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帝京大学・細木康太郎主将が「成長した部分は…僕の全てかな」と話したわけ。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
写真は昨年度(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 帝京大学ラグビー部が、加盟する関東大学対抗戦Aを3シーズンぶりに制した。

 

 12月5日、東京・秩父宮ラグビー場で慶大を下し、7戦全勝。細木康太郎主将が、飾らぬ言葉で思いを語った。

 この日は前半こそ反則を重ねて21―14と接戦も、後半のトライラッシュで64―14と大差で白星を得た。

 細木は桐蔭学園高校出身の右プロップで、スクラムと突進力を長所に下級生時から活躍した。主将を任された今季は、「勝つことを求めてきた」。入学前までは大学選手権で9連覇という強豪の門を叩いているとあり、初の日本一への思いは強い。今季の対抗戦開幕前にはこう話していた。

「僕自身が日本一に向けて行動、発言をきちんとしていく。これからはチーム全体を見ながら進むべき方向にどう促していくか、皆の顔、様子を見ながら、引っ張っていっている状態です」

 この日は負傷のため欠場していた。試合後は岩出雅之監督、この日のゲーム主将を務めた上山黎哉副将らと会見に登壇。同級生で同じポジションの奥野翔太も、プレイヤー・オブ・ザ・マッチの受賞に伴い同席していた。

会見後のフォトセッション。左から奥野、岩出監督、上山ゲーム副将、細木主将(筆者撮影)
会見後のフォトセッション。左から奥野、岩出監督、上山ゲーム副将、細木主将(筆者撮影)

 細木が奥野への思いを問われた際の率直な言葉は、複数の聞き手の関心を集めた。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「本日の試合は対抗戦の順位が決まる大事な一戦のなか、順位というのを意識してしまうゲームではあったのですけど、自分たちのラグビーにフォーカスして準備してまいりました。ゲームの前に岩出監督から『徹底』、ゲームキャプテンの上山からは『いままでやってきたことを信じてやり抜く』というテーマがあったなか、ゲーム中に反則が多いなど、いろんな場面があったなか、自分たちの立ち返る言葉があったことが、後半のああいう点差(大差)に繋がっていったのかなと思います。ゲームに出ているリーダー陣がよくコミュニケーションを取って、グラウンドに立っている15人がゲームに集中し、何にフォーカスして、何をやる、何を徹底するかができていたので、僕としては見ていて不安になるようなゲームではなかったです。以上です」

——対抗戦優勝の感想は。

「本当に一言で嬉しいというのと、ここからスタートと。僕たちの目標は大学選手権優勝。ここで全勝優勝できたことは僕たちのいいモチベーションにもなると思うので、そこはよかった。この経験、いまの僕たちのマインド、考え方が、大学選手権優勝に繋がっていけばいいと感じました。

…僕としては、本当に、今年1年、勝ちにこだわってきた。僕が試合に出る、出ないにかかわらず、グラウンドに立っている選手が、最後、必ず、勝つ、ということを、皆に求めてきましたし、僕自身もそれを、体現しようと思って、春から、そして、対抗戦が始まってから、常に問いかけてきましたし、僕自身も、そうやってきた結果が(出た)。勝つために何をするかということも、僕の勝つ、という言葉に入っていて、だから勝てるし、色んなことを考えて、勝ちたい、勝つということが、全部の試合に勝てて、優勝という結果になっているのかなと思います」

——今季の成長点は。

「まずは僕が成長した部分は…本当に、僕の全てかなと思っていて。正直、3年生までは人の話を聞かなかったり、そういう、人としての初歩的な部分ができていなかったり、と、いうところもあったんですけど、いまはそういうのを考えずにきちんとできるといいますか、普通のことを普通にできるようになってきたかなというのが、僕のなかで、自分でも、生活のなかで感じることかなと思います。

 理想の主将像というのは、僕自身にはなくて。僕が主将として皆に認められているのは、僕の個性、僕自身を認めてくれているからであって、誰かの真似をしようとか、誰かのような主将になろうとすると、皆が求めていた僕の主将ではなくなってしまうのかなと思っていて。僕は、僕の主将というのを貫こうと思っています」

 マイクを通して「人の話を聞かなかったり…」と言葉を選ぶと、聞き手は和やかにほほ笑む。身長178センチ、体重115キロの体躯で眼光の鋭い細木は、かねて人を惹きつけるチャームを持ち合わせているような。

帝京大の主将は最上級生同士の話し合いで決まる。岩出監督はその流れを踏まえ、こう証言する。

「上山君や押川(敦治副将)君でもいい主将になったと思いますが、細木君には力強く思いを訴え、鼓舞しながら引っ張っていける力を持っている。それが彼の力だけではなく、皆の力に変わっていく。それを期待して僕も賛同しましたし、彼自身もその通りになった。…スピーチも、大分、うまくなったと思います。彼はいま怪我していますけど、いいところで戻ってきて、彼とグラウンドで優勝したいです」

 会見では、奥野も話題に加わる。「同じポジションの同級生にとって、細木主将はどんな存在か」という問いかけにこんな答えが返ってきた。

「主将を選ぶ際、4年生で細木を推薦したのですが、僕も細木にキャプテンになって欲しいと。細木が主将になることで試合に出る時間、機会は減るかもしれないですが、減ったとしても、僕は細木に主将になって欲しいと感じていて。僕が細木でいいなと思う点は、勝つという気持ちが全面に出ていて、自分自身も熱くなって試合に臨めていると感じます。いい主将だなと思いました」

 このやりとりを踏まえ、細木はこう述べる。

「奥野は僕たちが2年生の頃から3番で出ていて、僕が18番だったり、僕が3番で、奥野が18番だったりと、2年生から争いをしていて。練習でスクラムを組むこと、試合でスクラムの話になった時に、3番にしかわからない、3番だけの悩みを奥野とは話せて、そこから人間関係として、ラグビーの話だけじゃなく、プライベートでも、奥野とは親密な関係になって。ラグビーの話をするだけじゃない人間関係のある奥野が近くにいてくれるのは、僕自身、心を許せるところはあります。また、ただ甘える関係だけじゃなくて、ポジションを争うという本当はしたくない、苦しいこともお互いにできる。同じポジションながら、とても、いい存在です」

 親しい同級生との定位置争いを「本当はしたくない」と言いながら、芝に出れば結果にコミットする。そんな船頭は、大学選手権での復帰を目指す。同選手権へは26日の準々決勝から登場する。岩出監督はこうだ。

「ここ2週間でフォーカスしてきたことは(試合に)出ていますが、練習として外したこと(優先順位を下げたプレー)がちょっと甘くなってきている。できていたことができていない、またはやればしっかりできてくるという、現時点での特徴をちゃんと学生たちにもわかってもらう。まさに、ここからが徹底かなと思っています。盤石はない。しっかり、我々は、我々のできることを徹底して、それをグラウンドで出す。そういう仕上げ方をしていきたいと思います」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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