Yahoo!ニュース

コロナ禍に「気持ちの波」。流大、約2年ぶり日本代表復帰までの道のりは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
2019年のワールドカップ日本大会時(写真:アフロ)

 2019年のラグビーワールドカップ日本大会で8強入りした日本代表の流大が、今秋、同大会以来約2年ぶりに代表活動へ参加。宮崎合宿を始めた9月29日、オンラインで会見した。

 攻撃の起点となるスクラムハーフで日本大会の全5試合に先発した流は、今年5月下旬からあった約1年8か月ぶりの代表ツアーへの参加を辞退した。今年は5月下旬までの国内トップリーグを最後に、本格的な競技活動からは離れていた。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——2019年のワールドカップ日本大会後のブランクについて。

「ワールドカップが終わった後とその次の年まではモチベーション高くやっていたのですが、2020年の夏と秋のテストマッチ(代表戦)が中止になり、準備してきたものだったので残念でしたし、次にどこを目指せばいいのか少しわからなくなった時期もありました。ジェイミー(・ジョセフヘッドコーチ)にも相談させてもらって、次のツアー(2021年春)は辞退させてもらいました」

 振り返れば2020年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた。6、7、11月に予定されていたテストマッチはすべて中止となり、同年の代表活動はすべてなくなった。当時の流は、こう述べている。

「(試合が)あるに越したことはないですけど、それはいまの世界の状況を見ればどうなっても受け入れざるを得ない。決まったことに対して一切、何も言うつもりはないです。ただ、その決断を早くしてもらうことが僕らの準備、モチベーションに関わる」

 そう。直近の国内トップリーグが1月中旬から2月下旬までの開催をもって不成立となるなか、水面下で編成された約50名の代表候補はオンラインミーティングを実施したり、配布されたトレーニングメニューで身体を鍛えたりしていた。

 代表戦の中止が正式に決まるまでその日常は続き、流は目標物が定まらぬなかでの孤独な戦いにやや疲弊したようでもあった。その頃、こうも語っていた。

「日本代表の試合があることを想定していたので、それに向けてトレーニングには励んでいたんですけど、春のシリーズがないと決まって、スイッチが入らない時期がありました。それでトレーニング、ラグビーから離れてみようと、すべてをオフにして、また、少しずつラグビーやトレーニングがしたいなと思うようになったらしたりと、気持ちの波はありました」

 やがて、2021年1月からの国内トップリーグにサントリー(現東京サントリーサンゴリアス)の一員として参戦。充実のシーズンを過ごしたが、代表活動への士気を高めるのはそう簡単ではなかった。

 かくして、ブリティッシュ&アイリッシュ(B&I)ライオンズ、アイルランド代表と戦う今年5~7月のツアーには参加しないことにしたのだ。

 以下、今回のオンライン会見の談話に戻る。

——辞退が承認されるまでの経緯は。

「実際に僕が相談したのはトップリーグ中の東芝戦(3月20日に第4節代替として実施)の前くらいだったと思います。僕の代理人を通して——確かZoomで——話をさせてもらって。『今回はモチベーション的に参加が難しい』。心も身体も100パーセントじゃないと代表に参加すべきじゃないというポリシーがあったので、そう伝えました。(自身の他に)何人かそういう選手がいるというのを、ジェイミーも把握していて。ただ、(指揮官からは)『次のB&Iライオンズ戦、アイルランド代表戦については急ピッチでチームを作り上げないといけない。可能なら来てほしい』『(4年に1度編成される)B&Iライオンズとの試合という、大きな経験となるものにはチャレンジしてもいいんじゃないか』という言葉をかけていただきました。そこではそれで終わり、考え直す機会を与えてくれて、1週間、色々と考えました。もちろんラグビー選手である以上、B&Iライオンズ戦の重要性は理解していますし、もう一生ないものとも思いました。ただそれよりも、自分のなかのメンタルのケア(が大事)。それと代表というのは日本のトップチームで、そこに行くには100パーセントの状態でなくてはいけないというのが自分のなかであった。それを踏まえ、『行けません』と話をさせていただきました。そうしたら、『また戻ってきてくれることを楽しみにしている』という言葉をもらいました」

