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どうなる2020年のサンウルブズ。振り返るべき意味と価値。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
昨季はホーム未勝利(写真:アフロ)

 日本ラグビーフットボール協会(日本協会)がラグビー日本代表の強化のために発足を認めたスーパーラグビー(国際リーグ)の日本チーム、サンウルブズが、2020年シーズンのスコッドの一部を発表。11月26日、統括団体である一般社団法人ジャパン・エスアールの渡瀬裕司CEOと大久保直弥新ヘッドコーチが都内で会見した。

 今秋、日本代表はワールドカップ日本大会で史上初の8強入り。躍進の背景には、日本代表とプレースタイルや選手を共有したサンウルブズの存在があると各選手が認める。大会登録メンバーの31名中、一度もサンウルブズへ参加しなかったのは今季左プロップへ転向した中島イシレリ、今年初代表の木津悠輔のみ(アタアタ・モエアキオラは怪我で不出場もメンバー入りの経験があり、2019年はスーパーラグビーのチーフスに加入)。

 サンウルブズに参加する代表候補選手が国際試合でのコンタクト、各国を転戦するなかでのアクシデント、試合ごとに戦法をマイナーチェンジさせることなどへ慣れたため、ワールドカップ本番では週ごとにゲームプランを変えながら欧州6強のアイルランド代表、スコットランド代表などから4勝している。

 ただ…。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

渡瀬

「ワールドカップの次の年。我々としては次のチャレンジが始まっている。ただ一方、2020年でスーパーラグビーへの参戦の契約が切れる。これが継続できるか否か、非常に厳しいところではあります。これには日本協会と一緒になって策を講じていきたいが、まずは2020年のシーズンをしっかり戦いたいと思っています」

 2019年3月、サンウルブズが2020年限りでスーパーラグビーから除外されることが決定。統括団体のサンザーが、チーム数縮小に伴う豪州テレビ局からの放映権料収入を見込んだためで、サンウルブズが参戦継続を希望する場合は推定10億円とも言われる参加費の支払いを求めていた。

 しかし、サンウルブズ撤退の理由を資金面だとする見解を鵜呑みにする国内関係者は目減りする一方。首相経験のある森喜朗・日本ラグビー協会名誉会長(当時)が不明瞭な理由でサンウルブズに違和感を覚えていたのは周知の事実で、サンウルブズ参戦決定時に同部を支持しながら要職を離れた元幹部は、「そ」で始まる4文字の用語を用いて協会幹部のサンウルブズへの扱いを解説した(当時の坂本典幸専務理事はその説を否定している)。

 それに先んじて、当時の日本協会は国内トップリーグの日程にメスを入れている。それまではスーパーラグビーのシーズンと重ならない8月に開幕させていて、4年前のワールドカップイングランド大会終了後は中断期間を減らすなどして11月にスタートを切っている。しかし今度の日本大会終了後のシーズンは、2020年1月からと設定。ワールドカップ終了後の年内公式戦(大学生、下部リーグは除く)をなくし、2月からのスーパーラグビーとも重なるスケジューリングを機関決定したのだ。

 各種の決定を下した幹部は2019年6月29日に刷新され、トップリーグの日程変更を「異常事態」とした当時ヤマハ監督の清宮克幸氏は新副会長に就任。清宮氏は2021年発足を目指す新プロリーグへの準備に注力している。

 この日の会見では、代表理事でもある渡瀬CEOがニュージーランドで休暇中のジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチの動画などを紹介。「次世代の日本人選手を育成するのが大事。日本代表とサンウルブズが一緒にハードワークするのが大事」などのメッセージを伝え、改めてサンウルブズの重要性を説いた。

「もともとの我々の組織の成り立ちは代表強化。いかに次の世代を育成できるか、そこに注力したい。したがって、なかなか今年のワールドカップでハードワークした選手たちがそのまま…というのは心身とも疲弊しているので難しいことかと思っています。

