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大学選手権翌日、続々とリーグワン大卒新人が発表。裏側は?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
スピーズ入りが発表された帝京大学の二村(写真:松尾/アフロスポーツ)

 ラグビーの大学選手権決勝から一夜明けた1月9日、国内トップにあたるリーグワンのクラブが相次いで新入団選手を発表した。

 前日の決勝でプレーした選手の名も挙がっており、ネット上では感嘆の声が挙がっている。

アーリーエントリー実現なるか

 今季からリーグワンは、アーリーエントリー制度を導入している。以前は加入内定選手が試合に出られるのは新年度の4月1日以降だったが、今回からは所定の手続きを踏めば大学選手権終了後から公式戦への出場権が得られる。

 現日本代表で、帝京大学の主将として大学選手権6連覇を経験した流大は、今回の動きには概ね賛成の立場だ。

「本人たちの意思も尊重してほしい。大学生活は1度しかなく、学生生活を満喫するのも彼らの人生。(チームと選手との)コミュニケーションが大事になります」としながら、こう話す。

「優秀な若い選手が活躍できる場をたくさん作るのは大事。その第一歩ではあると思います。(リーグワンに加盟する現日本代表の)李承信、メイン平はいまの大学4年生の代です。その年代で活躍する選手は、これからどんどん出てくる。(今後は)大学3年生にもリーグワンもしくは(それに準ずる)上のレベルでプレーする機会を、日本ラグビーは作っていかなくてはいけない」

 チームによっては、すでにシーズンを終えた大学生選手を練習に参加させている。自分たちの組織が選手に基準をいち早くクリアさせるよう、当該の若者が学生時代に経験していないタフなプログラムを課しているわけだ。

 大卒ルーキーたちがリーグ戦全体の競争力にどれだけ影響を与えられるか、注目が集まっている。

 もちろん、全てのチームが早期デビューを促すとは限らない。大学とリーグワンでは、試合の強度が異なる。故障のリスクは高まる。

 あるクラブのヘッドコーチは、アーリーエントリー制度への所感を問われ慎重な言い回しで応えた。

「肉体的な準備ができていない選手を早めにプレーさせることには、かなりの危険性を伴う。責任を持って、正しいことを正しいタイミングでおこなうのが大事です」

注目の2チーム

 1月9日時点で発表されたリストを見ると、クボタスピアーズ船橋・東京ベイと静岡ブルーレヴズの顔ぶれとその背景が興味をそそる。

 スピアーズの前川泰慶チームディレクターは、普段からスピアーズの練習を見学し、自軍のラグビーを成り立たせるのに必要な選手像をアップデート。それを前提に、各大学の才能を精査する。

 その流れで、旧トップリーグ時代から2季連続でリーグの新人賞を輩出している。

 昨季は元法政大学主将の根塚洸雅がタイトルを獲り、昨夏、日本代表入りを果たした。

 一昨季に埼玉パナソニックワイルドナイツの竹山晃暉と同時受賞を果たした金秀隆は、関東大学リーグ戦2部の朝鮮大学校出身だ。全国的には無名ともいえるチームの選手が初年度から活躍した事実は、自ずとクラブのスカウティング力を証明した。

 現在、関西大学Aリーグ・立命館大学主将の木田晴斗が実質的なルーキーイヤーながら主戦級で活躍している。チーム関係者の謙遜の仕方に、面白みがある。

「発掘する力を評価されていますが、木田はもともと誰がどう見たって凄かったので…。秀隆の件でそう言われるならわかりますけど」

 かような背景があり、クラブは関東リーグ戦勢で新人賞を狙えるタレントをチェックしてきた。

 その一環で獲得したのが、今季2部からの昇格を決めた拓殖大学のデーヴィッド・ヴァンジーランドだ。恵まれた体格と献身的な姿勢が評価された。

 なお帝京大学の二村莞司、早稲田大学の松下怜央といった選手権決勝組は、所属先で本格的にブレイクする前から注目されていた。

 静岡ブルーレヴズは、前身のヤマハ発動機ジュビロ時代に大卒日本人選手のプロ転向を凍結させた経緯を持つ(現在は緩和)。そのため関東近縁のクラブとは異なるリクルート戦略を練ってきており、現日本代表の日野剛志はスカウトではなく入部テストを経て入部を決めていた。

