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プレーオフ決勝へ。サンゴリアスはワイルドナイツをどう倒す?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
ガンター、稲垣(左から順)と目を合わせる堀江(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 国内ラグビーリーグワンのプレーオフ決勝が5月29日、国立競技場である。昨季、前身のトップリーグの決勝でもぶつかった埼玉パナソニックワイルドナイツ(ワイルドナイツ)と東京サントリーサンゴリアス(サンゴリアス)が対戦。本欄では2週にわたり、両軍の特徴と「攻略法」を、取材成果をもとに考察する(サンゴリアス編はこちら)。

「幅! 幅!」

 決戦を4日前に控えた25日、熊谷市内のグラウンドでワイルドナイツが実戦形式のセッションを重ねる。「幅!」とは、看板たる防御ラインの横幅を保つ意識である。

「タックルは(多くの場合で)2枚。多くのディフェンスコーチが考えるのは『次(の局面)を13人でどう止めるか』です。ただワイルドナイツは『1人(多く)起き上がって14人で止めちゃおうよ』というものです。コンセプトが違う」

 早稲田大学などで指導に携わる後藤翔太さんは過日、日本経済新聞社のイベント内でこのように説明する。ワイルドナイツが防御の総枚数を「14人」に保てるわけは、「前提として、ひとりひとりの能力が高い」とする。

「『14人で守ろうと決めているにもかかわらず、1人が起きられなくて実際は13人で守る…』というのが(想定と異なるため)危ない。だったら最初から13人で守ろうと考える。でも、(個々の能力が担保されている)ワイルドナイツは発想が違って、起き上がる前提で物事を考えるんです」

 事実、ワイルドナイツはほとんどの防御局面で、1人目のタックラー(T1)がボール保持者を倒すと、その内側(接点寄り)にいる2人目のタックラー(T2)が援護射撃を放ったり、向こうの持つ球に絡んだりする。その間、1人目のタックラーは起立し、然るべき位置に入る。

 刺さって、起きる動作の身体化が、ワイルドナイツの――少なくともフォワードや両センターで――レギュラーになるための条件のひとつとなっているような。

 加えて興味深いのは、防御の並び方。接点の周りから順に並び立つのが常道とされるなか、ワイルドナイツは大外から均等に人が並ぶ。そう。「幅」を保つ。

 接点から球が出ると、適宜、ラインがせり上がり、ランコース、パスコースを限定して「T1とT2」の勝負しやすい環境を作る。攻め手のミスや反則を誘い、その位置がハーフ線より向こう側であればペナルティーゴール、セットプレーからの簡潔なムーブでスコアしてしまう。

 開幕から2戦はクラスター発生につき不戦敗も、残る実戦は全勝。レギュラーシーズン2位通過も、昨年度のトップリーグに続く「2連覇」が大きく期待されている。

攻略の鍵1 ディフェンスをさせない

 相手の強みを消すのが勝負の鉄則だとしたら、ワイルドナイツに勝つにはワイルドナイツの得意な防御をさせないことが求められるのだろうか。

 事実、レギュラーシーズンで25―26と、スコア上もっともワイルドナイツを苦しめた静岡ブルーレヴズがその策を採っている。自陣で得た球を簡潔に蹴り、その先でチェイスラインを整える。

 今度戦うサンゴリアスはラン、パスを利した連続攻撃を部是としている。ただしプレーオフへは、「ファイナルラグビー」を意識すると中村亮土主将は言う。

 準決勝から、陣地獲得をベースとした手堅い試合運びを意識。さらに言えば、レギュラーシーズンでの直接対決でもキックをきっかけにスコアを得ている。

 12点リードで迎えた前半13分、スクラムハーフの流大が自陣からボックスキックを蹴る。

 落下地点にはワイルドナイツのスタンドオフ、松田力也が立っていたのに対し、サンゴリアスのチェイサーはロックのハリー・ホッキングス。ホッキングスは約20センチの身長差を活かして競り勝ち、間もなくサンゴリアスはペナルティーゴールを獲得。17―3。