 一方で(国内の)トップリーグが同じ時期に開催される(1~5月。スーパーラグビーは2~6月)。各チームと話しながらやらせていただいていますけど、トップリーグとスーパーラグビーで選手の取り合いになるのはよくないと思っています。日本ラグビーとしてうまくやっていきたいと思っていますが、大事なのはここに書いてあるように、次のレベルでどれだけの選手が挑戦できるかです。その辺は、しっかりと選手選考をしていきたい。

 大久保直弥ヘッドコーチを指名させていただきました。過去2年間、帯同。スーパーラグビーで初めての日本人ヘッドコーチになります。将来的な日本代表強化を考えても強化委員とそういう話をしてやってもらおう、となりました。彼に対する期待は日本ラグビー界でも大きい。プレッシャーにならないようサポートしたい。

 ヘッドコーチをサポートするコーチ陣は、コーチングコーディネーターに沢木敬介、スクラムコーチに田村義和にお願いすることになります。沢木君については各コーチをうまくコーディネートするところ、アタックに長けたところがあり、何より大久保君と一緒で将来の日本のラグビーのためにスーパーラグビーを経験して欲しいということで頼みました。スクラムコーチの田村君は日本代表の長谷川慎スクラムコーチの一番弟子です。ヤマハさんに無理を言って出していただいた。その経緯があります。

 ディフェンスコーチは調整中。もう少しで締結できる。海外からお願いしようと思っています。サンウルブズは日本人と外国人の融合が一つの特徴。コーチ陣でもその融合を図っていきたいです。

 今日そういった意味で、しっかりと発表できる選手は少ない状況です。契約締結はしたけどチームとの最終調整が終わっていない、契約書にサインしたものが帰って来るかどうか、トップリーグチームと調整をしながら…ということになります。ワールドカップがあって全般的にスタートが遅れているのが正直なところ。この辺は状況を見ながら適宜発表したいです」

 この日発表された15名中、日本出身の選手は1名のみ。

 ワールドカップイヤーの日本代表は、休息期間も含め200日超の長期にわたって選手を拘束していた。

 トップリーグの関係者は「今年はワールドカップのために(チームを持つ)各企業に無理を言っていた。大会後は各チームに…となるのが自然」。それに伴い、トップリーグに参戦する代表候補選手の招へいは困難と見られていた。

 トップリーグのクラブでは、水面下におけるサンウルブズのラブコールを前向きに捉えながら所属企業の意向で態度を保留せざるを得ない若手選手もいる。またクラブ側からは、サンウルブズ側からの依頼内容がもっと個別的かつ具体的であればテーブルにつきやすいという意見も漏れる。

 

――今日発表できない選手は何人くらいいるのか。トップリーグのチームに所属するまま参加する選手がいるのかどうか。

渡瀬

「具体的な数字が頭にはないですが――多分、10人以上はいるのではないかと思いますが――トップリーグとの間では、各クラブもシーズンが始まったばかりでいろいろやっていますが、形式的には、いままで通り、トップリーグに在籍した選手がこちらへ派遣される形がメイン。ただ場合によっては、プロ選手のなかで『その期間』だけこっちと契約しようというケースもあります」

――期間ごとにサンウルブズと国内チームを行ったり来たりする選手も。

渡瀬

「それもまぁ、なかなかあるにはあると思うのですが。それができたらベスト」

――大学生の招へいについて。今後増える可能性は。

渡瀬

「あります。フィジカル的に怪我をするリスクがある。海外では19くらいからスーパーラグビーでプレーする選手もいますが、日本人の選手でそこまでフィジカルの強い選手は少ないと思う。そこは怪我をしないようなことを含め、各大学の指導者の方と話をしながら引き続き見ていきたいと思います」

