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神戸製鋼ダン・カーター、思いやり満載の優勝会見ほぼ全文。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
ラン、パス、キックで随所に存在感を示した。(写真:つのだよしお/アフロ)

 ニュージーランド代表112キャップ(テストマッチ=代表戦出場数)を誇るダン・カーターが、新加入した神戸製鋼の一員として国内最高峰トップリーグを制した。12月15日、東京・秩父宮ラグビー場でサントリーを55-5で下し、チームにとって15季ぶりの栄冠を勝ち取った。

 テストマッチの個人通算得点記録(1598)も有するカーターは、身長180センチ、体重92キロの36歳。この日は司令塔のスタンドオフとして先発し、後半27分までプレー。試合後は単独で共同会見に応じ、チーム内外で認められる好漢ぶりをにじませた。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「神戸製鋼にとって特別な試合でした。前回の優勝から長い時間が空いていたので、本当に嬉しく思っています。今回の試合の週へ入ってからは、色々な感情が湧きました。長く神戸にいる橋本大輝さん、谷口到さん、前川鐘平さんには『神戸で優勝したい』という思いが強く、私は彼らの気持ちを背負ってプレーしました。彼らにとって優勝がどういう意味を持つのかを思ってプレーでき、よかったと思います。

 チームパフォーマンスには誇りに思っています。今日のパフォーマンスは、自分のためではなく、長く神戸にいる選手、OB、今日のノンメンバー、マネージメントスタッフのためのものでした。試合後のロッカールームは笑顔でいっぱいでした」

――最も多くチームメイトにかけた言葉を教えてください。

「(隣に座っている通訳を見て)我々のチームには素晴らしい通訳がいるので、選手とのコミュニケーションはできています。…真剣な話をすれば、今週、決勝に出たことのない選手たちが私、(ニュージーランド代表28キャップのアンドリュー・)エリス、クーピー(オーストラリア代表117キャップのアダム・アシュリークーパー)たちに『決勝を勝つためには何か特別なことをした方がいいのか』といった質問をしてきました。私からは、『いままでやって来たことを信じてプレーすれば大丈夫』と伝えました。ここまでいいラグビーができている。その理由は、シーズンを通してのハードワーク。だから何も特別なことは必要なく、いままでやって来たことを信用し、集中して自分の仕事をすれば大丈夫。順位決定戦に入ってからは、ずっとそう話してきました。

 こういう試合になると、基本をよくすれば結果がついてきます。いいトライが取れる。できると信じ、やって来たことを信じてプレーすれば大丈夫」

――きょうはボールを多く保持していました。

「サントリーはボールを持てば危ないチーム。(そのため自軍の)ボールキープが重要でした。

 フェーズを重ねればどこかでチャンスを作れるというゲームプランをシーズン通してやっていきます。プラン通りにやれればトライも取れる。ボールをキープして、シェイプを作り、システム内でプレーをすればトライが取れる。試合開始早々のトライはその好例ですし、あそこで『ボールキープしてフェーズを重ねればトライが取れる』という自信をつけられたと思います。システムの中でプレーするのは我々の強みです」

――どのトライで勝利に近づいたと思いましたか。

「ハーフタイムの話は、『ハーフタイム後の10分が大事』と話していました。点数では(22―5と)我々が上だったので、サントリーはどこからでも勝負してくる。我々は最初の10分間でトライを取らなければ、と思っていた。そしてその10分で2トライを奪えました。そうしたことで、『もう少しで勝てるんじゃないか』という気持ちが出ました。ここでサントリーのアタックが見られれば試合結果に影響したかもしれませんが、我々の狙うプレーができた。ここで、『勝てる』という思いになりました」

――勝った時の気持ちを聞かせてください。

「私が日本に来たのは7月でした。その前からチームがハードワークしていたのは、すぐにわかりました。チームが特別なことに取り組んでいたので、私が何か新しいことをしようとは思っていなかった。いかにそのチームにフィットできるかを考え、勝負してきました。リーダーシップ、若手への教育など自分が貢献できるところを見つけ、おこなってきました。その貢献できることには、自分のプレーを含みますね。シーズンを終えて振り返ってみると、できたことの方が多かった。皆の頑張りは誇りに思います。

 この結果、成長に辿りついたのは、自分がいたからではなく、選手、スタッフ全員がひとつの特別なグループ(の一員)として貢献できたからです。選手全員が貢献できたので、私がいまこうして座って話しています」

――ウェイン・スミス総監督の功績について。

「ウェイン・スミスは素晴らしいことをしてくれています。彼は私が来る2か月前にチームと時間を過ごしていた。彼がチームに入れようとしていたスキル、ストラクチャーはニュージーランドに似たものだと思っていました。具体的には、基本をよくするということ。スキルの部分で、基本をよくする。彼がチームでいつも言っていることです。チーム内の会話にも注目していて、選手はそれにチャレンジをしていました。チャレンジとは何か。一般的に、日本人選手は間違ったことは言いたくない、恥ずかしい、となる。それに対してスミスは『もっと喋ろう、意見を言っていこう』『その内容が正しいか正しくないかは置いておいて、思っている内容を伝えてくれ』と言っていた。話すことが学びになりますし、学ぶことでチームが成長できます。時として選手に厳しく接していましたが、それは我々に成長して欲しいと思っていたからです。

 彼がチームの前で話す時、心で考え、話していて、それが選手に伝わる。チームへの貢献度は大きいです。

 私は幸運にも、2004年から彼と付き合っています。彼が来てからチームは成長し、自信がついている。彼の厳しさは自信に繋がりますし、私にとって彼は世界一いいコーチだと思っていますし、彼と働けるのはラッキーだと思っています。…ごめんね。長くなって。私は彼が大好きで、彼のことなら何時間でも話せます」

――スクラムハーフの日和佐篤選手とのプレーについて。

「日和佐と一緒にプレーするのが楽しいです。外国人枠の問題でアンドリュー・エリスと組むことは少なかったのですが、日和佐は英語がよくできるので私も仕事がしやすい。お互いを、理解をし合っています。その理解はどこで作るのか。もちろんグラウンド内の会話もありますが、グラウンド以外の場所で一緒にコーヒーを飲みながら試合中にどんな状況が起こるかといった話もたくさんしています。そうした付き合い、絆によって、どういう状況でも同じ考えでプレーできます。私はどこのチームにいても9番、10番(スクラムハーフ、スタンドオフ)のコンビネーションは重要だと思っています。日和佐と組むことが多い以上は、日和佐とたくさんコーヒーを飲んで、たくさんいろんな話をした。彼がどのエリアにいても、彼は私の考えを理解できていると思いますし、それによってより効果的なプレーができていると思います」

 第一声でクラブの古参の思いについて触れたカーター。質疑の途中では、司会者や通訳とのやりとりのためひとつの質問がスキップされかかった場面もあった。しかしカーターはすぐに「あの質問の話をまだしていなかったね」と対処し、会見の充実度を高めた。

 スミス総監督とチームを束ねるデイブ・ディロンヘッドコーチは、カーターを含む国際経験豊富な選手を「ワールドクラスの選手がワールドクラスの人間だった」と称賛していた。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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