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ワイルドナイツ指揮官のロビー・ディーンズ、チーフス撃破の直後に提言。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
(写真:つのだよしお/アフロ)

 今季発足の「クロスボーダーラグビー2024(以下クロスボーダー戦)」が2月3日に始まり、4日は一昨季まで国内2連覇の埼玉パナソニックワイルドナイツがニュージーランドのチーフスと埼玉・熊谷ラグビー場で対戦。序盤から自慢の堅陣を敷き、38―14で勝利。日本勢初白星を飾った。

 坂手淳史主将は言う。

「(戦前は)ワイルドナイツらしいラグビーをしようと話しました。最初の10分フィジカルで来るのはわかっていました。そこで受けに回るとゲームを『戻しにくくなる』と思っていたので、その10分、自分たちのフィジカル、正確性を出そうと話しました」

 戦前から注目された。

 ワイルドナイツは、各国代表勢をずらりと揃えたベストメンバーと見られる編成だったのだ。

 飯島均ゼネラルマネージャーら複数のクラブ関係者によると、当初、ワイルドナイツはクロスボーダー戦の開催に慎重な構えだった。

 国内リーグワン側にとっては、レギュラーシーズンの中断期間中。選手のコンディショニング維持に難しさが生じる。

 実際、3日にブルーズとぶつかった東京サントリーサンゴリアスも、けが人や勤続疲労の懸念される選手を欠場させざるを得なかった(7-43で敗戦/東京・秩父宮ラグビー場)。

 さらにチーフスなどのスーパーラグビー(国際リーグ)側にとっては、シーズン開幕前。どれだけ大会の価値を高められるかが未知数だった。

 もともとワイルドナイツ側が疑義を唱えていたのは、それらのデメリットを把握していたためだ。

 もっとも、いざ開催が決まれば本気で取り組む。その思いの表れが、今度のメンバーリングだった。

 とことん議論し、決定事項には全力を傾ける。2016年からスーパーラグビーに日本のサンウルブズが参戦した際も、同じスタンスだった。

 試合後、ロビー・ディーンズヘッドコーチが坂手とともに会見した。

 この日の試合を振り返りながら、今後のクロスボーダー戦のあるべき形についても語った。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――シーズンの中断期間に、世界トップクラスのチームと勝ち点を伴わない試合をおこなう。難しいシチュエーションのもと、ベストメンバーと見られる陣容を揃えました。

「リーグワンにフォーカスしていることは変わらないが、この試合に何か意味を持たせたいと感じました。その点において、選手はプライド、目的を持って取り組んでいました。シーズンの真ん中にこのような試合をするのは、メンタリティ的に簡単ではないです。競争も、ポイントもなく、失うもののほうが大きかった。例えば今日であれば、エセイ(・ハアンガナ)がコンディション不良となった(前半途中に交代)。ただこの試合で、ジャージィを着た時にプライドを示すことはできた。その点はリスペクトをしています。

このような試合は、自分たちで何か決めてできるわけではない。リーグに指し示してくれて、ターゲットが決まった時は、自分たちのやるべきことはわかっていた。

(レギュラーシーズンの日程上)2月においてはラグビーをする機会が少なかった。リーグワンを勝ち上がるためにも(実戦感覚を保つためにも)、今月、どこかでラグビーをしなければいけなかった。このようにできたのはよかった。

 チーフスにとっては、(スーパーラグビー開幕へ)いい準備になったのでは。私の古巣であるクルセイダーズ(昨季のスーパーラグビー王者)には何もできていないのはちょっと…と感じるけれど。

 約2週間後には、サントリーサンゴリアス戦(リーグワン第7節)が待っている。ここでもファンに喜んでいただけるのではと思う。選手も熊谷ラグビー場でできるのを楽しんでいける。是非、観に来ていただければ」

