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日本代表、連敗ストップへプレッシャーなくす必要があった。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
タックルを決める姫野(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 7月29日、東大阪市花園ラグビー場。ハンドリングエラーの数は、日本代表が11でトンガ代表が10だった。

 湿度の高い日本の夏だ。22日にあったサモア代表戦時に続き、両軍が二桁の落球を記録した。

 ふたつの試合には、前向きな意味での共通点もあった。

 22日に札幌ドームでおこなわれたサモア代表戦では、中盤からのキックで首尾よく陣地を獲得した。

 今回のトンガ代表戦では、中盤や自陣での鋭い防御が光った。何より、アンストラクチャーからの組織的な攻めといった本来のお家芸も披露された。

 チームが目指すスタイルの実地訓練ができている点でも、この2試合は共通していたのだ。

 違いは、スコアボードである。

 日本代表は、サモア代表戦を22―24と落としたのに対し、今度のトンガ代表戦では21―16と勝利している。

 ワールドカップフランス大会を9月に控え、7月から実施する国内での対外試合で初白星を得た。

 ちなみに8、15日は、対オールブラックス・フィフティーン(ニュージーランド代表の予備軍)2連戦を落としていた。

 サモア代表戦では、前半30分にリーチ マイケルがレッドカードを受けていたことでも負荷がかかっていた。

 しかしこの日は、フィジカリティに長けるトンガ代表に圧をかけ続けた。

 ラストワンプレーでは連係ミスから大きなピンチを迎えながら、フルバックの松島幸太朗のタックルをきっかけに堅陣を敷いた。

 最後はロックのアマト・ファカタヴァがタックルを決め、途中出場したフッカーの堀江翔太がジャッカル。相手の反則を誘うと、息をふっとついたようだった。

 試合後は、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチと姫野和樹ゲームキャプテンが会見した。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

ジョセフ

「スタートがよかった。ディフェンスは強固なものになった。トンガ代表のフィジカルを止められたことは誇りに思う。身体の小さな選手が大きな選手を止めるのは難しいが、それを継続してできたのがよかった。雑なミスによりチャンスを逃したところはあったし、グラウンドコンディションの影響でボールが滑ったところもありましたが、スキルの部分でいいところはあった。最終的には勝てたし、松島がタックルをし、ファカタヴァが動き続けたことも今後に繋がる。チームを誇りに思います」

姫野

「主将として自分たちのラグビーを楽しむ。そのプロセスにフォーカスしました。それがグラウンドで見られたところもたくさんありましたし、そのメンタリティはよかった」

 序盤はミスや反則により、自陣での防御を強いられた。

 しかし、鋭く前に出る防御システムが概ね機能した。その流れで、この日復帰のベン・ガンターのジャッカル、ロックのヘル ウヴェらのモールディフェンスで対抗できた。

 前半10分頃にはガンターが自陣深い位置でターンオーバーを決め、20分に先制するまで無失点で切り抜けた。

 8-5と3点リードで迎えた前半終了間際には、その防御がスコアを生んだ。

 敵陣中盤で相手のキックをガンターがチャージ。飛距離を縮めたうえ、味方選手がルーズボールを確保。ここから日本代表はまず左から右方向へ展開し、ウイングのセミシ・マシレワが中央突破を図る。

 次は左側へ球を動かし、端に立っていたジョネ・ナイカブラが快足を飛ばしながら前方へキック。インゴールに転々としたボールは、ライジングスターのファカタヴァが押さえた。13―8。複数の選手が理想的と口を揃えるこのトライで、21138人のファンを喜ばせた。

 姫野は、地に足をつける。

「後半最初のところは自分たちの課題でもある。主導権を与えてしまった。今後、直していきたい部分です」

 この試合に限っての課題にはまず、得点後のキックオフレシーブが挙げられる。

 後半開始早々に13―8とされたが、それもキックオフの直後のボール保持を誤ったのがきっかけとなった。姫野が言うように、そのまま相手に主導権を与えてしまった。

 以後は、相手が蹴ってくるハイボールの処理でも苦しんだ。

 13―5を13―8と詰められて迎えた後半5分前後は、相手スクラムハーフのソナタネ・タクルアが中盤から蹴った球をトンガ代表のウイングのソロモネ・カタに確保された。そのまま自陣22メートル線付近で守勢に回り、ペナルティーキックを与えて13―11とさらに接近された。

 その後は、堅守で向こうの反則を誘って得点機をものにした。

 そして今回の80分を受け、本番前の国内シリーズを未勝利で終えるリスクはなくなった。

 内容の精査が難しいファンを安心させる意味では、その事実には価値があった。何より、選手たち自身が成功体験を積めたのもよかった。

 昨年、主将だった坂手淳史はしみじみと言った。

「結果が出たとしても、出なかったとしても、チームのやること、修正点は変わらない。ただ、勢い、見えないところのメンタルには、勝つということが大きいです。リーダーは前向きになれるよう常に考えるのですが、やはり結果は欲しかった。(昨秋)オーストラリアAを相手に、最後のキックが入らず勝てなかった試合があった。その時、ジェイミーは『このキックが入ったか、入らなかったかで自分たちへの評価は変わらない』と。確かにそうなんですが、メンタルの部分は、勝ち、負けで変わる。(結果を受けて)勢いを作っていけるようにしたい」

 ジョセフ、姫野はこうも応じる。

——トライの形について。

ジョセフ

「自分たちとしてはラグビーのプレーの仕方で、ベストを目指さないといけない。ただ、期待をかけすぎると選手が結果を追いかけ、プレッシャーを感じてしまう。いまはワールドカップでいいパフォーマンスを出してもらうためのプロセスにいます。オールブラックス・フィフティーン戦に向けても準備はしてきたつもりでしたが、相手のクオリティが高かった。そしてサモア代表戦でも残念な結果に終わりました。自信を失った部分があった。今週は、自信を失ったところからプレッシャーをなくす、お互いのためにプレーする(ことにフォーカス)。オン、オフの部分でバランスを取りながら、チームをどう高めるかを意識しました。まだまだ課題はある。最後、失点を防いだのはよかったですが」

——初選出の長田智希選手は、インサイドセンターで先発して好プレー。ガンター選手に途中出場したナンバーエイトのテビタ・タタフ選手といった復帰組も、それぞれ持ち味を発揮しました。

ジョセフ

「長田は将来性のある選手。感心しました。これまでの試合、もしかしたら彼はベストではなかったのかもしれません。ただ、今回試合に出るのにふさわしかったので先発しました。フィットネス、スピードがあり、スマートな選手です。

 ワールドカップでフィジカルが求められるなか、テビタ、ガンターを起用しました。怪我で出遅れましたが、今日、いい兆しが見えた。来週以降のセレクションを踏まえ、ワールドカップのメンバーを選びます。たくさんいい選手がいて、選考が難しい。そのことはよかった」

——この1週間、意識したことは。

姫野

「僕は一貫して自分たちのプロセス、プレーにフォーカスしていこうと話しました。今週はトンガウィーク。(日本代表の)トンガボーイズたちがバーベキューを先導してくれ、絆をタイトにしてくれた。それが試合のなかにも出た。最後のディフェンスにはチームの絆を感じました」

 8月5日に東京・秩父宮ラグビー場で、フィジー代表とぶつかる。大会前最後の国内戦だ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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