 しかし最近は、風向きが変わりつつある。

 流や松島幸太朗の世代で屈指のフランカーと謳われた西内勇人は、2021年に引退するとサラリーマンとして所属先の上司に貴ばれながらも採用に転身した。堀川隆延監督きっての要望だ。

 西内は「痛がる選手」を懐疑的に見る独自の眼力や謙虚な人柄で、各年代の実力者と向き合っている。

 未来の強力なチーム作りの礎となりうるのが、このほど発表された5選手だ。

 京都産業大学で共同主将だった家村健太は日本人スタンドオフとしての台頭が待たれ、東洋大学で主将を張った齋藤良明慈縁はスピリチュアルリーダーの資質を有する。選手権決勝で2トライを挙げた早稲田大学の槇瑛人は、決定力がある。

 これからの発信が待たれるチームには、昨季4強の東芝ブレイブルーパス東京が挙げられる。

 一時は親会社の経営不振から補強に難航も、近年は元日本代表の望月雄太採用が継続的に「ロビー活動」(本人談)を実施したのが実っている。

 2020年には東海大学の眞野泰地、大東文化大学の佐々木剛、京都産業大学の伊藤鐘平、といった各大学の主将経験者が相次ぎ加入した。佐々木と伊藤は今季、日本代表のリーチ マイケルらフォワード第3列の定位置を争う。

 さらに21年には、流通経済大学付属柏高校のワーナー・ディアンズが大学を経ずに入部。この一本釣りは、本人が公式戦デビューの前に日本代表入りしたことで国内有数のファインプレーと見られることとなった。

 22年度入部の木村星南(東海大学)、原田衛(慶應義塾大学)は、今季開幕から3試合連続でそれぞれ1、2番をつけている。今季もチームスピリットの「猛勇狼士」にマッチした、タフな大型選手の加入が期待される。

 前年度、知名度の高い選手の大量補強で話題を集めた東京サントリーサンゴリアスは、今季、自ら入部テストを志願した有名選手をはじめハードワークを貴ぶチームカルチャー、および「アグレッシブアタッキング」というプレースタイルにマッチした逸材が集まるはずだ。

いまは4年生より2、3年生

 選手権決勝後の取材エリアでは、有力選手に卒業後の進路を問う記者が複数名いた。むろん、公式発表前の情報を大勢の大人に開陳する大学生アスリートはきわめて稀だ。もっとも有力な大学4年生の進路は、遅くても最終学年の春から夏までに決まる。

 明治大学の神鳥裕之監督は、前所属先の現リコーブラックラムズ東京で採用を務めたことがある。大学の指導者として学生の進路相談に乗る際は、このように伝えているという。

「(選択を)迷うなら最後まで迷え。施設を見に行きたければ行ってこい。ただ、本当にその気がない企業さんには、『言いづらい、伝えにくい』とは考えず、早めに断りなさい、と。それを(回答を)引っ張っては、相手のためにもならない。私も誘う側の人間を経験していますが、早く断ってもらうことで同じポジションの違う人間を探すことができるので」

 筆者が取材を開始した2006年度以降、複数クラブからのラブコールを受けて態度を保留していたと確認が取れたのは、2007年度慶大卒の山田章仁(ホンダヒート→三洋電機・パナソニックワイルドナイツ→NTTコミュニケーションズシャイニングアークス→現九州電力キューデンヴォルテクス)のみだ。山田はフランスでのプロ契約を目指し、プロモーション動画を仲介役へ送付していた。

 つまりいまは各クラブとも、責任企業の就業のレギュレーションを踏まえたうえで現大学3年生との対話、現2年生以下の補強リスト作成に注力している。直近のニュースにファンが驚いている間に、来年以降のサプライズを仕込んでいるわけだ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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