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いまこそ「自分で考える」。相良南海夫監督が示す早稲田大学の矜持。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
日本一の瞬間(写真中央)(写真:つのだよしお/アフロ)

 かような時だからこそ、クラブの原点に立ち返っているようだった。

 昨年の大学選手権で11シーズンぶり16度目の優勝に輝いた早稲田大学ラグビー部の相良南海夫監督は4月23日、オンライン会議アプリ「ZOOM」での取材に応じ、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う活動休止中の状況について語った。

 問答を通し、選手へのアプローチや活動再開について語ったが、その言葉に通底するのは主体的な意思決定への思いだった。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――日本政府が緊急事態宣言を発令する4月7日に先立ち、自主練習に切り替えているようですね。一部の寮生は帰省されたと聞きます。

「4月の頭くらいに『寮はクラスターを起こる可能性もあるから、自分の判断、保護者の意向に沿って帰っていい』という話をして。寮にはもともと60人弱いて、4分の3くらいは残っています」

――全体練習はいつまでおこなっていましたか。

「3月の下旬は色々変則的な形でやっていました。国や都からの外出自粛、大学からも部活動を自粛しなさいという話が五月雨的に来ていた経緯を受け、4月の頭くらいに活動自粛、個人練習にしますと全体ミーティングで伝えました」

――グラウンド外で影響が起きていることは、4年生の就職活動と高校生へのスカウト活動。

「就職活動は大変そうですね。ウェブとかでやっているみたいですが、企業のマインドも変わるでしょから。順調に行っていた奴が急にうまくいかなくなることもあるかもしれないですし。

 我々に推薦枠が(あまり)ないのでスカウトはいつも苦戦しますが、高校の大会が軒並み中止になっているので、見る場所、本人に話しかける場もない。ここは(より)大変ですね」

 同大OBでもある相良監督は2018年度に就任以来、運動量や仕掛けの鋭さと同時に個々の主体性を求めてきた。「やるのは自分たち」。普段から主体的な行動を意識させる結果、グラウンド上での積極的な姿勢を促してきた。

 

 試合や練習をおこなわないいまも、その哲学を貫いているようだった。

――現在、コーチ陣から選手へのアプローチは。

「S&Cコーチも含めて、スタンスとして『これをしなさい』ということは、していない。

 危険な状態のなか。与えすぎるのもよくない。逆に、自分のできること、自分を伸ばすのにしたいことを考えて取り組んで欲しいと思っている。そういう意味で、いまはいい時間になったと思っています。こっちも手を差し伸べるのは簡単で、手を差し伸べたい気持ちもあるんですが、コーチ陣には我慢してもらって選手にやらせてみようと。

 ただ寮に残っている奴は寮の中庭にウェイト器具を出し(自主的にトレーニング)。帰省した奴、自宅通いの奴には自宅でできるメニュー、オプションをいくつか紹介する形で出している。あとは、そんなには問い合わせがないみたいですが、『ハンドリングやりたいのですが、いいメニューはありますか』という相談は随時、受ける」

――再開後、選手にはどうなっていて欲しいか。

「ストレングスのマックスが上がっているなんてことはない話だと思うんですが、いまできることは筋力、フィットネスを極力維持していくこと。活動場所は限られるのですが、身体の可動域を広げることはスペースがなくてもできるのでそこにはフォーカスしてくれと、全体ミーティングの中では言いました。ご家庭のご協力をいただきながら、極端に痩せたり…というのがないような状態で戻ってきて欲しいとは思っています」

――監督は普段、どんな活動を。

「寮に住んでいる子もいるので、上井草寮の管理人状態というか。(併設の)クラブハウスに朝、来て、夕方に帰る状態です。本当はステイホームなんでしょうけど、家にいてもすることがないので。僕は車での家からの通勤で、人との接触はないという認識でいます。

 事務的な作業で、やることをいろいろとある。あとは、もう終わりましたけど、ZOOMで個人面談をしたり。僕を含めたフルタイムのコーチ4人対選手1人。選手には気の毒と言えば気の毒でしたが、1人あたり30分くらい色々と話はできました」

――丸尾崇真キャプテンとはどんな話を。

「先の見えないなか、相当、『シーズン、できるんだろうか』も含め不安だと思うんですけど、丸尾には『この状況、長引くからね。とにかく、いまやれる環境のなかでできることをしっかりやろう』と、そんな話をしていて。彼もいまのところそこまでネガティブにはなっていない。『場所はバラバラだけど部員とどうつながるかを考えてやったらいいよ』とも伝えましたが、色々とグループセッションをやっているみたいです」

――かねて部内で振り分けた小グループ同士で、チェックした試合の感想を交換し合うミーティングを重ねているようです。

「丸尾以下のリーダー陣が考え、ここ2週間くらいやっているんですかね。いいことだと思います」

――活動再開のめどは。5月10日の集合を目指していると聞きますが。

「学校とは色々と情報のやり取りはしています。ニュースを見ていると、国でさえいつ緊急事態宣言を解除したらいいのかを悩んでいる状況。学校も判断は難しいんじゃないかと。だから、僕らは僕らで、僕らが安全に集合させるのはどういうタイミングがベストなのかを色々と収集しながら(判断したい)。国、学校から指示が出ても、本当にそれでいいのかをよく考えながら活動したいとは個人的には思っています」

――安全第一をベースに置きながら、自分たちがどうするかはなるたけ自分たちで考えて決める、というイメージ。

「学校の指示、通達を無視してとか、先んじて…という気持ちはないですし、してはいけないと思いますが、僕らで安全に(と考えている)。(部員を)集めたはいいけどそこに無症状の感染者がいて、全体練習をしたがゆえにクラスターが起きて、2~3週間練習ができなくて…というのはもったいない話なので。どういう方法がいいのかは、色んな方の意見を聞きながらやりたい」

――今季の強化計画。もともと考えていたものにどう手を加えるか。

「いまちょっと、色んなことを考えてもしょうがないと思っていて。想像ですが、秋のシーズンは、大学選手権を含めスケジュールも変わるんじゃないかと思っています。それが見えてきた段階で、もう1回、プランを練り直したいと思っている。3月下旬にはいったん、5月の連休明けに再開という見通しをしていましたが、もう1回リセットしなくてはいけない。秋のスケジュールが見えた段階で検討したいです」

 家でできる練習を提案することは簡単だ。しかし、そのメニューを押し付けるのは本来の流儀に反する。だからこそ指揮官は、サポート体制の充実化を約束しながらも「すべきことを自分で考えて」と訴えるのだろう。

 活動再開とその後の安定的なトレーニング量の確保に向けても、自分たちなりの情報収集と意思決定を志向する。

 罹患して無症状のまま完治したケースがわかるとみられる、抗体検査に関するニュースにもアンテナを張り、「データが正確かどうかという話もあるのでわかりませんが、(結果が)わかるだけでも違う」と話した。

 かような時だからこそ、勝利を希求してひたすらに知恵を絞るという伝統的な部是を見つめ直す。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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