりは言う。

「いくらマインドが整っていても身体もしっかりついてこないといけない。きょう見た人たちは絶対、『ブラックラムズ、何かあったんじゃないか』と思ったと思うんです。逆にそれだけの実力はあると思っている。(心身のコンディショニング管理について、選手とスタッフで)お互いがいいバランスを作っていかなきゃいけないです」

 このブラックラムズに勝ったサンゴリアスは、9日、ブレイブルーパスに迫ったライナーズと第9節をおこなう。場所は秩父宮。

 田中澄憲監督が切り出すのは、ライナーズの充実ぶりとその背景についてだ。5日の練習後に語った。

「この1か月(2月にあった中断期間)で、明らかにディフェンスを整備してきているな、と。1か月前のライナーズと思わないほうがいい」

 サンゴリアスも中断期間中の「クロスボーダーラグビー2024」でブルーズに大敗後、選手が4グループにわかれてのミーティングで互いのプレーの質を指摘し合っていた。ブラックラムズ戦で披露した速いテンポの球出しは、その産物と取れる。

 ひとつのチームのパフォーマンスが突如として上がったり、下がったりする裏には然るべき理由があると、田中は言いたげだ。

「クロスボーダーの後に自分たちのスタンダードを顧みて、その後のトレーニングが、いまのゲームに出ていると思います」

 その時々の条件が仕事の質を変えうるのは、今季話題のブレイブルーパスも然りだろう。こちらは9日に埼玉・熊谷ラグビー場に立ち、一昨季王者の埼玉パナソニックワイルドナイツと全勝対決をおこなう。心理的、物質的な背景は、ライナーズ戦前のそれとは異なるだろう。

 むろんワイルドナイツも、インサイドセンターのダミアン・デアレンデ曰く「ブレイブルーパス戦は非常に大きな試合になると認識します」。2日の前節では、昨季敗れた静岡ブルーレヴズを敵地のヤマハスタジアムで45―19と倒した。時間を追うごとに守備の質を改善するうち、みるみるスコアを離してゆくような内容だった。

 デアレンデが語ったのはブルーレヴズ戦の翌々日。毅然とした態度でその日を見据える。

「ホームのお客さんの前で試合ができること、楽しみです。ブルーレヴズ戦はハードで、現時点では身体が回復しきっているとは言えません。ただ、今週末のゲームは、チーム全体が大きな意気込みを持って臨む試合です。過去の対戦を振り返っても、ブレイブルーパスは強く、よくコーチングされている印象があります。ここへ新しいキープレーヤー(リッチー・モウンガ、シャノン・フリゼルといったニュージーランド代表経験者)が入って、無敗で来ています。ただ私自身、どのインタビューでもお話ししていますが、常にベストな対戦相手と戦いたいと思っています。ファンの皆様には是非、熊谷を満員にしていただき、素晴らしいラグビーを見ていただきたいです」

リーグワン ディビジョン1 第8節 結果

三重ホンダヒート 21―50 横浜キヤノンイーグルス

花園近鉄ライナーズ 32―50 東芝ブレイブルーパス東京

静岡ブルーレヴズ 19―45 埼玉パナソニックワイルドナイツ

東京サントリーサンゴリアス 62―0 リコーブラックラムズ東京

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 28—34 三菱重工相模原ダイナボアーズ

コベルコ神戸スティーラーズ 57―22 トヨタヴェルブリッツ

リーグワン ディビジョン1 第8節 私的ベストフィフティーン

1,岡部崇人(横浜キヤノンイーグルス)…スクラムを安定させ地上戦で奮闘。

2,堀江翔太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…焦点のスクラムを安定させた。タックラーの上を通過するような突進、タッチライン際でのオフロードパス、スペースへ駆け込んでのラインブレイク、タックル。

3,垣永真之介(東京サントリーサンゴリアス)…効果的なジャッカル、ルーズボールへのセービング。

4,マックス・ダグラス(横浜キヤノンイーグルス)…チョークタックルを連発。10番シェイプからの駆け込みが効果的。

5,リアム・ミッチェル(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…ルード・デヤハーらとともに効果的なタックルを放って防御網を引き締めた。

6,ピーターステフ・デュトイ(トヨタヴェルブリッツ)…長距離を駆け戻ってもタックル、モールディフェンスでインパクトを示した直後に走者へ低く刺さる動き。大敗するなか奮闘。

7,アーディ・サヴェア(コベルコ神戸スティーラーズ)…前半9分頃の好ジャッカルを皮切りに攻守でインパクト。ピンチを帳消しにする自陣からの好走に陣地挽回のキックもあった。4トライ奪取。

8,ジャック・コーネルセン(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…ラインアウト、タックル、しなやかな動きでビッグゲイン。

9,小山大輝(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…ショートサイドに穴が空けば鋭いパスでトライをおぜん立て。ラックサイドを駆け抜けてのトライ、ボックスキックでも魅した。

10,リッチー・モウンガ(東芝ブレイブルーパス東京)…序盤こそ好守に圧を受けながら、防御をいなすキックでチャンスを作るなどし最後は安全水域に入った。

11,長田智希(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…防御ラインの裏側でのカバーリング、鋭い出足で間合いを詰めながらのタックルを披露。コリジョンで強いヒットをもらいながらもボディバランスを保って前進、ボールを殺す姿勢のタックルでゲインライン突破を許さず。

12,ダミアン・デアレンデ(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…守っては接点へ身体を差し込み、相手のスイープ役を弾いた。ロングキックで陣地を挽回し、ラインブレイクも連発。

13,カーティス・ロナ(三菱重工相模原ダイナボアーズ)…フットワーク、オフロードパス。

14,ベン・ポルトリッジ(三菱重工相模原ダイナボアーズ)…ハーフタイム直前にインターセプトからトライを決めたほか、総じて快足を飛ばした。

15,松島幸太朗(東京サントリーサンゴリアス)…一つステップを切ることで相手防御を置き去りにしたり、ハイタックルを誘ったり。試合終盤には圧巻のビッグゲインからのトライや50・22キックで魅する。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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