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男子7人制代表・岩渕健輔ヘッドコーチの見る「改善点」とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
ボールを持っているのは現キャプテンの小澤大。(写真:Haruhiko Otsuka/アフロ)

 7月20~22日のワールドカップセブンズ(米・サンフランシスコ)を15位で終えた男子7人制ラグビー日本代表は、2020年のオリンピック東京大会に向け急ピッチで強化を進めている。今年6月就任の岩渕健輔ヘッドコーチが心境を明かした。

 共同取材に応じた7月30日は、8月6日までの男子セブンズ・デベロップメント・スコッド(SDS)合宿の初日。ワールドカップセブンズ時の反省点をを練習メニューに反映させ、元7人制南アフリカ代表ヘッドコーチのポール・トゥルー氏ら世界で活躍するスポットコーチも招いていた。

「いま、オセロで言えば盤の上は相手の白でほぼ埋まっている状態。ここから自分たちの黒を増やすには、ひとつひとつ積み重ねるしかない」

 就任当初、オリンピックでのメダル獲得までの道のりをこう語った岩渕は、今後をどう見るか。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――ワールドカップのレビュー内容を、今度のメニューに反映したことはありますか。

「まずキックオフからのリスタート。色々な要素がありましたが、負けたゲームではキックオフのところがうまくいかなかったのは間違いなくある。一方、キックオフでうまくいかなくても他のところで取り返せればよかったのですけど、そこでの気持ちの切り替えも上手くいかなかった。(以上を踏まえ)練習の順番も大きく入れ替えました」

――確かに、大会前の練習では開始と同時に実戦セッションに入っていたのに対し、今回の合宿初日はキックオフの確認、走り込み、パス練習を順に実施していました。

「キックオフがよくなかったのは、1日目から2日目の気持ちの切り替え。メンタルを含めた準備。ウルグアイ代表戦にかけて、次のフィジー代表戦に後半届かなくなったところのカナダ代表戦でうまく切り替えられずに、最初のキックオフを取れず、余計に切り替えられなくなったと捉えています。技術的なこと、並びなどの改善点はありますが、むしろ準備、切り替えといった問題のほうが大きいと思っています」

 今回のSDS参加者16名(合流前の選手や練習生を含む)中8名がプレーしたワールドカップセブンズでは、初日こそウルグアイ代表との1回戦を33―7で制した。2回戦では強豪フィジー代表に10―35と屈するも、一時リードを奪うなど健闘した。

 ところが2日目に入ると、チャレンジトーナメント準々決勝でカナダ代表に17―35で惨敗。続く3日目の13位〜16位決定トーナメントでもロシア代表に20―26で負けた。 同日のラストゲームとなる15位16位決定戦ではワールドシリーズ常連のケニア代表に26―14で勝っているだけに、指揮官は敗戦時に乱れていたキックオフとその背後にある精神的な浮き沈みを問題視したのだ。

――2日目以降にやや苦しんだのは、精神面でのディスアドバンテージが大きいのですね。

「15人制の場合、試合が終わったら1週間空きますが、7人制の場合はすぐに次の試合がやってきます。そこでの切り替えはうまくいかなかった。最終戦ではロシアに負けてケニアに勝ったのですが、逆に言えば『(最後の)もうひと頑張り』はできたということになりますが、ではケニアが弱くてロシアが強いのかと言われればそんなことはない。

 これからオリンピックに向け、すべての試合で勝てればいいけれど必ずしもそうでないケースがあると思います。ワールドシリーズもそうですし、前回のオリンピックでも初日にイギリスに負けているんですよね(リオデジャネイロ大会では初戦でニュージーランド代表を破るもイギリスに負けている。もっともその後に盛り返し、4位入賞を決める)。切り替えがうまくできるかどうかが、競技としても必要です。

 ワールドカップセブンズでは我々も初日にかけて行かせた分、(2日目に切り替えられなかったことは)自分自身の反省のひとつです。16~17年のワールドシリーズで勝っていない理由のひとつにも、初日に全敗して次の日に切り替えられなかったことが挙げられます。

 ただ、今日(7月30日)はいいミーティングができた。選手たちが自分たちでそういう(上記の)話をしていたのです」

――国際舞台に挑む日本のラグビーチームには、周到に準備して臨んだ試合に強く、そうでない試合で苦しむ傾向がある。

「そこが2015年のワールドカップ、2016年のオリンピックを終えたなかで私が感じた今後の改善点です。それもあって7人制もヘッドコーチを変えましたが(ニュージーランド人のダミアン・カラウナを着任させた)、そこが不十分だったということで、いま実際には自分がやっている状態。その部分(事前準備の濃度にかかわらず勝ち切れる力)はかなり大きく改善していく必要があるし、そこが国のラグビー力が足りていない点だと思われます」

――現状をどう見ていますか。

「1~3日目で高い強度の試合がやってくる。だからきょうもこの練習(直前までおこなっていたトレーニング)を3回やりたいわけですが、…いまこの練習を3回もすると質は著しく低下するし、怪我にもつながるレベルなんです。根本的な体力レベルが十分にないと、2日目に気持ちに余裕を持って臨む(ための練習をする)ことができない。フィジカル上の問題がかなり大きくあります。ここは改善しなければなりませんが、逆に大きく改善できる点だとも思っています」

――どう変えるか。

「今回も、元7人制南アフリカ代表のヘッドコーチ、ポール・トゥルー(スーパーラグビーのストーマーズでアシスタントコーチを務める。南アフリカ、ケニアの7人制ヘッドコーチ)。私が考えるなかで、世界のセブンズ指導者のなかではトップ5に入る1人だと思ってきてもらっています。練習の組み立てや技術面で、私自身もアドバイスをしてもらいたいと思っています。15人制のトップリーグでなら世界でも名将と言われる人たちが各地にいて、スタンダードは上がってきている。一方、セブンズでは(世界のエッセンスに触れられる場は)ここしかなく、海外でもクラブチームがあるわけでもない。ノウハウ的なものって、門外不出のようなのですよね。そんななか自分がヘッドコーチをやると決まった時、(トゥルー氏に)力を貸して欲しいと伝えていました。今後も定期的に来てもらえそうです。トータル的にいいプログラムにしていかなくてはいけないと思っています」

――トゥルーさんには、今後もコミットしてもらうのでしょうか。

「彼のことは人関性についても深く人間的にも尊敬していますが、チームにフィットするかなど、(今後の関係構築に向けての検討事項が)色々とあります。ただいずれにせよ、ポールのような指導者からアドバイスをもらいたいと思っています」

 オリンピックでの競技日程まで、2年を切った。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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