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同期・中村亮土の一言で変化。サンゴリアス垣永真之介は競争に「気が抜けない」。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
頭にあるのは「自分がいかに楽しく生きられるか」(スクリーンショットは筆者制作)。

 試合中は絶叫する。味方を鼓舞する。

「サントリー、最高!」

「プラスワン! プラスワン!」

 垣永真之介。東京サントリーサンゴリアス所属の30歳だ。

 スクラム最前列の右プロップにあって突進力やパススキルでも魅し、際立つキャラクターでもファンを楽しませる。

 昨季は前身のトップリーグでレギュラーシーズン、プレーオフを含め計9試合に出場。同年の日本代表ツアーにも参加し、いまは2023年のワールドカップフランス大会出場を目指す。

 今年1月発足のリーグワン・ディビジョン1でも、組まれた8度の実戦のうち7試合に出ている。

「サンゴリアスは層が厚すぎて、練習でも本当に(それぞれが)ぎらついていますし、一瞬たりとも気が抜けない。1試合、1試合、ベストパフォーマンスをしないと翌週から出られない生活が待っている。そういうチームです。1試合、1試合、命がけというか。いまは中野幹、サミー(セミセ・タラカイ)が素晴らしく、須藤元樹も調子を上げていて(取材後の試合で故障)。ここに素晴らしい新人の細木(康太郎)君が入ってきた。1試合、1試合、悔いの残らないように、いつ終わってもいいようにと思っています」

 本人が語ったのは3月15日。オンラインで共同取材に応じた。11日にはクボタスピアーズ船橋・東京ベイとの第9節を33-29で制し、20日には第10節を控えていた(いずれも東京・秩父宮ラグビー場)。

 NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安を69―29で下した第10節では出場はなかったが、その試合で垣永と同じポジションの選手が相次ぎ故障した。

 第11節での奮闘が期待される垣永は、トップリーグで最多タイの5度の優勝を誇るサンゴリアスのすごみ、自らの転機についてユーモアを交えて語った。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――皆が「ぎらついている」とは、どんな時に感じますか。

「練習強度です。(実戦形式セッションでは)試合メンバーと出ないメンバーが分かれているんですが、試合メンバーの戦略が全然、うまくいかない。相手のプレッシャーが強すぎてです。毎日、結果を残そうとしている選手がほとんどです。競争率、高いなと思います」

――2019年に就任のミルトン・ヘイグ監督は、どんな存在なのか。

「チームをよく見て、介入しすぎず、バランスを取ってくれている監督だと思っています。競争力をあおっているわけではないです。サンゴリアスは選手自身の意識が高いので、競争力は選手(の側)から生まれていると感じます」

――先ほど、帝京大出身の細木選手の名前を出されていました。皆、垣永さんに憧れているとのことですが…。

 質問で引き合いに出されたのは、下記のツイートだ。

 2022年2月、細木をはじめ大学ラグビー界きっての実力者5名が揃って入団を発表。今年4月以降にプレーできるその豪華な陣容に、一部のファンからは驚きの声が上がる。

 それを受け、前主将の流大は「最後に結局選択するのは本人だからそれを尊重してほしい(原文ママ)」。その流れで、垣永がユーモアを交えて返している。

「まったく沈静化しようとは思っていなくて、便乗して面白くしようと。(ネットユーザーの)コメント上では『さすが!』と、なっていますが」

 元明治大学監督の田中澄憲ゼネラルマネージャーの言葉を拝借すれば、サンゴリアスは国内外の実力者が1試合ごとのジャージィを「掴み取る」のを文化とする。既存の所属選手の多くも、学生時代から進路が注目されながらあえてその門を叩いている。垣永も流も、それぞれ早稲田大学、帝京大学で主将を務めていた。

 垣永のツイートはジョークのようで、サンゴリアスのよさへの敬意の表れにも映った。

――改めて、皆、垣永さんに憧れているとのことですが…。

「そうですね。有名選手をいっぱい引っ張って…みたいな感じ(で言われているの)ですが、サンゴリアスに憧れた選手がたまたまそう(有名)だっただけです。それと、サンゴリアスで活躍する選手がいるからこそ、憧れてもらえる。イコール、僕に憧れたんだと思います!」

 激しい部内競争にさらされたのは、自身も然りだった。入部した2014年度からの2シーズンはコンスタントに出番を得るも、2016年度以降は怪我の影響もあり不完全燃焼気味だったか。

 再起のきっかけは、同期の一言だった。

 同じく2014年度入部の中村亮土主将も、長らくレギュラー定着に至らなかった1人だ。

 しかし、出場機会を掴んだ際のパフォーマンスで代表選出、サンウルブズ(2020年まであったスーパーラグビーの日本チーム)入りを果たし、その延長で日本代表のスタッフ陣からの信頼を獲得。2019年のワールドカップ日本大会ではインサイドセンターとして全5試合に先発し、現在の代表でも副将を任されている。

 垣永は振り返る。

「僕自身、入団して最初の2年間は出られて、その後は全然、鳴かず飛ばずで、全然、出られなくなって、去年から少しずつ出させていただくようになった。毎試合、どこの会場で、どこのチームとやろうが、自分が100パーセントのプレーをする。そうコミットし始めて、(試合に)出られるようになってきたのかなとは思います。

 1番、大きかったのが、中村亮土と話したこと。僕、メンタル、弱いんですが、亮土にいいアドバイスをもらって、楽になって、ラグビーを楽しめるようになった。

(多くの)試合に出始める去年のシーズンが始まる前、同期会があって。僕は前監督の時から『1個、ミスをすればもうおしまい』みたいな世界にいた。そこで亮土は『大事なのはそこじゃない。自分がどうなりたくて、そこに向けてプロセスを作って、どういう気構えでやっていくかだ』と。僕は彼をずっと近くで見ていたわけじゃないですが、彼がいまの位置にまでなり上がったところを本当にすごいなと思っていて。そして、8年目(2021年)になってその気構えを聞いた。初めて人の言葉が刺さった、参考になった。

 いままで積み上げたものは確実に残っている。それを活かせるか、活かせないかは自分次第。ラグビーはメンタルに左右されますが、それまでの僕は気負ったり、喜怒哀楽に流され続けたりしていた。(中村亮の言葉で)一定(のマインド)で臨めるようになってから、納得できるプレーが増えたという感覚ですね。

個人的にはワールドカップに出ることと、チーム(サンゴリアス)で出続けて(リーグワンで)優勝するという目標を立てています。(ワールドカップについては)個人的にも1回、直前(最後の候補合宿に参加)で落選して、2019年はかすりもせず。次は僕のキャリアにとって最後のチャンスだと思います。コミットしていきたいです。目の前のこと(に集中すること)も大事なんですが、そこで1回だめだったから落ち込むのではなく、そこ(最終目標)に対してどうアプローチしていくかを考えだしています」

 27日の第11節(昭和電工ドーム大分)で対戦する横浜キヤノンイーグルスの指揮官は、沢木敬介。サンゴリアスの前監督だ。

 垣永や中村亮が控えに甘んじることも少なくなかった2016~18年度にタクトをふるい、トップリーグで2度の優勝を成し遂げている。

 サンゴリアスとイーグルスの現在の順位は1位と4位。今度の一戦は、リーグワン元年のプレーオフ(4強による)進出争いにかかわる重要な80分となりうる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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