――海外代表経験のある「カテゴリーC」と呼ばれる選手を起用できた。当事者にとってもモチベーション維持が難しい状況だったと思いますが、どうご覧になりますか。

「個人的にカテゴリーCの選手がどのようにメンタルを作っていったかよりは、チームとして試合に向かっていく、また、勝てる許容があると見せられればと思っていた。

クロスボーダー戦の開催のタイミングは、(両軍の)プレーオフの後がいい。2月はリーグワンの月だと思っている。今季は、ワールドカップを終えたインターナショナルの選手たちが本当に短い休養期間を経て開幕を迎えました(ワールドカップ決勝は10月下旬で、リーグワン開幕が12月中旬)。理想的にはリーグワンの開始時期を遅らせ、選手に十分な休養を持たせ、このクロスボーダーの試合をシーズン後にできれば、大会の意味はもっと増すと思っています。レベルの差は問題ではないと、きょう(勝利で)、示せたと思います」

 開催時期については、坂手も「タイミングについては難しい問題」と言及。一方で、「若い選手がこういうゲームを体験できるのは、日本のラグビー、その選手たち個人にとってもいい機会です」。日本代表として2度のワールドカップ出場を果たした坂手は、世界トップクラスの強度を体感できるクロスボーダー戦の価値を感じていた。

「レギュレーションに関しては詰めていく必要があるとは思いますけど、プレーの機会があるのはいいと思います」

 会見の終盤、ディーンズは「日本ラグビーの柱、基盤となっているものは会社と選手」とも言及した。ここでの「会社」とは、「選手」を雇用するクラブの責任企業を指すのだろうか。

「このふたつの要素を大切に扱っていただきたいです。もしそうできない場合、この日本のラグビー界がどこに止まるのか…」

 終了後は、ミックスゾーンへも登場。自身の考える理想の形などについて話した。

「現状、スーパーラグビーの12チーム(ニュージーランド、オーストラリア、フィジー)中8チームがプレーオフに行ける。リーグ戦の価値が下がってきている。有識者と話すなか、そう認識しています。オーストラリア、ニュージーランドと同じ時間軸で日本が試合をでき、準々決勝、準決勝、決勝…といったようなフォーマットなら、未来につながる国際大会が実現できるのではと思います。

 今回、日本人選手へ求めるものが、フェアではなかった。まず、試合の実施時期です。この時期にやることは、すべてのパーティに対してルーズ(負け)です。

 いまの日本代表選手はワールドカップを経てすぐにリーグワンを迎えている。先ほど私が申し上げたようなフォーマットで試合をすることは、選手の健康、リーグなどすべてのステークホルダーに対してポジティブではないでしょうか。大事なのは、ラグビーが選手のためのゲームであることです」

――クロスボーダーマッチを両国のレギュラーシーズン後におこなうとしたら、ニュージーランドにはどんなメリットがあるか。

「その質問への答えをご自身で探してみてはいかがでしょうか。どう思われますか?

 …なぜ、きょうチーフスが日本に来て試合をしたか。その問題提起をします。スーパーラグビーが日本に依存しなければいけない状況に陥っているのではないでしょうか。

 以前、日本もスーパーラグビーに挑みました(2016年から5年シーズン、サンウルブズが活動)。当時は国内クラブの単体ではなく、いわば寄せ集められた選手によるチームで、世界中をツアーしました。力を出すのは難しい状況でした。

 そして今回のクロスボーダー戦。この時期におこなうことが、両者にとってメリットがあるのか、正しいスキームなのか、考えるべきです。正しいフォーマットで勝者を決める体系が、両者にとって、視聴者にとって正しいのでは。各国がドメスティックなラグビーを大事にし、その先に海外挑戦がある。そのようなシナリオがあった方が、ラグビーの未来にふさわしい」

 リーグワン側も、いまのクロスボーダー戦を国際クラブ選手権のような形に昇華させたいとしている。その場合、各リーグ終了後の実施が理想的とも述べており、今回のクロスボーダー戦に挑む複数のクラブ関係者も「シーズン終了後にやるべき」と口を揃える。

 理想の実現には、スーパーラグビーがこれまでに作り上げてきたプラットフォームにメスを入れる必要が生じる。そのため、各リーグ間の粘り強い交渉が不可欠となる。

一般社団法人ジャパンラグビーリーグワンと手を結んでいる公益財団法人日本ラグビーフットボール協会は、ニュージーランド協会、オーストラリア協会の両方と連携を深めるための覚書を締結している。ディーンズは、「日本は、状況を変えていける立場にある」とエールも送った。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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