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藤田慶和、リオデジャネイロ大会落選時の「隙」とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
終始、「隙なく行きたい」と強調する(著者撮影)。

 15人制ラグビーの日本代表でテストマッチ(代表戦)最年少出場記録(18歳7ヶ月27日)を持つ藤田慶和は現在25歳。5月6 ~11日は、男子7人制日本代表候補らによる男子セブンズ・デベロップメント・スコッド(SDS)府中合宿に参加している(東京・府中朝日フットボールパーク)。実戦形式のセッションと走り込みを交互に繰り返した9日午前、メディアの取材に応じた。

 藤田は身長184 センチ、体重90キロという恵まれたサイズで、躍動感ある走りを披露。15人制日本代表では2015年のワールドカップイングランド大会にも出場したが、翌2016年は7人制日本代表入りもオリンピックリオデジャネイロ大会時はバックアップメンバーに回り出番を得られなかった。

 いまも今年開催される15人制のワールドカップ日本大会への出場を目指すが、同大会の代表候補にあたる「ラグビーワールドカップトレーニングスコッド」からは外れている。SDS府中合宿での日々を前向きに捉え、「チャンスが来た時に、そのチャンスを掴む準備ができているのかどうかが大きい」と意気込む。

 取材では、2016年の落選時の心境も語った。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

 

――今年から7人制日本代表に合流しました。

「最初はフィットネスなどで自分に対して納得のいかないところもありましたが、いまは少しずつ慣れてきてチーム、セブンズという競技にフィットしてきている。ワールドシリーズでチームを引っ張れる存在になれればいいなと思っています。

(復帰前、7人制は)リオ以来、1回もやっていませんでした。ワールドカップ(2019年開催の15人制ワールドカップ日本大会)にフォーカスしていたので、7人制のことは考えていなかったです。(今年は)招集をかけていただいて、ブラウニー(トニー・ブラウン、サンウルブズ=国際リーグのスーパーラグビーの日本チーム=ヘッドコーチ兼日本代表アタックコーチ)に『セブンズ、どうかな』と相談してみたら、『行って来ていいんじゃない。必要になったら呼ぶから』と(当時、藤田はサンウルブズの練習生だった)。ブラウニーがそう言ったのだから、そこは信じるしかない。もし何かあれば、15人制の方に行ける準備もできている。棚から牡丹餅のような感じでも、チャンスがあれば行きたいと思います」

――7人制の日本代表として活動しているいまも、15人制日本代表としてのワールドカップ出場は諦めない、と。

「ワールドカップでの日本代表の日程が全て終わるまでは、選手として準備し続ける。僕のなかでは、それが当然だと思っています。いつ呼ばれてもいいように。もし、チャンスが来た時に、そのチャンスを掴む準備ができているのかどうかが大きい。いまはセブンズでも(状態が)上がってきていて、ランニングの部分は15人でも活かせるところがある。

 2020年のオリンピック(への挑戦)は、2019年(15人制ワールドカップ)が終わった時点で――選ばれるかどうかはわからないですが――始めようと思っていました。逆に、(7人制の活動を)早めに始められて、ポジティブかなと思います」

――7人制日本代表では、昨年6月から岩渕健輔ヘッドコーチが指揮しています。

「『Bee Rugby』。蜂みたいになろう、と。相手より早く動き、倒れたら早く起き上がる。それを信じて遂行していくことが、凄い結果に結びつくと思います。先ほどのミーティングでは、2日前のリバプールの話が出ました(5月7日にあったサッカーの欧州チャンピオンズリーグで、リバプールがバルセロナに4―0で圧勝。2戦合計4-3の大逆転で決勝に進出した)。苦しい状況から速くディフェンスする、速く攻めるという方針の監督を選手が信じて、あの結果が出たと(岩渕ヘッドコーチへの取材によれば、元7人制日本代表監督のパウロ・ナワル氏の発言と見られる)。信じてやるのが大事だと思います」

――目下、世界サーキットのセブンズワールドシリーズに参戦中です。

「自分がセブンズに慣れるのが難しかった。その部分は、(今年の招集後)最初のラスベガス大会、バンクーバー大会で感じました。ずっとリザーブで、試合に出てもなかなか満足のいく結果も出ず、チームも勝てない。悔しかったですね。(課題は)完全に、フィットネスの部分です。僕は走り回る選手だと思っていたのですが、そこで勝負できないというのが…。一発走ってしまったら足が重くなるなど、(動きが)単発になってしまって」

――お話にあった3月1~3日のラスベガス大会、同9~10日のバンクーバー大会とも、16チーム中14位に終わりました。

「(7人制と15人制とでは)フィットネスの種類が違う。自分では(招集を受けて)上げてきたつもりだったんですけど、その時は世界のレベルには到達していなくて。それでワールドシリーズでも痛い思いをして、次の香港、シンガポールまでの間はしっかりと(個別強化の)メニューを作ってもらった。ただ走るだけじゃなく、スプリントを意図的にトレーニングしたり、ウェイトの時もクロスフィットを入れてみたり。自分のなかでは、どの状況でも息が上がるような準備を急ピッチで進めたつもりです。

