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名手は「レフリーにプレッシャー」。全勝サントリー流大が伝えるリアル。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
3月13日は第4節が雷で中止も、訪れたファンに手を振った。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 ラグビー日本代表の流大が、オンライン取材でこのように笑みを浮かべる。

「色々と思うことはありますけど、もう、切り替えて次に向かおうと。このことは1回、忘れようと思っています」

 3月27日、愛知・パロマ瑞穂ラグビー場。流の所属するサントリーは国内トップリーグの第5節に挑み、トヨタ自動車に39―36で勝った。

 ノーサイド直前にスタンドオフのボーデン・バレットが決勝ペナルティーゴールを決めたことで、開幕5連勝を決めた。

 ただし試合中は、やや浮かない顔つきの選手も多かったような。試合後の流は自身のSNSで「レフリーをリスペクトする」としながら試合中の判定の一貫性に関して言及。議論を招いた。

 2019年のワールドカップ日本大会で8強入りしたスクラムハーフが語ったのは、3月29日夜。すでに「1回、忘れよう」との意向を示しながらも、選手とレフリーとの関係性に関する質問に応じてくれた。

 最後は4月3日に控える2戦連続での全勝対決(東京・秩父宮ラグビー場でのクボタとの第6節)に向け、自軍の状態も伝える。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――トヨタ自動車戦の後半19分頃、流選手のトライが取り消されています。危険なプレーの有無を確認するためのテレビジョン・マッチ・オフィシャル(ビデオ判定)により、トライシーンよりも前にあった接点でサントリーの反則があったと判定されました。

「他にも気になる部分は多くあって。試合後、サントリーのアナリストの方からもクリップとともに質問を送らせてもらい、回答をもらいました。『ビデオを観返すと実際に試合でおこなわれていた判定は(本来と)違った』というレビューも、『これは反則のままです』というレビューもありました。これからは、それにアジャストしていくだけです」

 トップリーグの各クラブは試合後にマッチオフィシャルへ判定に関する質問ができる。今回もサントリー側はそれに倣い、意見を提出したようだ。

 トライが取り消されたシーンでは、その直前に起こったサントリーの選手によるスイープ(防御を引きはがすプレー)がショルダーチャージと見られた。

 もっとも流がグラウンディングする際にも、流の肩より上に相手選手がぶつかっているように映る。

『J SPORTS オンデマンド』の中継画像では、サントリーの主将で日本大会日本代表の中村亮土主将がマッチレフリーへ意見を伝えているように映る。漏れ伝わる音声は、流の受けたタックルの危険性を強く訴えていた。いまは安全面の観点から、頭部へのコンタクトは厳しく判定される。

参照:ワールドラグビー、拡大したヘッドコンタクトプロセス(頭部接触判定プロセス)によって頭部外傷予防を更に強化

 結局、その場の判定は「先に起こった反則の位置へ戻る」という趣旨で、流への相手選手のコンタクトは不問に付された。

――SNS上では、「どこのキャプテンでもレフリーにプレッシャーをかけることを意識するし、習う」と主張されていました。

「いまは僕が主将じゃありませんが(2016年から昨季まで主将を務めた)、主将はレフリーに対して唯一対話すべき人。そのレフリーの特徴、どういう反則を取るのかは事前に把握して、コミュニケーションを取りに行きます。また――これは一貫性というか…――同じようなプレーに対する判断が試合中に色々と変わっていくことは、選手にとってはなかなか難しい部分もある。その辺について、聞いたり、促したりということも意識はします」

――元スコットランド代表主将のグレイグ・レイドロー(NTTコム所属)は、その領域で長けている印象があります。ワールドカップ日本大会で対戦した際、どんな印象でしたか。

「常にレフリーにプレッシャーをかけています。トップリーグのゲームを観てもわかると思いますが、かなりレフリーに、言っている。それはレイドローだけじゃなく、色々なスクラムハーフ、各国の主将を見ても、プレッシャーをかけに行っていると感じることは多々あります」

――NTTドコモに加わったニュージーランド代表スクラムハーフのTJペレナラ選手も、試合を動かしながら常にレフリーに視線を向けているような。

 ここで強調した。

「そういう世界的な選手が(レフリーへのプレッシャーと取られる行為を)やると称賛されますが、僕は、亮土さんが言っていたことも何も間違っていないことだと思います」

 国内のレフリングについては、早くからスーパーラグビーを経験した田中史朗選手らがずっと各所で指摘を繰り返してきた。かたや日本ラグビー協会審判部門は、人材発掘などの努力を重ねている。状況がクリアになっているかは、わからない。

