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明治大学次期監督報道も。リコー神鳥裕之監督が「にわかファン」に見せたいもの。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
スローガンは「BIGGA(BACK IN GAME,GO AGAIN)」(写真:アフロスポーツ)

 6月から明治大学ラグビー部の指揮官になると報じられるリコーの神鳥裕之監督が、3月19日、取材に応じ、8年間率いてきた自軍で伝えたいメッセージについて語った。

 去就に関しては「然るべきタイミングが来れば(伝える)」と明言を避けたが、すでにリコーの選手へは今季限りでの退任予定を伝達済みとのことだ。

 リコーは1953年創部の古豪だが、2007年度のトップリーグでは下部に自動降格と低迷期も経ている。OBでもある神鳥監督は、2013年からゼネラルマネージャー兼監督の立場で指揮。2016年にはクラブ史上最高位の6位に入った。

 今季は第4節までに1勝3敗も、第2節では5シーズン連続で4強入りのヤマハ23―22で勝った。3月14日には東京・駒沢陸上競技場で、2018年度王者の神戸製鋼と接戦。19―20と敗れたが、自陣ゴール前での粘りが際立った。

 神鳥監督は「ようやく選手たちに(目指すスタイルが)浸透しつつある」。その思いに迫る。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――今季ここまでを振り返って。

「結果は、2試合、勝ち切れなかったことは見直していかなきゃいけない(第3節のNTTドコモ戦、第4節の神戸製鋼戦を僅差で落としている)。ただ、見ている人に何かを伝えられるゲームをできてきている。ありたい姿を体現できている手応えはあります」

――神戸製鋼戦では、ぎりぎりのところでトライを防ぐプレーも見られました。例えば、後半20分過ぎには自陣ゴールエリア右でフランカーのジェイコブ・スキーン選手が対する日本代表のラファエレ ティモシー選手のグラウンディングを阻んでいます。

「神セーブ、ですよね。ああいう積み重ねが最終的にチームの魅力を高めたり、自分たちの成功体験になったりしている。僕が監督になって8年目、ようやく選手たちにも浸透してきたというか。誰にでもできる当たり前のことを徹底し、追求していくというシンプルなメッセージです。

我々のチームには大会前に注目される選手、ワールドクラスの選手はおらず、こういうところ(メディア)で取り上げられることはなかった。そこで持っている力を最大限、発揮するには、簡単に言うとハードワークです。ボールを持っていない時や起き上がる時の態度、味方がラインブレイクをした後、された後の努力…。このようにハードワークの定義をクリアにし、個で勝つのではなくチーム全体で勝つのをリコーのスタイルにしようと。

2019年のラグビーワールドカップ(日本大会)の時に『にわかファン』という言葉が定着しました。そういう方々がグラウンドに足を運んだ時、『何だかよくわからないけれど、黒いジャージィの人たちは一生懸命だよね』と伝わったら、ありたい姿に進んでいるということ。神戸製鋼の試合でそこに達することができてきたと、手応えがついてきました。勝つ、勝ちたいという気持ちは競争に身を投じていれば必ずついてきますが、まず『自分たちがどうありたいかの延長線上に勝利がある』と落とし込んできた結果が、この前のゲームだった」

――シーズン終了後は明治大学での監督就任が報じられています。

「まだ正式発表にはなっていない。この段階ではあまりコメントしない方がいいかなと思っています。然るべきタイミングが来ればということでご容赦いただけたらと」

――ただ選手には、今季限りで離れる旨は伝えていますか。

「当然。こういったケース(報道)も想定していましたので。チームとして戦う大事な時期に選手へ余計な混乱を招きたくはなかった。しっかりと準備していました」

――もし本当に今年が最後なのだとしたら、残りの試合で伝えたいことはありますか。

「プロの世界なので、誰か(存在感のある指導者や選手)が来てチームが変わるとか、その人に委ねて強くなるというやり方もあるとは思います。ただ僕が監督になった時には――すごく安直な言い方をすると――リコーってこんなチームだよな、というスタイル的なものを残したいと考えました。おそらく、会社が僕に監督をやれと言ったのもそれを期待しているのだろうと自分なりに解釈していました。僕の価値観が違うのであれば、いい指導者なんて他にいっぱいいる。

 ラグビーのコアな部分の指導はコーチたちに委譲しています。ただ、チームとしての方向性、芯は作りたかった。他の強くなっているチームと同じような(巨額の予算を投じるなどの)強化策は採れないなか、チームへのロイヤリティ、このチームに長く所属してくれている選手のモチベーションを活かし、チームのアティチュードを表に出していく。ひたむきに戦う。大体、土日にトップリーグがおこなわれますが、足を運んでくれた方が月曜日に『昨日のリコー、凄かった。俺も頑張ろう』となるような方向付けはしてきたつもりです。新リーグの1部(上位12チーム)で戦えるだけのバトンを繋ぎ、トップリーグで結果を残せればいいと思います」

――外国人選手の補強スタンスも、時間をかけて変化したような。大きく言えば、「その外国人選手の特殊能力を求める」よりも「クラブの理念に合った外国人選手を求める」というイメージですね。

「すごく、変えました。うまくいったこと、いかなかったことを受け、周りのスタッフと話し合いながら、強力も仰ぎ、探す視点を変えました。皆で作ってきた。それが形にはなってきつつあるかなと。この方向でがっちりと進めるにはなかなかそう簡単にはいかなかったですが、いまはそれができつつある。謙虚にやっていきたいです」

――2019~20年に元パナソニックでオーストラリア代表経験者のベリック・バーンズを招いていた時も、その視野や技術と同時に人間性を評価されていました。「最悪、(以前に負っていた怪我の影響で)試合に出られなくても戦力になる」といった旨で話されていたのを覚えています。

「今季は、他国代表キャップ(テストマッチ=代表戦出場数)は全部で18くらいしかないのかな(フランカーのエリオット・ディクソンがニュージーランド代表3キャップ、アウトサイドセンターのジョー・トマネがオーストラリア代表15キャップ)。そんなチームでもやれるんだと。

 ひたむきなスタイル。これは僕がいなくなっても、例えば一流の選手、一流のコーチングスタッフが来ても、リコーのベースになる部分として継承されて欲しい。

 スマートに勝てる試合なんてないじゃないですか、リコーには。前のヤマハ戦に然り、格好悪くても、ボロボロになりながらも、最後はスコアで上回る。こんなチームがトップリーグにひとつあってもいい。

余談ですけど、今季、僕が監督になって初めて勝ったヤマハには(他部とは異なる路線でスタイルを作りあげている意味で)常に興味がありました。我々には帰化した海外出身選手が多いですが、やはり独自性を持ってひたむきにチャレンジし続ける文化を次の世代に引き継いでいってもらいたい。いまは幸い、日本人のリクルートもよくなってきた。次のステージへ行く手応えも生まれています」

 現在のリコーでは元日本代表のブロードハースト マイケル、神戸製鋼戦で活躍したスキーンらがひたむきに身体を張り、堅守で評価される。近年は2016年度入部の松橋周平共同主将、2020年度入部の武井日向ら若手の台頭も顕著で、攻撃の軸はアイザック・ルーカス、メイン平という今季新加入のランナーである。

 3月27日の第5節は東京・秩父宮ラグビー場であり、沢木敬介新監督率いるキヤノンが相手。このカードは両軍の間で「コピー機ダービー」などと銘打たれている。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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