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早稲田大学OBの慶應義塾大学・三井大祐バックスヘッドコーチが見た早慶戦。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
堅実な防御が光った。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 ラグビーの「早慶戦」こと、関東大学対抗戦A(対抗戦)の慶應義塾大学と早稲田大学との一戦が11月23日、東京・秩父宮ラグビー場であり、早稲田大学が22-11で勝利。一昨季まで早稲田大学でコーチを務めた慶應義塾大学の三井大祐バックスヘッドコーチが、26日、オンライン取材で総括した。

 三井コーチは現役時代、スクラムハーフとして活躍してきた。大阪・啓光学園(現常翔啓光学園)中学でラグビーを始め、同高校2、3年時に全国制覇。早稲田大学では留年して挑んだ5年目の2007年度に大学日本一を経験した。卒業後は東芝で選手生活を送り、2013年からは同部コーチを務めた。

 2017年に東芝退団後はニュージーランド留学を経て20歳以下日本代表、ジュニア・ジャパンのコーチを歴任。この日は自身が主に担当するバックスのプレー選択、防御について綿密にレビューした。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――早慶戦をどう振り返りますか。

「バックスのところに関してはエリア獲りを徹底できていなかったのが僕の大きな反省です。敵陣でディフェンスがしたいという慶應の大きな構想があるなか、そのエリアに持っていけなかった。

 ディフェンスでは、1人目の低いチョップタックルのできたところ、できなかったところがありました。早稲田さんのラック周辺の広いアタックに対していいポジショニングができなかったため少しずつ食い込まれたのが反省として残っています」

――まずひとつめのエリア獲得について。蹴り合いでは勝っていた局面もあったとは思いますが。

「もっともっとシンプルに振り返ると、前半、慶大が先制ペナルティーゴールを決めて、その後のキックオフレシーブから前半20分頃まで自陣でプレーしてしまった。その時間帯のマネジメントの仕方が悔やまれます。

 もっとアタックをしながら蹴りたいところもあったのですが、そこがアタックなのか、キックなのか、中途半端だったところは、落とし込む側として徹底しきれなかったところです。次に向けてはそこを修正したいと思います。

 シンプルにエリアを獲るところ、スペースに動かしながらエリアを獲るところを、エリア(いる場所)によって使い分けたい。それがいま取り組んでいるところです。生みの苦しみではないですが、明治大学戦、青山学院大学戦と取り組んでいくなかで見えた課題です。

 ただ、(早慶戦では)そこ(キックかパスかの判断)の精度が高くなかった。(プレーの選択肢の)幅が大きくなったことで、選択するプレーが『もっとこっちでもよかったのでは』というものが出てきたと、試合が終わってから選手とも話しました」

――パスか、キックかの判断力を高めるには。

「10番(司令塔のスタンドオフ)1人の視野だと難しい。(後方の)選手が空いているスペースを(伝えて)共有する、どこに運びたいのかをコミュニケーションを取って伝えることがキーになります」

――「ディフェンス」についても伺います。後半26分に河瀬諒介選手にトライされたシーン(直後のゴール成功で22―11)。ここではインゴールを割られるまで、自陣22メートルエリア内で18フェーズも耐えてタックルし続けていました。

「継続されているなか、少しずつラック周辺に人が寄ってしまった。あれだけの連続攻撃をされるまでの間に、自分たちからもっと仕掛けてターンオーバーをしなければいけなかった。

 また、最後の河瀬選手とのマッチアップのところでは、(防御が)内に寄ってしまった分、三木(亮弥副将=アウトサイドセンター)の立ち位置が本来より少し寄ってしまっていた。そこに河瀬選手の素晴らしいスピードとパワーで半分、ずらされると厳しかった。

 人数は余っていなかった(数的不利ではなかった)ですが、能力が高い相手とやるにはポジショニングが全て。そこで半分ずらされたところが、あのトライを生んだと思います。そして、三木の立ち位置がそうなったのは、先ほど自分が話したように(全体的に)ラック周辺へ寄ってしまったから。さらに18フェーズもの我慢のなかでボールを獲り返せなかったことが挙げられると思います」

――ボールを獲り返そうにも、早稲田大学の接点へのサポートは素早かった。ラック成立後にジャッカルをすれば反則を取られるだけに、難しいところです。

「ゲームを通して早稲田大学さんの2人目の寄りは素晴らしかった。そこで慶應は『1人目が相手の1人目をしっかり(タックルで)倒すこと』をやり続けないといけないんですが、それができたり、できなかったり、でした。1人目が1人目を倒すには、いいポジショニングを取り続けるのがキーになってきます。