――キャンプ開始時点で何人参加できるか。

渡瀬

「30人以上入るのが(マスト)と思いますが」

――日本協会と一緒になって強化するとお話ししていた。トップリーグ、オリンピック東京大会での7人制ラグビーなど、着手すべきものが多い。そんななか2023年のワールドカップフランス大会に向けた日本代表強化の受け皿になるべきは、サンウルブズではないか。日本協会内で、サンウルブズはどれくらいリソースを割いてもらえているか、もしくはどのようなコンセンサスが取れているのか。

渡瀬

「明確に何がどうと言うのは何の世界でも難しい。ワールドカップで大成功してトップリーグも、セブンズも…というのは初めてのこと(状態)。明確な回答があるとは思っていない。状況を見ながらどうコミュニケーションを取って解決するかということ。

 明確なのは選手がどう思っているか。4年間ってあっという間。サンウルブズに関わって思いましたが、あっという間に2019年になりました。選手もそういうことがわかっているから、ワールドカップに出られなかった若い選手は次の4年間、自分たちがどうチャレンジしていかなきゃいけないか、結構、焦りはあるんですよ。『初年度、このレベルまで頑張って何とかやれば代表候補に』など、それぞれ思うことはあると思う。それを踏まえ、我々が色々と考えていくことが大事だと思います」

大久保

「先ほど渡瀬からプレッシャーについて言われましたが、プレッシャーはありません。楽しみしかありません。私のやるべきこと、使命はひとつです。優秀なスタッフと選手の力を最大限に引き出すこと、そして、過去5年で最高のシーズンを送ること。これです。このために、半年間、真剣に、必死に、選手たちと向き合って、1日1日を成長していきたいです。スローガンは『KEEP HUNTING』です。

 今年のワールドカップ、大成功です。僕もまさかここまで日本中がラグビーに湧き上がるとは思ってもみませんでしたし、長くラグビーと携わってきて、やっぱりラグビーはいいな、人の心に訴えるものがあるなというのが正直な感想です。ただ、(ワールドカップは)過去のことでもある。次のワールドカップ、未来に目を向け、我々ラグビー界全体はスタート、第一歩を踏み出さなくてはと思っていますし、その第一歩がスーパーラグビー、サンウルブズであるべきと思っています。未来に向かってやるべきことは何か。選手、スタッフに毎日のように説いていきたいです。

 プレースタイルとしても、スーパーラグビーは世界最高のアタッキングリーグを標榜していますので、我々もトライには貪欲で行きたい。1本獲ったら1本、2本、3本。(スローガンは)勝利に飢えている、トライに飢えている姿にふさわしい言葉であると思います。

 ジャパンの『ONE TEAM』という言葉が老若男女、皆さまの心に突き刺さったのが代表選手の素晴らしい行動によるところが大きい。『KEEP HUNTING』に意味を持たせるのも我々の行動でありプレー。一人でも多くの方に共感してもらえるようなチームでありたい。以上です」

 元日本代表フランカーの大久保氏は、トップリーグのサントリーでフォワードコーチ、監督などを歴任し、指揮官時代は優勝を経験。タフで誠実な人柄や丁寧な指導が評価され、トップリーグのNTTコム、サンウルブズでもフォワードコーチを務めていた。

――日本代表およびその首脳陣との連携はどう取っているか。

大久保

「いま、ジェイミーもニュージーランドに戻っています。これまで過去3年、代表強化の一環としてやっぱり多くの選手がスーパーラグビーというタフな舞台で経験を積むことで、今回ワールドカップスコッド31名中28名がサンウルブズを経て試合経験を積み、成長し、(日本代表と)同時進行で成長してきた部分が大きい。テストマッチとスーパーラグビーでは舞台としては多少、違うんですが、世界のトップレベルを若い選手が経験するなか、失敗もありますけど、失敗のなかでよりインターナショナルの選手に成長していくという強化方針は、ジェイミーと私では一貫しています。その辺の選手の成長プロセス、若い選手の教育面、常にコミュニケーションは取っていくつもりですし、そうでなくてはいけない」

