Yahoo!ニュース

日本代表では「行動伴わないと信頼得られない」。中尾隼太、初陣控える心境は。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
試合前日練習後に会見(筆者撮影)

 地方の星と呼ばれて久しい中尾隼太。日本代表のおこなうゲームへ出られることとなり、改めて言った。簡潔かつ思慮深い言葉が連なる。

「自分自身もラグビーでここまで来られるという自信も全くなかったです。でも、色んな人の働きかけで導かれてここまで来られました。僕みたいな人がこういう舞台でプレーすることで、たくさんの子どもたち、地方のラグビーをしている人たちにもチャンスがあるとわかると思います。僕も勇気を持って、自分らしさを出して、メッセージを伝えられる人になりたいです」

 10月1日、東京・秩父宮ラグビー場。JAPAN XV名義で臨むオーストラリアA戦に先発する。司令塔のスタンドオフに入る中尾は、周りの海外出身者や強豪校出の猛者とは異なるキャリアを歩んできた。

 公立校の雄として知られる長崎北陽台高校を卒業後、鹿児島大学に進んだ。多くのエリートが関東、関西の強豪大で揉まれるなか、教師を目指しながら九州学生リーグ1部に参戦していた。

 大学4年時に入った九州学生選抜でのパフォ―マンスが関係者の目に留まり、当時のトップリーグ加盟の現東芝ブレイブルーパス東京行きを決めた。

 公式で「身長176センチ、体重86キロ」の27歳は、まさに発掘された逸材だった。

 試合前の共同会見では、「信頼」を勝ち取る過程についても語った。

「本当に行動が伴っていかないと信頼を勝ち取れない」

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——明日はキャップ対象試合ではないとはいえ、代表チームの選手として出場機会を得られました。

「キャップ対象かどうかとかは自分にとっては関係なくて。新しい人生の第一歩として。代表でもたくさん練習してきました。いま持っている力を出して、楽しんでいる姿を見せられたらという思いです。コンディションも順調です」

——松田力也選手、李承信選手、山沢拓也選手ら同じ位置を争う選手が故障しているなかでの先発。代表人生を左右する試合では。

「周りにたくさんいい選手がいるなか、本当に自分らしさを出していきたいと思っています。具体的には、ディフェンスではタックルを必ず成功させないといけない。相手のラインにアタックしてショートパスをつなぐゲームもしたいです。代表ではキッキングゲームもたくさん練習しました。ここで新たな課題として出てきたキッキングゲームを試合で出せるかも見られていると思うので、挑戦していきたいです」

——ここだけは負けないという点は。

「とにかく大きな声を出して、しっかりチームの方向性を示していくところは、自分のなかで意識しています」

——メンバー入りを受け、首脳陣や周りからかけられた言葉は。

「首脳陣からはおめでとうと声をかけられました。多くの人からは、自信を持ってプレーしろと。明日は良し悪しを気にしすぎずに思い切ってプレーしたいです」

——今年6月の初招集から、出番をもらうのに時間がかかったが。

「6月の代表に行った時には初めてということもあり、代表のラグビーに必要なものがわからない状態で行きました。そこで必要なものを知れて、足りないことがある点も実感しました。自分のなかで物差しができて、そこにオフ(の間)を含めて取り組んできて、やっと準備ができて、戦える状態になってきたなと思っています。他の選手がどうというより、自分のなかでだんだん準備ができてきて、自信が持てている状態です」

——「足りないこと」とは。

「まずひとつはジャパンではフィットネス、スピードが求められる。過酷な練習に耐え、インターナショナルレベルで通用するようなフィットネス、スピードが必要と。身体もこのオフで6~7キロくらい絞り込んできました。あとはブラウニー(トニー・ブラウンアタックコーチ)のもとでキッキングゲームをしなければいけない。そこでのスキルと、どういう戦い方をするのかについて学んできました」

——これから体重を絞った状態で、身体の大きな外国人選手と対峙する。

「体重が軽くなると、コンタクトの場面で少し弱いなと感じる場面もあったんですが、それよりもまず走れることが大事。それと、体重(減少)でのコンタクトの質を補うスキルがあれば、解決できる。大丈夫だと思っています」

——首脳陣、主力選手から評価されているが。

「自分のなかではトレーニングでも一貫性を持ってやっていくのが大事だと思っています。本当に行動が伴っていかないと信頼を勝ち取れないので、そう言っていただける(高く評価される)のはありがたいです。明日の試合で自分がどういうパフォーマンスを見せられるのかが、もう1歩、上がっていくうえで大事。明日の試合は凄く重要になります。

 取り組んでいこうという姿勢がまずないと、パフォーマンスの一貫性はできない。意識するのは、まず取り組む姿勢。前のめりになってもいいので、そこ(取り組む姿勢)で一貫性を持って励んでいこうと」

——タックルについて。

「僕自身、タックルすることに関しては、仲間のためとか、そういうところ(思い)を示せる部分だと思ってラグビーに取り組んできた。あとは大きな選手が相手になると、スキル、予測も大事。真正面からぶつかるだけではなく、スキルを伴ってタックルしていきたいです」

 6月から約1か月間にわたる代表活動は、志半ばで途中離脱している。当時チームがターゲットにしていた、対フランス代表2連戦の競争に加わるのが、簡単ではなくなった。

 ジェイミー・ジョセフヘッドコーチの談話が背景を物語る。

「中尾は前回(7月までのツアー)病気をしてしまい、出場機会がなかったが、東芝での活躍を見ていたし、これまで(秋)の合宿でも頑張ってくれたので、(1日の試合の)出場にふさわしいと思い、メンバーに入れました」

 夏場は悲運に見舞われた格好とあり、気持ちの切り替えは容易ではなかったかもしれない。

 中尾は、こう言葉を選ぶ。

「長い(国内)シーズンを戦った後に代表と、ずーっとラグビーをして1年間を過ごして、少し疲れた部分もあったのですが、このまま終わりたくない、という思いがあった。もう1回、頑張って代表に戻りたいという強い気持ちがありました。オフに入ってすぐ、自分の課題に取り組んできました」

 自分の心と正面から向き合い、奮起してきた。その延長に、10月1日の80分間がある。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事