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いよいよ開幕、大学ラグビー。王座争いは?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
昨季の選手権決勝。早大の丸尾(中央)、明大の箸本龍雅はともに今季の主将(写真:つのだよしお/アフロ)

 2020年、日本でおこなわれる一線級のラグビーの公式戦は、各地の大学同士の戦いだけだ。

 その皮切りとなる関東大学ラグビーの対抗戦A、リーグ戦1部は10月4日から各地で開催される。各グループの上位は、冬から関西勢などを含めた大学選手権に参加。大学日本一を目指す。

 対抗戦A、リーグ戦1部の参加クラブは以下の通り(並びは前年度の各組での順位。★は大学選手権優勝、●は同4強入り)。

関東大学対抗戦A

明治大学●

早稲田大学★

帝京大学

筑波大学

日本体育大学

慶応義塾大学

青山学院大学

立教大学

関東大学リーグ戦1部

東海大学●

日本大学

流通経済大学

大東文化大学

専修大学

法政大学

中央大学

関東学院大学

 9月に開幕することの多いこの戦いが10月から開かれるのは、大学選手権が例年に近い日程でおこなえるようにするためだ。

 

 今季、新型コロナウイルスの感染拡大のため多くのクラブが活動を制限。春先は寮を一時解散させるクラブが大半を占め、6月、もしくは7月に練習再開させる際も帰省組を段階的に戻した。

 専大は実家から寮へ迎え入れる前に別な施設での自主隔離期間を設けたし、東海大は8月下旬の夏合宿にも全部員を帯同させられなかった。帝京大は9月中旬の時点でまだ全員が揃ったわけではないと説明する。

 その流れで、開幕前の実戦機会は限られた。両グループが交わる関東大学春季大会は中止。例年、多くの練習試合が組まれる夏合宿も見合わせるチームが相次いだ。明大の田中澄憲監督は、このように見取り図を作るほかない。

「学生は試合で成長できる。試合(公式戦)のなかで課題を抽出し、シーズン中に修正していくことになると思います」

 今度のシーズンも、無観客試合が多く有料試合でも席数が限られるなど通例通りとはいかない。選手の試合会場への滞留時間は最小化するようで、取材機会も「学生の命を守る」という大義によってかなり制限される。もっとも、早大の丸尾崇真主将は瑞々しい。

「どこがどれだけ実力をつけているかわからない。僕は、面白がっています。(自軍も)めちゃくちゃ強いかもしれないし、弱いかもしれない。ただ、これまでやってきたことには自信を持っているし、間違ってはいないと思います」

 本欄でも、各自の一瞬のきらめきに光を当てるような発信を重ねる。まず本稿では、大会の見どころを紹介したい。

■軸は対抗戦勢?

 学校の事情でグラウンド使用がままならなかったクラブも多いなか、日本一争いに向け状態を上げているのは対抗戦勢だ。

 2007年度以降ずっと選手権の王座を独占している対抗戦勢にあって、帝京大はリクルーティング、トレーニング環境、先端のコーチングをタフな肉弾戦や運動量へ還元するグッドサイクルを確立。2009年から9連覇を達成した。

 近年は、帝京大の強化システムに各自の手法で付随した明大、早大がそれぞれ3年連続ファイナリスト、ディフェンディングチャンピオンとなっている。両伝統校とも9月の実戦で良質なトライアルアンドエラーができたと胸を張るが、今季、面白いのは、帝京大が改めて高質化の兆しを覗かせている点だろう。

 9月21日にはリーグ戦3連覇中の東海大と練習試合を実施し、84―7で大勝した。自陣深い位置での防御時のタックルとその後の起き上がり、攻守逆転ができそうな接点への反応、ボールを奪ってからスペースを攻略するまでの集中力など、往時の強みを蘇生させつつある。

 慶大も、9月12日に明大とおこなった今季初の実戦で鋭いタックルを連発。大学選手権出場を逃した昨季と比べ、競技力を左右するぶつかり合いの領域で低さと粘りを醸しそうだ。大学ラグビーでは4年生の自治能力でクラブが大きく変わるが、昨季ヘッドコーチ就任の栗原徹監督曰く「(今季は)4年生が素晴らしい」。指揮官自身も、本来は自主性重視ながら今年は厳しさをあらわにする。

「最初は表面上でのコミュニケーションで『うん、うん』と聞いて終わっていたところ、いまは『昨日の練習はどうだった?』とか、ズケズケと言っています!」

 前年度のファイナリストの早大、明大、復権を期す帝京大との上位争いにも慶大は絡みそう。4校の直接対決は、そのまま選手権の終盤戦のプロローグとなりうる。

■リーグ戦での地殻変動はあるか

 リーグ戦でも、前年度の順位と無縁のスリルが期待できる。留学生を擁し前年度2~4位を陣取った日大、流経大、大東大に対し、5~8位勢の専大、法大、中大、関東学大がどこまで対抗できるか。いずれも日本出身者のみの編成だ。

 なかでも前年度5位の専大は、もっとも地殻変動を起こしそうな集団のひとつだ。

 2部から1部への昇格を決めた2017年度から竹内明彦ストレングスプロコーチを招聘。他方、攻めてはボールを泡のように左右に回し、守っては素早い起き上がりと鋭い出足を保つ。

 骨格の大きな留学生に挑めるだけのフィジカリティを積み上げながら、留学生のいるチームに競り勝てる領域を先鋭化しているのだ。前年度は自軍と似た哲学を持つ中大などに勝利しながら、上位4強には惜敗。特に日大には21-29、大東大には26-33と肉薄している。

 そして今季のオープニングゲームで、早速、大東大に挑む。埼玉・熊谷ラグビー場Bグラウンドでの一戦は無観客となるが、「J SPORTS オンデマンド」のインターネット中継などで視聴可能。今季はダブルタックルの精度を磨いており、元日本代表の村田亙監督も「勝てる」と自信。日本人の好む「小よく大を制する」といった構図の、胸のすくような試合を披露したい。

 リーグ戦4連覇を目指す東海大では、木村季由監督が「リーグ戦序盤は下手な試合になるかもしれませんが、激しさを出すことが大事」と決意を述べる。

 9月に帝京大とぶつかった際は、「帝京大さんが覚悟を決めてシンプルにゲームを作ってきたのに対し、うちは(シーズン終盤に)最終的にやりたい形をイメージしながらやって来たという、アプローチの差が出た内容だった」と反省。1対1で数センチでも前進する、タックル後は相手のサポート役の下地になる前にすぐに起き上がるといった、戦術を問う以前の領域を見つめ直したいという。凡事徹底を勝利に繋げるという体験を、初の日本一への序章にできるか。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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