 決勝戦でも、サンゴリアス側が蹴る球種、蹴る位置、それを追う顔ぶれがスコアボードを左右するかもしれない。

 サンゴリアスのフッカーである堀越康介は、こう展望する。

「80分間をトータルで考えた時にリスクを取りすぎない場面もあるとは思う。陣地によって戦術、武器があるので、それを100パーセント、遂行できたらいいと思います」

攻略の鍵2 ディフェンスを破る

 いくらディフェンスをさせずに勝とうとしても、一度もボールを持たずに試合を運ぶのは現実的ではない。防御をさせない策と同時に、防御を破る術も用意はされたい。

 今季のレギュラーシーズンにおいて、一時4位と躍進した横浜キヤノンイーグルスはワイルドナイツと2度対戦。最後にぶつかった第14節では24―33と敗戦も、前半を17―3とリード。意図した攻めでふたつのトライを奪っていた。

 数日後、チームを率いる沢木敬介監督は、プレーオフでの再戦を目指す立場としてこう述べていた。

「ワイルドナイツのディフェンスを破る方法はひとつしかないです。言わないけど」

 ここからかすかに続いた問答と、実際にイーグルスが点を取ったり、得点機(ペナルティーキック獲得に伴う敵陣ゴール前右でのラインアウト)を作ったりした流れ、さらに前述のブルーレヴズがワイルドナイツを首尾よく攻め落としたシーンを合わせて分析してみる。

 今回は決勝前とあり詳細は省くが、ワイルドナイツの防御を攻略するためには、接点へ複数名のタックラーを巻き込み、かつ素早く適切な判断を下すことがまず求められるような。

 この説明で腑に落ちない方は、ひとまず、それぞれのJ sportsの関連サービスやリーグワンのホームページにあるハイライト動画などで当該シーンを見返していただきたい。

 ともかく後藤さんが言うように、守る側にとっては「14人で守ろうと決めているにもかかわらず、1人が起きられなくて実際は13人で守る…」との状況がもっとも「危ない」のだ。

 果たしてサンゴリアスは、接点でのハードワークでワイルドナイツの「13人」をいくつ作れるか。その瞬間、サンゴリアスはどの位置で、どんな攻め手を打つだろうか。

 前出の堀越は続ける。

「僕らのチームはアタックに自信を持っている。ファンの方もそれが見たいと思う。パナソニックさんもいいチームですが、自分たちが自分たちのやるべきことを100パーセント遂行できれば、穴も見えてくる。チャンスをものにしたいです。ブレイクダウンで枚数を減らすとか、すぐにリロードしてポジショニングを速くするとか、細かい部分が勝負を分けると思います」

攻略の鍵3 最後まで余力を残せるか

 ワイルドナイツは、ボールを持たずに刺さっては起き上がりを繰り返す。身体接触の多いフォワードの選手にとって負担が大きかろう。

 ただしこのクラブのベンチには、日本代表経験と機動力のあるフロントローが並んできた。クレイグ・ミラー、堀江翔太、ヴァルアサエリ愛の3人だ。特に堀江は防御システムの構築に関わっているとあり、芝に立てば自らがハイパフォーマンスを示すとともにチームを戦術的側面から整備してしまう。

 ニュージーランドと南アフリカの代表選手を計3名、擁するコベルコ神戸スティーラーズが、2度の対戦で逆転負けを喫している。前述のイーグルスも、前半に作った14点リードを後半20分頃までに帳消しにされている。

 決勝戦ではミラーが欠場も、右プロップの先発要員である平野翔平が左プロップのリザーブに位置。3名は、最前列の位置で先発する稲垣啓太、坂手淳史主将、藤井大喜がスクラム、防御で相手のエナジーを削ったあたりで順次、投じられそう。サンゴリアスにとっては序盤のうちに一定の点差をつけなければ安全圏に突入したとは言えないだろう。

 ワイルドナイツが決勝当日の終盤にももう一段、ギアを入れられるのだとしたら、対するサンゴリアスもそれと似た手を打たねばならなそうだ。前述の直接対決時、サンゴリアスは17―34と後半無得点に終わっているからだ。

 ブレイブルーパスとの準決勝では、フッカーの堀越康介、スクラムハーフの齋藤直人ら交代選手を活躍させている。特に守備時のワークレートを高めた。

 決勝当日は、この2人に加え切り札的なナンバーエイトのテビタ・タタフを先発ではなくリザーブに回した。ジョーカーたちが投じられるタイミングに注目だ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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