Yahoo!ニュース

V3。帝京大学、55分中断を乗り越えた「言葉の重み」とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 雪が色のないオーロラのように舞い、白いライトに照らされ銀に映る。

 1月13日、東京は国立競技場。ラグビーの大学選手権決勝は悪天候に見舞われ、落雷による合計55分の中断もあった。帝京大学の3連覇に終わった。

 2017年度まで9連覇も経験の王者は、5大会ぶり14度目の頂点を目指す明治大学を34―15で退けた。試合後はフッカーの江良颯主将が、相馬朋和監督とともに会見した。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「きょうは、帝京大学の深紅のジャージィを着ているメンバーから『仲間のために身体を張り続けよう、走り続けよう』という言葉が出続けた試合でした。自分自身もいろんな思い、感謝が強く、1年間、『ワンハート』という目標を掲げてやってきたんですけど、全員が観客席から降りて喜んでいる姿、顔を見ると、1年間、積み上げたものが間違いないなという実感がわいて、涙が出てきたというのが印象的で、嬉しかった。それが一番の大きなところです」

——落雷による中断や雪について。

「プレー面ですごく(ボールが)滑りやすくなりましたし、(中断は)僕も初めての経験で、20分間が終わってから、どうもう1回チームのギアを上げようかと考えながらやっていました。ただ、ここで岩出(雅之=前監督)先生が、『時間が延びたことを自分たちのものにしよう』『本当は80分で終わるところ、試合時間が伸びたのは嬉しいことや』と僕たちに伝えていただいて。あぁ、そうやって考えていけば、皆、大丈夫になるんだなぁと、言葉の重みを感じた。この仲間とできることを噛みしめながらラグビーができたかなと」

——中断している間は。

「まず身体を休め、再開に合わせてウォーミングアップをしていった形です」

 秋の関東大学対抗戦Aでは43―11と差をつけていたこのカード。ファイナルの舞台では一筋縄ではいかなかった。

 一時中断後の26分にモールから江良がチーム2本目のトライを挙げるなどして14―0とするも、続く35、39分には、キック処理のミスを契機に明治大学の連続攻撃を浴びる。14―12と詰め寄られた。

 優勢と見られていたスクラムでは、レフリーの合図より早く組むアーリープッシュの反則をよく取られた。7―0で迎えた一時ストップの折、ハーフタイムを迎えるタイミングで、江良はレフリーへコミュニケーションを図った。

——レフリーとはどんな話を。

「『チームに何か(問題は)ありますか?』と質問をさせていただいて、『特に何もないよ』ということだったので、スクラムのところでの質問もさせていただいて、答えをいただいた感じです」

——アーリープッシュが増えたことについては。

「自分たちに押せる感覚があって、スクラムハーフのボールを入れるタイミングについて先読みしすぎている部分がありました。ヒット後にしっかり、シンク(沈む動作のことか)、プレス(固まって押す動作のことか)をし続け、全員で押せるようにしようと(部員同士で)話し合いました」

 後半もフィジカリティの強みを示しながら、時折、ミスを重ねた。お互いがエネルギーを削り合うなか、77分にモールからフィニッシュの江良はその場で足がつったという。

 79分に交替し、日本一になった瞬間はベンチで迎えた。

——ハーフタイムは。

「ゲームの運び方がどうなっているかを振り返りながら、相馬監督、岩出先生からの『上から見るとどうなっているか』を教えていただいて、あとは、40分しかない最高の舞台で、仲間の思いを背負って戦い続けようという話でまとめられた。詳しく全部が全部を説明するというより、『仲間のために体を張る』だったり、1年間いままでやってきた基本に戻れた。

僕たちはセットプレー、フィジカルを土台に帝京大学のラグビーを作り上げている。そこに逃げずに戦い続けようと話して、全員が同じ絵を見られて、明治大学さんに圧力をかけられたと思います」

——44、48、66分に敵陣で反則を誘った際は、トライではなくペナルティーゴールを狙いました。うち2本成功。

「このファイナルでは、簡単にトライを獲れるとは思っていません。スコアできるところはスコアするという思いがあった。山口(泰輝=フルバック)は凄くいいキッカーなので、自信を持って狙いました。試合前からスコアを狙えるところは狙おうと言っていました」

——最後のモールでのトライについて。

「ここで獲れば試合が決まるというシーン。皆がモールを押し続け、空いたスペースに僕が飛び込んだだけ。足がつって、痛すぎて、喜びというのを感じられなかったのは正直なところです。ただ、皆が喜ぶ姿を見ると痛みを忘れられました」

——足をつっていたのですか。

「モールから出る時にはつっていて、『あ、やばい』と思ったんですが、やるしかないと思って飛び込みました。両方です」

——試合全体を振り返って。

「点差を広げることは考えてなくて、ひとつひとつ積み上げてきたものを出し切る(のを意識)。相馬さんは試合前に『1秒、1秒、ワンプレー、ワンプレーを大切に』と仰っていた。帝京大学はS&Cコーチとともにフィットネスを上げていきます。本当にしんどすぎて、吐く人もいます。そのような練習を乗り越えているので、配分を考えずに80分間やり切れる。最初からスタートして、出し切ろうと全員が思っていました。

仲間と共に歩んだプロセスが間違いじゃなかったことが本当に嬉しくて、しあうぇあせやなぁという実感がわいてきた。今まで味わったことのないような幸せで…。仲間に感謝しかないなぁと思いました」

——総じてハンドリングエラーが多かったが。

「僕は皆の顔、行動をいつもと比べるんですけど、緊張かな、と。今週の練習でもリラックスしていつも通りやればいいところでも緊張が目立って、指先の感覚(が違うのか、ボールを)落としてしまうことが多かった。いつもの1週間の様子と比べると、緊張かな、と。(選手権決勝は)大学生にとって憧れの舞台ですし、僕もあまり緊張するプレーヤーじゃないんですけど、前日の夜はあまり寝られませんでしたし、朝も『あ、緊張しているな。久々の感覚だな』と。皆はもっと緊張しているだろうとも。仲間の思い…。背負っていたものが大きかったのかなと」

 改めて、チームのテーマは「ワンハート」。1年時から長らく続いたパンデミックについて聞かこうも話した。

「当たり前のことが当たり前じゃないと気づかされて、ラグビーに向き合う時間が重くなりました。1日1日大事にしないといけない気持ちが芽生えたと思います。

A、B、C、Dとチームをわけることが多かった。全員を混ぜてC、Dの選手に感染者が出てA、Bと一緒に練習をすると活動が止まってしまうので。それで仲間意識が薄くなってしまったのが、悪かった点です。今年は4年生で話し、仲間の意識を高めるためにワンハートという目標を掲げて、1年間活動をしてきた。これも、帝京大学の強みになると思います」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事