――これから加わる選手へのメッセージ。

大久保

「ワールドカップを過去のものと考えれば、現状に満足せずハングリーな選手に1人でも多く来て欲しいし、向上心のある人間が立つべきステージだと思います。先ほどのご質問で、渡瀬は協会理事なので若干、言いづらい部分があるかと思ったのですが、私もトップリーグで長く仕事をしていた人間なので、両方の立場の違いがあることは理解しています。誰も悪くはないと思います。企業側も選手も言っていることは間違っていない。ただラグビー界全体のストラクチャーのなかで、変えるべきものは変えて、選手の向上心を削いではいけないと私自身は思っています」

――選手選考について。ジョセフさんとはどれくらい連携を取っているか。

大久保

「セレクションに関して直接ジェイミーと意見交換はしていないのでこの場ではお話はできないが、彼も若い選手がチャレンジすべきだとはっきり言いきっている。今回、早稲田大学の齋藤直人君がノミネートしましたけど、彼が将来的に次の田中史朗、流大にプレッシャーをかけられる存在になるように(したい)。どのポジションでもそういうことがあるのが幸せなことだと思っている。かつて、田中史はハングリー精神を持って自分で海を渡ってハイランダーズに選ばれて(いまの)彼がある、そこの険しい道のりを齋藤君にも歩んでもらいながら、次のステージに上がってくれればと思います」

渡瀬

「ジェイミーの契約継続が決まったのもつい先日で、その時、彼はすでにニュージーランドにいた。選手選考、若い選手については、僕が彼に伝えました。大久保君がジェイミーと話すのはこれからになります」

――「トライに飢えている姿勢を見せたい」どんなラグビーを見せるか。

大久保

「トニー・ブラウンアタックコーチ、ジェイミーの体制になってから、毎週、与えられる宿題が選手にもあって、常に変化を恐れず、相手によってキックを先に入れる時もあるし、ポゼッションで行く時もあると。柔軟に対応できる能力は、スーパーラグビーを含め、かなり成長した部分だと僕も思っています。スピード、スペース、スキル。我々はオーソドックスにやっていても世界では通用しないと思うので、スピードとスキルでスペースをアタックする。ここが生命線だと思っています。同時に、走る、仕事するということで常に相手を上回っていかなきゃいけないと思っています」

――ワールドカップ期間中、ジャパンサイドとの連携は難しかったと思うが、戦術的なものの共有、セレクションを含め、日本代表側と話し合いを持つことはできたか。

大久保

「細かいディテールの部分についてはこれから詰める予定です。個人的には私もジェイミーも(日本代表で)一緒にプレーしていた時間も長いですし、サンウルブズでもコーチとして(2018年に)一緒に仕事をしていますので、その部分(コンセンサスを取ること)についてはそこまで心配はしていません」

――目標は。

大久保

「過去8勝なので大きなことは言えないが、プレーオフに出たい。そのためにはホームで勝つこと。特に福岡での2月1日の第1戦はテストマッチのつもりで行きます。一戦必勝で挑みます。あとは去年、都内から千葉県市原市に拠点を移していますが、移ってからまだホームで勝てていない。市原の皆さん、台風の被害に遭われた方々にいいニュースを届けられるように、チャレンジしたいと思います」

――日本ラグビー協会の森重隆現会長は、サンウルブズの2021年以降のスーパーラグビー参戦継続を目指すと話しています。進捗状況は。

渡瀬

「特に進捗状況で、お話しできることはありません」

 話を総合すると、前体制時に決まった枠組みや意思決定、ワールドカップへ向けた「国家総動員」とも取れる準備の反動などにより、次回のワールドカップへのリスタートを引っ張るべきサンウルブズが苦境に立たされていると取れる。

 ただしサンウルブズは、そもそもが発足前から解散の危機を乗り越えている集団。大久保氏、沢木氏、田村氏といった苦境を乗り越えうる日本人コーチを軸に据え、新たな価値を提出しにかかる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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