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ワールドカップ2連覇のフランコ・モスタート、「やりたくないこと」問題で議論?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
(写真:ロイター/アフロ)

 この秋のワールドカップフランス大会でMVP級の働き。南アフリカ代表のフランコ・モスタートが頂点に立つ心境を語った。

 11月20日、都内で所属先である三重ホンダヒートの所信表明会見に出席。今季から国内リーグワンで1部に昇格するクラブにあって、まずはこの態度を強調した。

「チームには素晴らしいコーチングスタッフが集まっている。戦術を信じ、他の仲間を信じ、(組織を)いい方向に引っ張りたい」

会見したモスタート(筆者撮影)
会見したモスタート(筆者撮影)

 2部構成で開かれた会見では、報道陣の質問に応じる形で大会中の心境も述懐。ヒートのキアラン・クローリー新ヘッドコーチと軽妙なやりとりをかわしながら話した。

「たとえ嫌いだったとしても、やらなければいけない」ことがある、と。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——改めて大会を振り返って。

「決勝トーナメントに入ってからタフな試合が続いた。毎試合チャレンジしなければならないなか、ベストを尽くしました。(大会後は)2週間のオフを過ごしました。大いに盛り上がった。トロフィーをもらうイベントがあり、その後は家族と過ごしました。いま、ここに来て、仕事を開始しようというところです」

 身長197センチ、体重107キロの32歳。4年に1度のワールドカップに出るのはこれが2度目で、いずれも優勝している。

 ヒート入りの1年前にあたる2019年には、日本大会に出場した。「ボムスコッド」と呼ばれる、途中出場するフォワード陣の一角を担った。防御で圧をかけ、いわば相手を兵糧攻めにするようにしてトップに立った。

 今度のフランス大会でもその流れを踏襲した。

 決勝トーナメントの3試合はすべて1点差で制した。

 準々決勝で開催国のフランス代表を29-28で撃破。続く準決勝ではイングランド代表を16-15で、決勝ではニュージーランド代表を12-11で下した。

 モスタートは、先発のロックとして持ち味を発揮した。

 タックルの数は準々決勝で14本、準決勝で18本。いずれも両軍最多だ。決勝の16本も3位。エリア管理と防御で勝ったチームの象徴と言えた。

——南アフリカ代表が世界一になったわけを教えてください。

「チームメイトと一緒にいる時間が長かったのが勝因。私たちは、2016年からほぼ同じメンバーでプレーできていて、2023年に優勝しようというプランがありました。幸運にも2019年にも優勝できましたが、コーチ陣のこと、自分たちのやることを信頼し、遂行できたと感じています」

 確かに、日本大会時の指揮官だったラシー・エラスムスヘッドコーチは、フランス大会でもディレクター・オブ・ラグビーとしてチームを支えていた。さらにエラスムスは、このほど同国の新ヘッドコーチに就任。方針に一貫性があるのは確かだ。

 会見中、いまのボスであるクローリーの話に、モスタートが苦笑するひとこまがあった。目指すラグビーのスタイルを問われたクロウリーが、こう言及したのだ。

「自分のラグビー哲学には、『革新的』『イノベーション』『勇気を持ってできるか』がある。やりたくないことはたくさんある。例えば、ボックスキックとか! …ただ、それを言っていても仕方がないです。やりたいことをやるだけではなく、どうすれば結果を残せるかも考える。その意味では、(昇格初年度とあり)新しいチャレンジをどれだけできるかが問われる」

新ヘッドコーチのクロウリー(筆者撮影)
新ヘッドコーチのクロウリー(筆者撮影)

 ここでの「ボックスキック」とは、接点の後ろからスクラムハーフが高い弾道を蹴る動き。球が空中にあるうちに味方が防御網を整え、確実に陣地を確保するために用いるプレーだ。球の落下地点へ背の高い俊足選手を走らせ、ボールを再獲得する展開にも持ち込める。

 安全第一に試合を進める南アフリカ代表も、「ボックスキック」を好む。そのプレーについて、クロウリーは冗談交じりに「やりたくないこと」と言及。クロウリーはフランス大会までイタリア代表を率いており、ボールの動くラグビーを披露していた。

「自分自身、小さな町で生まれた(ニュージーランドのカポンガ出身)。ここのチームではいい選手も揃っていなくて、自分たちのやりたいことだけをやるだけでは結果が出せなかった。そのため、『どれだけ新たなチャレンジをして試合を楽しめるか』が自分のラグビー哲学になったのです」

 突然の「ボックスキック」に関するジョークへ、ちょうどクローリーの隣に座っていたモスタートは表情を崩した。さらに別な質問に答える際、この談話を引き合いに出した。報道陣を笑わせた。

——もうひとつワールドカップの質問をします。フランス代表に勝った際は、味方がイエローカードをもらったことで14人となった時間帯もありました。その際、自陣ゴール前でのピンチを切り抜けました。あの時に考えていたことは…。

「ワールドカップに限らず、どのカテゴリーの試合でもカードをもらうと苦しい状況に陥ります。そのなかで自分たちがどれだけ高いマインドセットを持てるか、最悪のシナリオを想定し、すべきことを遂行できるか(が大事だ)と痛感しました。先ほど、ヘッドコーチはボックスキックが嫌いだと言っていました。ただ、あの時は、たとえ嫌いだったとしても(堅実な試合運びを)やらなければいけないと感じました!」

 世界的ロックの返事にクローリーがにやりと笑うなか、モスタートはこうも話した。

「フランス代表戦に限らず、アウェーゲームや国を代表する試合は難しいこと。自分を成長させるきっかけになります。先の大会ではフランス代表に勝てたことで、優勝という目標を達成できると感じました」

 12月開幕のリーグワンでは、ワールドカップで活躍した強豪国の代表選手が数多くプレーする。決勝戦に登録された両軍の計46名中13名がリーグワン勢で、モスタートもそのひとりだ。

 特に、7名いる南アフリカ代表勢の直接対決は注目の的か。

 モスタートは「(南アフリカ代表組に)試合をするのが楽しみだよと言われ、こっちこそと返している。ただ、相手のことより自分たちがどれだけできるかにフォーカス。全力を出し切りたい」と淡々と話した。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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