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五郎丸歩引退。黄金世代で臨んだW杯イングランド大会での秘話。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
イングランド大会のサモア代表戦でプレーする五郎丸(写真:ロイター/アフロ)

 ラグビー元日本代表の五郎丸歩が、2021年1月からの国内トップリーグを最後に現役を退く。2020年12月9日、所属のヤマハ発動機ジュビロが発表した。12月16日に本人が会見し、思いを語る予定だ。

 黄金世代の1人だった。

 五郎丸の生まれた1985年度生まれは、1学年上で早生まれの田中史朗とともに2004年のU19(19歳以下)世界選手権で過去最高の7位にランクインした。

 日本ラグビー協会が2002年に発足した「エリートアカデミー」で強化指定選手とされた10名にも、五郎丸に加えて同い年の山田章仁らが名を連ねた。

 五郎丸が独特のゴールキック時のフォームで話題となった2015年のワールドカップ(W杯)イングランド大会では、この1985年度組が5名、プレーしている。

 現在アメリカでプレーする畠山健介、2016年にニュージーランドのチーフス入りを果たした山下裕史、イングランド大会で「忍者トライ」と言われるアクロバティックなトライを決めた山田章仁、昨年の日本大会まで(W杯)4大会連続出場中の堀江翔太、そして五郎丸だ。

 もちろん早々と一線を退いた1985年度組もいた。数々の綺羅星のなかで、長らく世界と戦ってきた者には何が備わっていたのか。そう聞かれた堀江は、少し考えた後にこう答えたものだ。

「皆、ラグビーが好きなんじゃないですか。結局は、そこだと思いますよ」

 堀江自身は、2011年にW杯ニュージーランド大会に出て未勝利だったのを受けてもともと苦手だった海外でプレーすると決断。2013年度には田中とともに、スーパーラグビーのチームと契約する日本人選手というパイオニア的な存在となった。

 2013年に代表デビューとやや遅咲きの山田も、単身での海外留学、アメフト挑戦と、持ち前の行動力で自分による自分のための独自の進化計画を模索してきた。

 学生時代から代表入りの五郎丸は、2012年発足のエディー・ジョーンズヘッドコーチ体制の日本代表で副将を務めた。

 イングランド大会で象徴的だった出来事は2015年9月28日、サモア代表との第3戦の約1週間前に起こった。

 当日の練習計画やサモア代表戦の見取り図を共有するために選手同士で行うミーティングを、五郎丸が仕切ったという。普段、その役目を五郎丸が担うのは稀だったことから、堀江は驚いた。

「いつもはやらないようなところを、しかも、あれだけすんなりと…。自分からやらなあかんと思っているからこそできると思うんです」

 初戦で南アフリカ代表相手に歴史的勝利を挙げるも、中3日と過密日程のもと迎えたスコットランド代表戦は大敗して1勝1敗。目指していた決勝トーナメント進出に向け、次戦は落とせなかった。

 この重要な一戦は、山田の「忍者トライ」もあって26―5で制している。五郎丸が普段と違うことをしたから勝ったという論理はやや乱暴かもしれないが、五郎丸が普段と違うことをした先に国民の熱狂があったということはできるかもしれない。

 ちなみに苛烈なジョーンズ率いる日本代表にあって、選手の自主性が存在感を増したのがこのイングランド大会の直前期だったと言われている。「これからは俺が仕切れるところを増やしていきたい」とは、当時在籍のチーフスでの活動を終え代表合宿へ合流したリーチ マイケルキャプテンの談話である。

 5名の1985年度組が世界に挑んだイングランド大会で結局、日本代表は歴史的3勝をマークした。日本大会で堀江らが悲願の決勝トーナメント進出を果たして約1年後のいま、五郎丸は引退を発表した。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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