Yahoo!ニュース

目下リーグワン首位サンゴリアスが乗り越えた「難しさ」。青木佑輔コーチ語る。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
スタイルは「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 ウイルス禍で始まったジャパンラグビーリーグワン。各クラブともできる限りの感染対策を施しながら、強化を図っている。

 ディビジョン1で目下首位の東京サントリーサンゴリアスも然りだ。

 長らくこのクラブで戦ってきた青木佑輔アシスタントコーチが、4月上旬までにオンラインで取材対応。PCR検査の結果とにらめっこをしながら練習量を調整する苦労に加え、このクラブにある普遍的なよさについても話した。

青木コーチ(スクリーンショットは筆者制作)
青木コーチ(スクリーンショットは筆者制作)

 2018年に選手を引退して転身の青木コーチは、現役時代、スクラム最前列のフッカーとして日本代表に選出された。小柄ながら、強靭さとスクラムワークに定評があった。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――大変な時代と向き合いながら、第11節終了時点で10勝1敗。どう見ていますか。

「練習がほとんどできない状況で試合に臨むことも何度かありました。そのなかで危ない試合もありましたし、パナ(埼玉パナソニックワイルドナイツ=昨季、前身のトップリーグで優勝)には負けてしまいましたけど、勝ち切れている試合もある。あまりへこむこともなくて、チームとしての総力が上がっていると感じます。

(接点周りとともに担当する)スクラムに関しては、組まないと成長しない、口だけで組むことはできないと僕は思っている。そのなかで、試合ができても(スクラムの)練習ができない状況が続くと…とは思います」

 サンゴリアスを含めたリーグワンの加盟クラブは、週の頭にリーグで義務付けられている定例のPCR検査をおこなう。複数クラブへの取材を総合すると、検査をした当日はマスクをつけて練習をするケースが多い。

 さらにサンゴリアスの場合は、当該の検査結果によっては「マスクデイ」を追加するようだ。選手が密接するスクラム練習の機会は自ずと限られ、「1週間のうち本気で(スクラムの)練習できるのが1回だけ」という時もあったと青木コーチは言う。

「通達されている基準よりも、サントリーが設けているそれが厳しいものなのだと思います。なるべく試合を組みたいというのが前提にあるので。やはり、試合ができないのが(規定上、不戦敗になるので)一番、きついので」

 果たして、ディビジョン1で1度も不戦敗を喫していない5チームのうちのひとつとなっている。スクラム強化のいまについて、青木コーチはこうも続ける。

「(時期によっては)スクラムでは何が大事かについて皆でコミュニケーションをとって、細部を(詰められるかどうか)、1日に賭ける、と。コミュニケーションが多く取れて、どうやって組んでいかなければいけないかの話し合いはできていると思います。

 ただ僕が思うに、組まないと精度は落ちていくんですよ。リアルな部分って、口で言ってもわからなくて、組んでコミュニケーションを取らないといけない部分があるんです。味方同士のバインドの仕方が本当にいいのか…とか。難しさは感じます」

――そのなかでも、スクラムの強さに定評のあるクラブと伍しています。

「(取材前最後にあった)イーグルス戦の前もあまり練習はできなかったですが、フロントロー(最前列)同士でプランを立てていました。

 分析の時、イーグルスの方からアグレッシブに来ると思っていた。そのアグレッシブさを抑えることがうまくいったので、かなりプレッシャーをかけられたと感じています。僕らがもらったペナルティはコラプシングでした。プレッシャーをかけてもらってしまうペナルティはネガティブじゃないのであまり問題視はしていないです。映像で見返しても、判定が厳しかったとも思います。ただ、(その反則を)大事な時間(試合終盤)に、繰り返してしまったのは問題でした」

――イーグルスとの接戦は結局、40―27で制しました。

「イーグルスのスクラム、強いと思うんですよ。自信を持っていましたし。監督のことも知っています。そこ(スクラムなどのセットプレー)をまず強くするというのが、監督のやり方的にはひとつの手だと思う。ただ、そこを叩けばパニックを起こすというか、ひとつのピースが外れれば(全体が)崩れるので、そこは狙っていこう、と話していました」

――対する沢木敬介監督はサンゴリアスのOBで、2018年度までの3シーズンは監督を務めていました。2016年度から当時のトップリーグで2連覇と、結果も出しています。現在のミルトン・ヘイグ監督体制とはどんな違いがありますか。

「(以前は)敬介さんがある程度は舵を切ってくれて、その上で僕らがどうアジャストして、チームに勢いを与えるかという感じ。(計画した練習内容にも)『この練習、意味あんの?』とか『ゲームテーマは××なんだから、それに沿った練習をしないとだめだよ』といったアドバイスがあったり、ミーティングもひとつひとつチェックしていたり。

 自分の練習の質やスタンダードが下がっても、気づかないものじゃないですか。そういう時に敬介さんはぱっと見抜くというか、一言、言ってくれる。

 ただ、いまのミルトンのもとでは、選手も主体性を持ち、僕らもやりたいことをやり、他の先輩コーチたちに助言をもらったりして軌道修正していく。

 僕はコーチ歴が浅いので、(周囲に)成長させてもらっていた部分がある。それでもミルトンの育った環境では、『1年目だろうが何だろうがプロのコーチだ』という考え(が普通)。(問題点があったとしても)あまり言ってくれないので、自分から『今日の練習どうでしたか』と情報を取りに行かなければいけない」

 ただ現在は、問いを投げかければ自己改革ができるようでもある。何よりサンゴリアスには、指導者が変わっても変わらない文化がある。

 国内の俊英が集まる状況を踏まえ、青木はこうも続けた。

――競争力が高いのは誰の目にも明らか。それでも毎年、好選手がサンゴリアスの門を叩きます。

「僕はここに長くいるのでサンゴリアスの魅力がわかっています。成長できる、見えない価値があるのも。(普段から)競争がある分、(試合に出る選手が)ガラッと変わっても勝ち切れる力があるのはサンゴリアスの強みです。常にレベルの高い選手同士で戦うことによって相乗効果が生まれ、ライバル関係がいいエナジーを生んで、(個々の)1パーセントの成長につながる。

 いい選手がたくさんいるなかで試合に出られなくなったりすると、自分が掲げていた目標、夢、見失うことがあるんです。それを訴えてくる選手もいます。

 ただ、僕はフォワードの選手とはいつも1対1でのミーティングをやりますが、そこで『最初に掲げた目標に対して努力しないといけない。それが夢の実現につながる』と話す。道を外さないようにはしているつもりです」

 今季は帝京大学の主将として大学日本一に輝いた細木康太郎が加入。大学シーン随一のスクラムの強さを誇った右プロップだ。

 青木コーチは「テレビで見ていると雄叫びをあげていて、荒々しさがある。だけど普段は低姿勢。ぎゅっとした、強そうな身体つきをしている」と見立てる。体調を整え、個の力で中央方向へ押し切ろうとする形を必要に応じて改善し、遅くとも来季までには爆発させたい。

 同じ新人のプロップでは、左右いずれも対応できる小林賢太にも太鼓判を押す。「いまは(右プロップの)須藤元樹が長期離脱。賢太にも3番(右プロップ)をやってもらおうかと。ラグビーナレッジが高く、言ったことはすぐできる」とのことだ。

 自身も現役時代は、タフな競争に競り勝ち2011年のワールドカップニュージーランド大会に出場するなど成果を残している。豪華戦力の「競争力」を維持し、頂点までの「道」を整える。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事