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日本代表リーチ マイケル主将が語る「ティア1のスタンダード」を読み解く。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
27日のリーチ(写真提供=JRFU)

 ラグビー日本代表が5月27日、大分での合宿を本格化させた。初めて8強入りした2019年のワールドカップ日本大会以来の活動となる。同日、主将のリーチ マイケルがオンライン会見に応じた。

 現東芝所属のリーチは身長189センチ、体重113キロの32歳。15歳で来日し、東海大学2年時の2008年に代表デビューを果たし、ワールドカップでは2大会連続で主将を務めている。

 今回は久々の合宿で意識する「スタンダード」「コネクション」について強調していた。冗談を交えながらも具体的に説く。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——きょう、本格的に始動しました。今後の練習計画は。

「いまは(23日にトップリーグのプレーオフ決勝を戦った)パナソニック組とサントリー組はまだ合流していないですが、昨日はテスティング。体力テスト。ブロンコ、ヨーヨー(いずれも走り込み)、筋力テスト…。昨日は、ランニングのフィットネスメニューを色々とやってきて…。まだまだ強度は低いですけど、これから全員が合流して日曜日の練習ではまだまだ強度が上がると思います。練習では常にティア1のスタンダードを持っていこうとリーダー陣は意識している。ワールドカップ(日本大会)で負けた南アフリカ代表戦(準々決勝)も忘れず、コンタクトの強さを引っ張らないといけないと思っています」

——リーチ選手は、所属する東芝のシーズンが終わってからいままでどのように準備をしてきたか。またこれからの短期間で大事にしたいことは。

「残念ながら東芝は(トップリーグのプレーオフ)2回戦でシーズンが終わってしまったんですが、その終わった週からトレーニングを始めて。S&Cのコーチからメニューをもらって、こなしてきました。いい状態で合流できてよかったです。終盤に向けて身体をどんどん仕上げてきたので、100(パーセント)に近い状況であります。(前日のフィットネステストの結果は)かなり満足。もっと走んなきゃいけないと思いますけど、いいところまで来たと思います」

——集合時の雰囲気はどうだったか。

「サンウルブズやNDS(ナショナル・デベロップメント・スコッド=2019年までにあった代表選手の強化機関)で何だかんだで集まったり、顔を知っている選手が多くて、最初の(人見知りのある)恥ずかしい時期がすぐに終わりました。いまは確かに、パナソニック組とサントリー組という(トップリーグの)決勝に行った選手は合流していないけど、結構、多くのニューフェースがいるので、恥ずかしい時期はなくしたいです。

 このチームに長くいて、(いまは)スタートのところの意識は大分、違うと感じる。あとは入ってくる選手の『様子を知っている雰囲気』もあります。外から見て、この環境(これまでの日本代表)を厳しい環境だと思っている選手が多く、すぐそれに合わせてやってくれる選手がいます」

——合宿前の時点で、リーダー陣でオンラインミーティングをしていたと聞きます。その顔ぶれと役割分担は。

「前回のチームの強みは、リーダーシップグループとスタッフとのコネクションが凄く強く、お互いが信頼し合ってやっていたことです。今回のリーダーシップグループも(日本大会時と)同じようなメンバーです。

 前回と違って、僕の喋ることがすごく少なくなってきて。例えば昨日のランニングテストの前にラピース(ピーター・ラブスカフニ)が喋ったり、S&Cテストの前後にはマノ選手(レメキ ロマノ ラヴァ)が喋っていて。『ボトルを持って帰るように』『タオルをあちこちに置かない』とか、片付けのことを。こうやって、(人に)言われなくてもチームを引っ張っているのは、いいことだと思います。リーダーシップグループは、キーになってくると思います」

 前日から大分入りし、合宿を開始。6月12日には静岡・エコパスタジアムで、特別編成されるサンウルブズと強化試合をおこなう。

 最大のターゲットは同月26日のブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ(B&Iライオンズ)戦。イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドを代表する選手を集めて4年に1度編成される同チームとは、スコットランドのエディンバラで激突する。さらに7月3日には、ダブリンでアイルランド代表戦に挑む。

——B&Iライオンズ戦に向けて。

「確かにB&Iライオンズ戦はとても大きな試合になると思いますけど、まずは自分たちにやれることにフォーカスしないといけない。

B&Iライオンズ戦への思いはまだ作り上げていないというのが正直なところ。まずは日本代表にフォーカス。自分たちの強み、どういうチームを作りたいかにフォーカスしていて。B&Iライオンズ戦は特別な試合になる。その特別な試合というのは、チームとして教区が必要かなと思います。ヨーロッパのなかでB&Iライオンズは名誉なチームだし、人生のなかでも強大なイベントになっています。それくらいの覚悟を持ってやってくるチームと選手なので、僕たちもその覚悟に負けないように。わずかなチャンスで結果を出すことが自分たちの成長に繋がります。

 B&Iライオンズ戦へフォーカスしないといけないのは、自分たちの試合(の手法)をもう1回、理解すること。あとはセットピースのところ。相手にはそこで経験があり、スキルの高い選手がいる。時間を使って、スクラムを8人で組むことを(意識)。スキルフルなバックスにボールを出すことが大事かなと思います。

B&Iライオンズは1試合目で苦労する部分があると思います。疲れている選手もいると思うし、一発目の試合はあまり完璧じゃないから、自分たちにはいいチャンスかなと。自分たちのアタックは優位になると思います」

