Yahoo!ニュース

注目のTMO判定は? サンゴリアス流大が見解。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 いまの日本ラグビー界で極端に存在感を発揮しているものに、テレビジョンマッチオフィシャルがある。

 通称TMO。反則やトライの有無を見返す映像判定だ。

 5月13日からの国内リーグワン1部のプレーオフ準決勝でも、このTMOが試合時間を長引かせた。慎重を期した。

 昨季優勝チームの埼玉パナソニックワイルドナイツが横浜キヤノンイーグルスを51―20で下した一戦では、危険なプレーの判定が重なり計3枚のカードが出た。

 クボタスピアーズ船橋・東京ベイが昨季準優勝の東京サントリーサンゴリアスを24―18で下し、初の決勝進出を決めた一戦でもTMOが重なった。

 まずは前半5分。サンゴリアスのツイ ヘンドリックが約2分前に繰り出したハイタックルをリチェック。レッドカードによる一発退場が決まった。

 13分にはスピアーズのマルコム・マークスのハイタックル、さらにその約1分前にあった北川賢吾のハイタックルを見返した。北川がイエローカードを受けた。

 サンゴリアスの田中澄憲監督は言う。

「こういう一発勝負のゲームになると、レフリーにもプレッシャーがかかりますよね。より正確な判定もしないといけないレフリー側の立場もあります。スローモーションで見ればそうだったと言われれば、そうだと言うしかないです。TMOが多いという意見はあるとは思うのですが、そういう制度がある以上、チーム側がそれをどうこう言うのは…」

 試合後、ミックスゾーンに現れTMOについて聞かれたのは流大。サンゴリアスのスクラムハーフで、この日は後半11分から途中出場していた。

「レフリーが全て」

 こう前置きしながら語った内容は。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「正直な話、僕の真横で(味方が)グラウンディングはしているのですが、『レフリーからも、アシスタントレフリーからも見えない』『オンフィールドディシジョンはノートライ』『カメラにも映っていない』。それは、理解できます。そういうルールですし、それがレフリー陣の判断なので、何も文句はないです」

 話題のシーンはラストワンプレーである。

 後半ロスタイム45分。敵陣ゴール前左のラインアウトからモールを作り、押し込み、ボールを持ったサンゴリアスの選手が左タッチライン際でグラウンディングしたかに映った。

 トライと判定されれば、サンゴリアスは1点差に追いつき、直後のコンバージョンで逆転を狙えた。

 ところがトライの有無は、TMOに委ねられた。

 レフリー、タッチライン際のアシスタントレフリーとも、ボールがグラウンディングされていたかどうかが確認できていなかった。

 流は判定の間、相手のバーナード・フォーリー、滑川レフリーとともに大型スクリーンを注視していた。

「(画面に)ボールか、スパイクか、わからないようなのが映っていて。僕たちはそれがボールだとわかっていたので、『ボールですよ』と」

 果たして、ノートライ。そのままスピアーズの決勝進出が決まった。流は語る。

「さっき(試合後)、TMOの久保(修平)さんとはお話しさせていただいたんですけど、『判断できないから、ノートライ』と。レフリーが、全てなので。残念ですけど、現状のルールというか、TMOのシステムだと、レフリー陣の判断が正しいと思います」

 ファンの歓喜を誘ったトライが取り消される場面は、他にもあった。

 17―13とスピアーズの4点リードで迎えた後半25分。サンゴリアスは、敵陣10メートルエリアの中央のラックから4本のパスをつないだ。左端のスペースを攻略した。

 尾崎泰雅のトライを決めたかに見えたが、TMOがその直前のフェーズを精査した。接点から球を拾おうとした流が、ノックオン(ボールを前方へ落とす反則)を犯していたと判断された。得点板は動かなかった。

 さらに、スコアが24―18となっていた後半ロスタイム42分。サンゴリアスは自陣深い位置から最後の反撃に出て、ハーフ線付近右から左大外へ展開する。

 フルバックの松島幸太朗が好走を繰り出し、尾崎泰が「2度目」のフィニッシュか。

 否。その数十秒前に放たれた流のパスが、スローフォワード(ボールを前方へ投げる反則)と見られた。

 それとほぼ同じタイミングでスピアーズが反則を犯していたとあり、サンゴリアスはラストワンプレーまで攻め続けられたのだが…。

 審議されたふたつのプレーに絡んだ流は、このように続けた。

「それも、ルール通り。戻れば(映像を巻き戻せば)反則がある。レフリー陣の判断が正しいです。ただ、(試合後)それも色々なレフリーの方々と話させてもらったのですけど、やっぱりTMOが多すぎる。今日に限ったことではなくて、『ちょっとした反則をレフリーやアシスタントレフリーが見えていなくて、ゲームが流れているのであれば、僕は正直、止めて欲しくないです』と(申し出た)。それが相手の反則だったとしても、僕たちがTMOをして欲しいと言っていても、レフリーの判断で流してくれたほうがゲームとしては流れる。スムーズなゲームを一緒に作っていきましょう、と。『もちろん、こっちに規律の問題があるのはこちらの責任なので、まずは自分たちに目を向けます。レフリーも一緒にレベルアップしていただきたいです』とは伝えました」

 プレーの精度、強度が高まり続けるいまのラグビー界にあって、TMOはジャッジの正確性を担保するツールとして認知される。一方、レフリーの現場判断や試合の進行に影響を与えない活用方法について、議論の余地がある。

 その経緯について、勝ったスピアーズのフラン・ルディケヘッドコーチはこう言葉を選んだ。

「クレイジーゲーム! 色々なことが起こった試合。レッドカードが出た相手のシェイプ(攻撃陣形)が変わり、我々も色々と対応しなければいけなかった。そんななかリーダーがタスクに則り、次の仕事は何かを(共有し)遂行してくれたのが、結果に繋がった。レフリーのことはコントロールできないが、フェアなコールだけは吹いて欲しい。最後のプレーも――サンゴリアスさんとしてはいろいろあるかもしれないが――正しいコールだったと思う」

 この日はTMOがハイライトとなったものの、選手側のパフォーマンスも光った。

 数的不利を強いられた後のサンゴリアスの献身ぶり、サンゴリアスが途中から投入したサム・ケレビの好守にわたる活躍、スピアーズのフォワード陣の強烈なタックルや接点でのプレッシャー…。

 2019年のワールドカップ日本大会で日本代表となった流は、こうも述べる。

「14人のなかでは最高のパフォーマンス。何も言うことはないです。すべて出し切ったゲーム。それで負けたのなら、クボタさんが強かった、ということです」

——流選手が入って意識したことは。

「相手のペナルティーをもらうまで我慢してボールを保持し、得点圏にいることを意識しました。インパクトプレーヤー(交代出場の選手)がいい仕事をして、ボールキャリア(突進役)が少しずつ前に出られていた。皆が、いい仕事をしてくれた」

 サンゴリアスは決勝前日の5月19日、秩父宮で横浜キヤノンイーグルスとの3位決定戦に挑む。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事