Yahoo!ニュース

決勝トライで注目の稲垣啓太、世紀の一戦へ展望語る。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
ストイックな男が決めた。(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

 ラグビーワールドカップ日本大会のスコットランド代表戦(10月13日/神奈川横浜国際総合競技場)で勝ち越しトライを決めた日本代表の稲垣啓太は、10月20日、南アフリカ代表との同決勝トーナメント準々決勝に左プロップとして先発する(東京スタジアム)。

 メディアで「笑わない男」と取り上げられる戦士は明瞭な語り口でも知られ、試合3日前の会見でも明瞭な語り口で自らのトライや次戦の展望などについて語っている。終盤には「生きていくにはお金は必要ですが…」としながら、日本代表として戦う矜持についても話した。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――スコットランド代表のトライシーンについて。

「代表に入って初めてのトライですけど、普段はトライした選手を追いかけて行って、励ますような感じ。逆にあの時は励ましにきてくれた。またいつもと違った光景が見られたのは感慨深いです。ベンチで中島イシレリ選手は非常に喜んでいた。ああやって自分のトライが祝福されるのは嬉しいですし、彼はチームでムードメーカー的な存在で、試合に出てくれればチームにインパクトを与えてくれる力強い存在です。

 僕がサポートに行っている理由はボールが欲しいからではないんですよ。ラインブレイクした選手が捕まったら誰が(相手を)クリーンアウトし、ボールをプロテクトするか。それは状況次第で変わっていきますが、そこに自分が誰よりも早く反応できるようにとは心がけてはいます。今回(トライシーンでは)、たまたまそこでウィリアム トゥポウ選手が僕にオフロードパスを出してもらったわけで、ボールをもらいにいったわけではないんです。もしあそこで彼が倒れていたら僕はそのままクリーンアウトして(接点の上で)ボールをプロテクトしていたでしょうし、それができたら外に展開して違う誰かがトライを獲っていた。そうした意識ですね」

――先発を守ってきた。

「選手全員、誰しもが、わがままな部分というか、誰にも負けたくない部分を心の底に持っている。とは言ってもチームですから、出ている選手にも出ていない選手に役割があって、それも選手は理解しているんです。そんななか、怪我をしてしまえば試合に出ること、練習に参加することもできない。ですのでプロ選手として、身体のケアには気を使っています。それを続けて来て、大きな怪我をせずにずっとやってこられた。怪我をせずにどれだけいいパフォーマンスを出し続けられるかが、試合に出続けるひとつの鍵になると思います」

――南アフリカ代表とのスクラムについて展望を。

「前回の試合(9月6日に対戦)では、スクラムでペナルティを2回取られている。いずれも押し込まれてのペナルティだったと思うんですけど、南アフリカは、ペナルティを取りたいですよね。そこは相手の強みだと思っています。ただ、相手の強みを消すために僕らがどんなスクラムを組まなきゃいけないか。堀江(翔太=フッカー)さんは同じ方向を向くと仰ったそうですが、それが大事なポイントのひとつ。ここに付け加えるなら、ひとりひとりのスクラムへのディテールです。足を何センチ前に上げるのか。その何センチというのが鍵になる。足が数センチでも下がっていたら、組んだ時に姿勢が伸び切ってしまう。それを数センチ前に上げるだけで姿勢が保てるとか、そうした細かいディテールが重要。それを80分間、続けるのは皆さんが思う以上に難しい。それをどう続けるかというと、1本、1本のスクラムへ100パーセントのマインドセットで取り組まなきゃいけない。試合展開によって厳しい状況もあると思いますし、そこでディテールが忘れがちになる部分もあるけど、それを忘れさせないという声掛けが大事になると思います」

――攻撃的な守備について。

「まずディフェンスの最大の目的はボールを奪い返すこと。ボールを奪い返さないことにはアタックを始められない。日本代表はボールをどう奪い返すのかというディテールを突き詰めていったのですが、ラインスピードを上げた時にどういった方向にディフェンスをもっていくのかが重要になります。全員、そうした意図を持っていると思います」

――モール防御は手応え。

「南アフリカ代表は、非常にラインアウトが優秀ですよね。間違いなくそこからモールをしてくると思います。僕らはそこでペナルティを与えない。そのためにはどうするか。戦術的なことなので詳しく言えないですが、そういったことも準備しているということだけはお伝えしたいですね」

――長谷川慎スクラムコーチとの関係。

「最初は、慎さんのスクラムに対してのプランを提示していただいたときに、選手全員にとって初めてのスクラムのプランだったんですよね。その組み方を誰もやってきたことがなかった。やってみなければわからなかった状況だったと思います。最初から慎さんのやることに『俺らはこれをやればいい。まず慎さんの言われることをしっかりやろう』が始まりでした。どんどん結果が出て『やっぱり、慎さんの言っていることは正しい、俺たちの方向性は合っている』となりました。ワールドカップで慎さんのスクラムが世界で通用することが証明できて嬉しいですし、慎さんのスクラムに対してのプライド、情熱、落とし込んでくれる時の姿勢に対して全員が尊敬していますし、100パーセント信頼しています。

 選手はスタッフのプランを100パーセント信頼しています。その関係は徐々に作られてきたと思いますが、最初の反発もなかったです。選手の取り組む姿勢が最初からよかったことも、結果に繋がっているんじゃないでかすかね」

――ジェイミー・ジョセフヘッドコーチが「代表選手は日当1万円。ほぼアマチュア」と発言。選手にハングリー精神はあるか。

「生きていうえでお金は必要ですが、僕らはお金が欲しくて日本代表として動いているわけではなく、僕らなりに信念があって動いている。お金の部分は僕らがコントロールできる部分ではない。特に気にはしていないですね。僕らがやるべきこと、何のためにラグビーをやらせてもらっているかを理解してプレーするのが大事なんじゃないですかね」

 南アフリカ代表戦は19時15分、キックオフ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事