——いったん代表から離れると、復帰できなくなるリスクも生じる。その点について不安はなかったか。

「もちろん、今回、選ばれるかどうかもわかっていなかった。それは不安というか、自分がした決断(の結果)だと思っていたんですが、まぁ、すべてを受け入れ、次にできることを頑張ろうという気持ちでいました」

 リフレッシュ期間は「実家に帰ってゆっくりした時間を過ごしたのと、新しい趣味もできたので、ゴルフをかなり楽しむことができました」とのことだ。

「(自身は)オフをいただいて、代表が敵地でアイルランド代表を追い詰めたり、B&Iライオンズに食い下がったりしているのを見ると、もう1度(日本代表で)やりたいな、という気持ちは芽生えました」とも話す。チームは2連敗も、一定の手応えを掴んでいた。

——その間、流選手はラグビーとどう距離を取っていましたか。

「身体はそこまで追い込まれた状態ではなく、メンタルも追い込まれていたというよりは100パーセントじゃなかったという感じ。いままでの僕はワクワク感、日本代表のためにという気持ちが芽生えたうえで代表の合宿へ行っていた。(今年の)トップリーグの期間は、それが少し薄れていたので今回の判断(辞退)をして、トップリーグのファイナル(5月23日)が終わってからはラグビーとは距離を取った。サンウルブズ戦(6月12日の国内強化試合)はリアルタイムでテレビ観戦しましたが、B&Iライオンズ戦とアイルランド代表戦は後々見返した感じです。気になってはいましたが、そこに集中することもなく、自分のなかでリフレッシュした感じです」

——そのツアーでは齋藤直人が活躍。流選手と同じ東京サントリーサンゴリアスのスクラムハーフです。

「能力があること、一緒にプレーして素晴らしい選手だというのはわかっていた。正直、(齋藤が代表戦で)あれくらいのプレーをすることは僕のなかでは普通だった。これからライバルになりますが、一緒に頑張っていきたい気持ちを強く持っています。

9番のポジションで出ていた選手は、僕のなかでは皆、よかったと思っています。直人も(茂野)海人さんもできることをしていた。ただ、トライの獲られ方が簡単だったとは外から見ていて思ったので、ディフェンスのオーガナイズのコミュニケーション(守備ラインの統率の声)はどうだったのかなというのは気になったりもしました。それとキックで多少のミスはありましたが、ボールの動かし方、テンポと、チームの戦術に合ったことはできていた」

——グラウンド外での普及活動にも時間を割いていたが。

「前回の代表に行かないことが決まった時点で、エージェントの方と相談し、いくつか子どもたちのためになるようなことがあればやりたいと話した。いくつかはコロナ禍で実現しなかったですが、実現できたものもある。世の中、厳しい状況に置かれている子どもたちがいることは理解していたので、ただ休むだけじゃなく、子どもたちのためになる行動はできたと思います。ラグビーから離れたところで、チャンスがあれば代表に行きたいという気持ちも芽生えて、トップリーグも最終的には負けてしまいましたが充実したシーズンを送れたので、代表で頑張りたいと。代表に戻ったからには2023年のワールドカップが最大のターゲットになると思う。そこがモチベーションになっています」

——そんななか、海外挑戦への意欲は。

「2019年の後は色々と話をしたんですが、いまは海外(移籍)への希望はないです」

——では、今回の代表合宿でフォーカスを当てること、アピールしたいことは。

「まず経験の部分では他の選手と比べても少しあるかと思います。ただ、ポジション争いという点で言えば、この前のテストマッチに出ていない分、代表から離れていた分、アドバンテージはまったくないし、何も保証されているわけではない。しっかりとチャレンジしないといけないです。チームでは新しい選手もいるので、コミュニケーションを取っていい方向へ進みたいです」

——久々の合宿で思うことは。

「今日、新しい選手とも会えました。毎回、日本代表のウェアを段ボールで配られますが、そのたびに嬉しい気持ちがあります。早速、明日から測定があるのですが、今日は緊張で寝られないと思うのですが、そういうのも楽しみたいと思います」

 今秋の日本代表は10月23日以降、オーストラリア代表、アイルランド代表、ポルトガル代表、スコットランド代表と順にぶつかる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事