 セブンズから3年も離れると、急には(状態は)戻ってこない。(欧州に行く前から)岩渕さんもそう話されていた。それに対して『僕は大丈夫だと思います』みたいに言っていたんですけど…岩渕さんの予想通りになって! 日本に帰ってきた時に『…わかっています。もっと走ります』と言って別れて…(上記のトレーニングに注力した)という感じです」

――4月5~7日の香港大会は16チーム中8位とジャンプアップも、同13~14日のシンガポール大会ではまたも16チーム中14位に終わりました。今後は5月25~26日のロンドン大会、6月1~2日のフランス大会でコアチーム(ワールドシリーズに常時参戦できる15チーム)残留を目指します。現在は22ポイントで降格対象の15位に位置。14位のウェールズ代表を3ポイント差、13位のケニア代表を4ポイント差で追います。

「香港では自分たちのやりたいことが少しできた。それが順位にもついてきた。ただ香港で満足してしまった選手が出て、シンガポールの時はメンタルが…。それではポイントもついてこない。2大会続けて、継続した強さ、というのが、いまの日本には欠けている。いまのトレーニングは辛いですけど、ワールドシリーズを想定してやっていきたいです。これからの大会はすごく重要になる」

――ワールドカップ出場を目指されているのを踏まえたうえで、オリンピックへの思いも聞かせてください。

「ここで頑張っていることが両方(7人制、15人制)に繋がると思っていますが、2016年のリオのことがあるので、あまりオリンピックのことばかり考えてやるのはよくないと思っていて。今回のワールドシリーズ、きょうの午後からの試合(形式練習)…。ひとつひとつを積み重ねることで、大きな報酬が返ってくる。本当に、隙なくいきたいです。

 リオの時、自分にはどうにもできない状況に追い込まれた。次はそうさせないようにいきたい…」

 オリンピックリオデジャネイロ大会開幕を約1か月後に控えた2016年6月29日、藤田選手を含む14選手が「ラグビー日本代表選手団」として都内で会見。当日は、家族を交えた壮行会も行われた。うち12名が正規メンバーに、2名がバックアップメンバーに回ると見られていた。しかし結局は、14名の枠外にいた豊島翔平が正規メンバーに昇格した。

 豊島にとっては決死のアピールが実を結んだ格好だが、会見した14名のうち3名が正規選手から漏れ、そのうち2名がバックアップメンバーとなった。藤田はそのバックアップメンバーの1人として、松井千士とともに選手村の外で緊急時を待った。

<参考資料>

山田章仁、藤田慶和、松井千士の落選が、なぜ「掟破り」なのか?【ラグビー雑記帳】

落選、復活、リオ五輪4強。7人制日本代表の豊島翔平が語る「準備」とは。【ラグビー旬な一問一答】

「14人で会見して、その後オーストラリア遠征へ行きました。そこには、(14名から)漏れた選手も来たんです。それでオーストラリアに帰ってきたら、(当時首脳から)『15人目の選手を入れる。バックアップに回ってくれたら』と…。

 オリンピックに入ってからも、僕と千士がバックアップだったんですけど、メダルを獲るという目標があって、『2日目は疲れてくるから、どちらかを必ず入れる。絶対に準備してくれ』と。ルール上、どちらかしか替えられなかったけど『どちらかは必ず入れる』と言われ、準備していたんです。最後は2人が呼ばれ、『流れがいいからこのまま(正規メンバーのまま)で行く』と…。

 最初の会見をして、自分の隙ができたのかなと反省しているので、その隙を一切見せないように、ひとつひとつをクリアして、積み上げていければと思います。

 今回は、本当にオリンピックで自分とチームが得たいものを得るまでは、本当に隙なく行きたいです」

――現地での練習時、バックアップメンバーの気合いが凄まじかったと聞きました。

「『この短期間で落とされたのなら、リオまでの1か月間で逆転することは可能ですか』と聞いたら、『できる』と言われたので必死にやっていたんですけど…。

 …そういうこともあるので、僕のなかではオリンピックへのかなり強い思いがあります。ただ、オリンピック、オリンピックといっても、それは1年後の話。この1年間を充実させることがオリンピックに繋がると思うので、いまはオリンピックよりもいまを大事にする。ここは、ぶれずにやっていきたいと思っています」

 岩渕ヘッドコーチには「非常にパフォーマンスがよくなっているし、モチベーションも高い。チームにとって大きな戦力です。彼とは合流時にいろんな話をしましたが、もともと彼は特徴、躍動感のあるプレーが売りだった。そこを7人制、15人制を問わず出していくことが、藤田慶和がもう一段上に行くためのステップになるのではないかと話していた。いま、それ(特徴)が出てきています。ロンドン、パリでは期待しています」とエールを送られる。全ての経験を肥やしに、悔いなき道を突き進む。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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