 ファンが注目するのはB&Iライオンズとのバトルに関して語る際も、まずは日本代表のプレースタイルを根っこから理解することが重要だとリーチは語る。敵を知る前に己を知る。

 ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ、トニー・ブラウンアタックコーチら首脳陣は日本大会時から留任しており、継続性が見込まれる。

 付け加えてリーチは、「セットピース」についても言及。この領域で力強さを示す欧州の猛者に対して、長谷川慎スクラムコーチの唱える8人一体の型で対抗する構えも示していた。互いが密着し合って地面に近い位置でまとまる具体的な手法を、新たに選出されたメンバーとともに学び直しそうだ。

——今回の代表活動まで約18か月のブランクがあった。今度の合宿でフォーカスするのは。

「ワールドカップが終わってブランクが空いて、なかなかチームとして集まることはなかったけど、まずはスタートしてこの1年、言い訳せずに前向きにやっていくのが大事かなと思っています。

 一番、意識しているのは、僕たちはティア1のチーム(歴史的、実質的な上位国)だと認識を持って行動することが。前まではベスト16の国、ティア2のところにいたけど、いまはしっかりとしたティア1のチームになったので、それくらいのスタンダードでやっていかないといけない。新しい選手、若い選手もだんだん入ってきて、そのスタンダードでがっかりさせないように、前の代表で経験した選手がいい見本になるように意識しています。

 ティア1になるためにはまず、コネクションにフォーカスしています。お互いに対してコネクションを取ることも大事だし、チームとしての日本代表へのコネクションも大事。その辺の細かいコミュニケーションはグループワークで。新しい選手に対しては4人(1組)のサポートグループも作ってあるので、小さい事でもレベルアップできるよう、ティア1のスタンダードに持ってこられるように準備しています」

——「コネクション」を取るためにどんな行動を取っているか。また、「ティア1のスタンダード」を具体的にどう捉えているか。

「まず、ティア1の前にいいチームを作るにはコネクションをどれだけ早く作るかが重要。お互い、ラグビーのところだけではなく——きょうだいの話でも将来の話でも何でもいいから——パーソナルなレベルでコネクションを取る。

 ふたつめはチームに対してのコネクション。この日本代表というチームでは、(実力者が選抜された)サンウルブズとかとの違いを作りたくて。ここは、日本ラグビーを、日本を代表しているチーム。その覚悟を持ってやって欲しいから、(選手には)チームにどんどんコネクションを持って欲しいと思っています。

 ティア1のスタンダード。いままでの経験を振り返ると、一番、フォーカスしないといけないのはリアクションスピードの速さ、トランジション——アタックとディフェンスとの切り替え——の速さ。ここで、世界一を目指さないといけない。あとは、立ち上がるスピードでも世界一を目指さないといけない。そこでは世界を引っ張っていけるスタンダードを目指さないといけないと思います。

 それと、勝ち方。タイトな(試合展開の)なかでもどう勝つか。その知識をチームにどんどんチームに落とし込むのが大事かなと思います。

 ティア1のスタンダード。まずはそこにフォーカスしたいです。(日本の)トップリーグのスタンダード、ティア2のスタンダードと、ティア1のスタンダードは明らかに違ってくると思います。

 リアクション、立ち上がるスピード、コミュニケーションの質…。そういうところが本当に重要になる。そして、試合がタイトになった時にこそ、どれだけリーダーシップグループがひとつのことにフォーカスするかが大事。

あとは、ホテルのなかでの過ごし方ですね。変な過ごし方をしない。(白い歯を見せながら)夜までお酒を飲むとか、昔のキンちゃん(※)みたいなことをなくそうと思っています! へへへへ!」

※キンちゃん=日本代表で歴代最多となる98キャップ=代表戦出場数を保持する大野均の愛称。2020年限りで引退した東芝所属の大野は酒豪としても知られる。

——グラウンド内のスタイルについては。以前から継続する点と、ブラッシュアップする点は。

「いまはジェイミー(・ジョセフヘッドコーチ)とトニー・ブラウン(アタックコーチ)は合流していなくて。でも、おそらく同じような戦いになると思います。

 ただ、世界一にならないといけないのは立ち上がるスピード、トランジションスピード、リアクションスピード。そこを世界一にしないといけない。そのためにハードな練習を繰り返さないといけない。80分間のリアクションスピード、立ち上がるスピードのために、ハードな訓練が必要だと思います。あとは、スクラム、セットピースにフォーカスすると思います」

——選手に伝えたメッセージは。

「まだ全員が合流していなくて、たくさん喋ることはなく。日曜日に全員が集まって練習が始まるから、それまでにお互いのコネクションを作るのが大事。また、僕たちはティア1の国なので、覚悟を持ってどんどんスタンダードを上げていきましょうと伝えています。

 もう1個。このチームにいることがすごく楽しい。どんどん工夫して、試合に臨んで勝ってというのが楽しいプロセスなので、そういうことをもっと選手側に伝えていきたいと思います」

 目指すべきは「ティア1のスタンダード」で、具体的には「リアクション、トランジションのスピード」で世界一を目指す。個人間、個人とチーム間との「コネクション」を密にする。その両者を、リーダーシップグループが引っ張る。

 重要項目を繰り返して強調するあたりからも、指針の強固さがうかがえる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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