 自分たちは身体が小さいですし、パワーもない。相手に対していかにいい位置取りをするかが生命線になります。慶應は、タックルへの意欲とディフェンスへの情熱ではどこにも負けない。それを活かすには、立ち位置が重要です」

――ポジショニングの正解は。

「ディフェンスの大きな考え方で言うと、(相手に対して)まっすぐ出るのが大事。斜めに出てしまうと弱い肩ができてしまう。『ここで接点ができるだろう』というところに対して、まっすぐ出る。これを僕たちは『仮想接点』と呼びます。

 相手がアウトに引きながら(外側へ流れるように)ボールキャリーするシチュエーションなら、僕たちは少し外に立つべき。逆に、僕たちが外に立ち過ぎると、相手がアンダーライン(外側から内側への斜め前方への仕掛け)狙う時に(僕らに)ウィークショルダーができてしまう。相手のシェイプ(攻撃陣形)を見ながら、まっすぐ出られる位置を決める。そのなかで(それぞれの)立ち位置での細かい役割が決まっている」

――相手の攻撃陣形や攻撃哲学を知ることで、初めてその試合での「仮想接点」及び立ち位置が決まるイメージか。

「敵がどうであれ、まっすぐ出られる位置に立つのが大事。いいポジショニングとはどこなの、と言えば、『スクエアアップできる位置に立ちましょう』ということは(部内で言っています)。そのうえで、相手の特徴、オプションの分析をゲームごとにおこないます」

――それにしても前年度に比べ、防御で粘りが見えるような。どうご覧になりますか。

「慶應のもともとの文化には、ディフェンス、タックルがある。でも、(過去には)低くタックルするなかで飛び込みタックルになっているなどスキルが伴っていないところがありました。タックルする意欲、情熱を持ちながら、正しいスキルを習得する(よう伝えた)。足を近づけ、相手の懐に入ってタックルするというスキルを習得したうえで、いま言っているようなポジショニング、立ち位置にこだわってきました」

――練習が厳しくなったことが試合に反映されている、との声もあります。

「規律、ラインオフサイド(攻防の線よりも前でプレーする反則)に関しては、普段の練習から口うるさく言っています。そうはいっても早稲田大学戦ではラインオフサイドがあった。原因は早稲田大学さんの2人目の押し込みでブレイクダウン(接点)を下げられたことです。原田がオフサイドをしたシーンです。自分たちのしたいディフェンスができなかったことで、オフサイドをしてしまったと思います」

――いまの目標は。

「いまは目の前の1戦1戦に、ひたむきに取り組む。特にどこを見て…とは考えていない。慶應の根本にあるよさはひたむきさ、泥臭さ。毎試合それを出し切ったうえで成長に繋がるし、(その都度)出てきた課題をつぶしていくという繰り返ししかない。先を見る余裕は全然、ないです」

 

 慶應義塾大学は12月6日の帝京大学戦(いずれも4勝2敗、埼玉・熊谷ラグビー場)の結果次第で「対抗戦2位」扱いか「対抗戦3位」扱い、「対抗戦5位」扱いになる可能性がある。例えば「対抗戦3位」扱いとなれば選手権で「関西大学Aリーグ(関西)3位→対抗戦2位」の順に、「対抗戦5位」扱いとなれば「関東大学リーグ戦1部2位→関西1位」の順にぶつかる。

 ここでの「対抗戦2位」は、昨年度の選手権で決勝戦に出た早稲田大学か明治大学のいずれかとなる。

 そんな対抗戦の順位と大学選手権の組み合わせとの関係性へも、三井コーチは「自分たちがコントロールできることではない」と言及するのみだ。

「スタッフでも『次に勝ったら相手がどこで…』というシミュレーションを話すには話しますが、最終的には自分たちがコントロールできることではない。次に勝ってどう、次に負けてどう、というコントロールできないことよりも、目の前の1試合、1試合に全力で臨むだけです。相手の帝京大学さんは素晴らしいチームです。選手、スタッフとも、早稲田大学戦で出た課題をいかに修正できているかにチャレンジしたい気持ちでいます」

※大学選手権の組み合わせにつき、一部誤りがありました。お詫びして改正します(12月4日)。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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