 流は選手側が求める改善策を聞かれ、「あまり多くは言えませんが」とこう述べた。

「レフリーに対する報酬のところ(の改善)もそうだと思います。なかなかラグビーのレフリーだけでご飯を食べている方は日本に少ない(多くは他の仕事をしながら限られたギャランティで笛を吹く)。難しいところなのであまり多くは言えませんが、国内でいいリーグを作り、それをテストマッチ(代表戦)に活かすには、レフリーの向上が必要だと個人的には思います」

――ちなみに、レイドロー選手と流選手がワールドカップで対戦した試合でも、笛は日本代表にとって心地のよいものではなかったと聞きます。

「あの日のベン・オキーフレフリーは、僕がサンウルブズで主将だった時から(スーパーラグビーの試合を)何度か担当してもらっていた。事前にアナリストからどんなペナライズをされるかについて話を聞いていましたし、(当日の)コミュニケーション的には悪くはなかった。主将に対しても『何が悪く、こうしないといけない』とはっきりと言われるので、それに対して僕らはアジャストできる。コミュニケーションを取ってくれるのは、ありがたいです」

 これらの考えを前提に「色々と思うことはありますけど、もう、切り替えて次に向かおう」と話すのが、現在地なのだ。

 ここから強調するのは、日々の練習から感じる自軍の充実ぶりである。

――サントリーはいま、どんな状態ですか。

「(初戦から大差の試合が続いたなか)トヨタ自動車戦ではクロスゲームというか、ビハインドを背負った試合ができた。ただ、いままで一番強かった相手を聞かれればノンメンバー(部内の控え組)。ノンメンバーとの練習が一番、大変で、タフになる。チームの力はすごく上がっていると思います。若い選手からベテランまでいい準備をして臨んでいる。

 今季出場のない村田大志さん(センター)は毎回の練習でノンメンバー側のスタンダードを引き上げてくれています。ベテラン選手(32歳)ですがフルトレーニングをして、激しいプレーをし続けてくれる。僕らはかなりのプレッシャーを受けて練習しています。あとは、外国人として来ているのに(出場)枠の関係でノンメンバーが続く選手の態度、練習姿勢も素晴らしいものがある。メンバー側は常にセレクションのプレッシャーも受けながら、質の高い練習ができています」

――サントリーでは、2016年度から2連覇した沢木敬介監督が2018年度限りで退任。2020年1月からのシーズンに向け、前ジョージア代表ヘッドコーチのミルトン・ヘイグ監督を招聘しました。

「(現体制の)最初の頃はミルトンもサントリーの(勤勉さのにじむ)文化、根底にどういうものがあるのかについて、完全に理解していないままだったと思います。ただ今年に入って、ミルトンもおそらく日本人スタッフなどに聞いて、サントリーの会社、チームの文化を把握している。

 ミルトンのやり方は何もかも押し付けるのではなく、対話を重ねながら一緒に成長する方法です。選手としてはそれに居心地がよくなってしまうこともある。緩みが出たり、サントリーのスタンダードではない練習になったりする時も、たまには、ある。そういう時は僕のような中堅からベテランで、サントリーの厳しさを知っている選手の出番です。ただいまは、亮土さんを中心としたリーダー陣が周りのスタンダードを引き上げている。いい方向には進んではいます」

――次のクボタ戦は全勝対決になります。

「かなりタフな試合になる。クボタは試合を観ていてもめちゃくちゃいいチーム。フォワードが一番の脅威なので、(自軍の)ペナルティを減らすこと、長い時間、ボールを動かしてインプレーを長くすることが大事になると思います。彼らにはバックスリーにもいいメンバーが揃っているので、簡単に(ボールを)渡すということはしたくない。いままで通り、キック、ランを混ぜて自分たちが支配した状況でゲームを進めたいです」

 流はチーム内で設定されるリーダー陣の1人でもある。攻撃のグループや接点のグループに参加しながら、「ペナルティへの重要度がわかっていない選手にはかなり厳しく言います」と、個別対応にも時間を割く。

 サントリーはニュージーランド代表のバレットら、クボタは南アフリカ代表フッカーのマルコム・マークスらと、両軍が世界的名手を擁して臨む今度の80分。4月3日の14時、キックオフだ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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