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スーパーラグビーを辞めるなんて! 日本代表ヘッドコーチも提言。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
サンウルブズはテストシリーズ明け最初の試合で、チーム史上初の3勝目を挙げた。(写真:ロイター/アフロ)

 現在は腰の手術のために母国ニュージーランドへ帰っている日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチは、6月27日、東京・秩父宮ラグビー場で会見。同月のテストシリーズ(代表3連戦)の総括とともに、こんな話をしていた。

「来日時、日本代表のレビュー書類を読みました。エディー・ジョーンズ前ヘッドコーチによって書かれたものです。『今後の日本ラグビー界の強化発展のためには、選手やコーチがよりハイレベルな競争、ハイレベルなラグビーへアクセスしなければならない』。その基盤をなすのがサンウルブズです」

 前任者との比較を好まぬ傾向にあるジョセフがジョーンズの名を挙げるのは稀。「サンウルブズ」の重要性を強く訴えたかった気持ちの表れとも取れる。

 サンウルブズとは、国際リーグのスーパーラグビーへ日本から参戦3季目のプロクラブ。指導者や戦術、選手の多くを日本代表と共有する、いわば兄弟チームだ。今季はジョセフが日本代表とサンウルブズの指揮官を兼務。開幕9連敗と苦しんだが、5月にはチーム史上初の連勝を記録するなど前向きな話題も提供している。

 

 日本のスーパーラグビー参戦が決まった2014年、在籍年限は2016年から2020年までの5シーズンとされた。2021年以降の参戦継続も望まれていたが、何と、日本協会の内部では撤退に関する議論が出ているという。この日の会見中の質疑で明らかとなり、ジョセフは改めてスーパーラグビー参戦の意義を訴えた。

 以下、共同会見時の一問一答の一部。

――代表について。3戦全勝を目指した今回のテストマッチシリーズで1敗しました。

「負けた対イタリア代表2戦目(6月16日、22-25で敗戦)からは、学ぶことが多かった。我々は他チームに比べ小さいので、この試合に限らずフィジカリティがターゲットになっています。イタリア代表は2戦目の時、その部分で我々にプレッシャーをかけてきました。ただ、それにどう相対するかについて、試合後の1週間で修正、対策しました。だからこそあのジョージア代表戦があった(6月23日、28―0で完封勝利)。スクラム、モールディフェンスなどでどうベストな戦いができるかについて、1週間でいろいろと準備できた。我々がいまの条件でどれだけフィジカルに戦えるか、どうすべきかを学べました。それを今後もやっていきたい」

――徐々にメンバーを固定したいのではと思いますが、特に新戦力の欲しいポジションはありますか。

「まず概念として、チームはメンバーが一貫しているほどパフォーマンスが上がると考えています。サンウルブズはいろいろな選手を試す場だとも考えていますが、代表チームではなるべく一貫してチームで育てていきたいと思っています。だから、あまりメンバーを変えていないように映るのでしょう。もうひとつ、テストマッチではジャージィへのリスペクトを持っていなくてはならず、ジャージィを着る背景には確固たるスタンダードが必要。そう考えると、セレクションも一貫性のあるものになると思っています。今回も小さい怪我や脳震盪が見受けられたので、そういったシーンを補える選手はポジションを問わず準備しておかねばならない。選手層が不安定だとプレッシャーが生じますが、それをクリアするのが私の仕事でもあります」

――今後の選手選考について。

「トップリーグ(国内)には目を向けています。トップリーグで戦っている選手のなかには、1本目に出ている選手の裏にも何人か選手がいます。十分なゲームタイムがないと見極めが難しいが、これからも見ていきます」

――サッカー代表ナショナルチームを勝たせる重みは感じたか。

「サッカー代表には、少し思うところはあります。コロンビア代表戦では相手が退場になって日本代表が勝利を得ました。サッカーもラグビーもそうですが、選手にとって完璧なゲームはできないもの。そこで少しでも完璧な試合をするために、いい準備をするのです。そこはサッカーもラグビーも、共通していると思う。サッカーの代表は大会前は難しい状況下にあったなか、あの勝ち方で自分たちの価値を持つことができた。次のレベルへ行くための準備の重要さという点では、共通する部分があるのかなと思います」

――ここからはサンウルブズについて。負け続けていた時、「ソフトモーメント(気の抜けた時間)」があったと言っていました。その課題は解消されたか。また、他に改善すべき問題はあるか。

「ソフトモーメントという言葉を使った意味は…。試合を戦っていくなかで肉体的、精神的に集中すべき時間に、サンウルブズがそうできなかったということです。

 テストマッチとスーパーラグビーは性質が異なりますし、それぞれに参加する選手たちのマインドも違う。それを前提に言えば、今回のテストシリーズでもソフトモーメントと呼ばれる時間はあったと思います。とはいえ、6月には選手たちの成長が見られた。対イタリア代表2戦目で、相手は初戦時と全く違うチームになって向かってきた。それに対し、我々日本代表も修正して立ち向かってくれた(後半に一気に追い上げる展開だった)。

(2019年のワールドカップ日本大会で同組の)アイルランド代表、スコットランド代表を相手にこのようなソフトモーメントがあっては勝てない。それくらい重要だと考えています」

――サンウルブズは開幕9連敗を喫し、現体制も懐疑的な見方をされました。今度のツアーで安心したのではないですか。

「安心もしました。自分のやっていることに自信を持ってやるのがヘッドコーチとしてのあるべき姿だと思っています。選手、チームはそのなかから勝利をもぎ取っていかなければなりません。サンウルブズには、どんなに懸命に取り組んでもうまくいかない時、怪我をする時、体調を崩す時、ミスをする時がありました。そこで選手たちが自分たちのパフォーマンスへ自信が持てなくなると、チーム全体の自信がなくなる。

 ただテストマッチツアーでは、自信が育まれた。私のヘッドコーチの仕事には、勝利に繋がる自信を培わせることもあると思います。これが6月に関しては、うまくいった。選手へハッピーな感情を抱いています。選手、コーチらが家族など色々なものを犠牲にしてサンウルブズにコミットしてくれました。それが、6月に報われました。今回選手の顔を見てよかったと思う部分です」

――スーパーラグビー参戦の効果は。

「前提として、サンウルブズのヘッドコーチと日本代表のヘッドコーチでは役割が違います。サンウルブズには日本人以外に20名以上の外国人がいて、そのなかにはオーストラリア人もトンガ人も南アフリカ人もいる。それらすべてをコーディネートして、違うアライメントを作ることが求められた。それが日本代表へどんないい影響を及ぼせたのか、簡単には挙げられません。ただ、それでも思い出されるのは、相手に対するフィジカリティへの一貫性です。これは過密日程下で培われたものです。我々はトップリーグ終了後、少しの休みを経てすぐにハリケーンズ、クルセイダーズのようなチームに挑んだ。これはフェアではないと思いますが、その中でコーチング、パフォーマンスに一貫性が見られました。これは頼もしいと思います」

――日本協会は、2020年限りでスーパーラグビーから手を引くことも検討しているが。

「私自身は、スーパーラグビー参戦によって得られるパスウェイが必要だと思います。もし、日本ラグビーがこの先も国際舞台で戦いたいのならば、です。仮に私が2019年以降も日本代表のコーチングに携わるとしたら、やはりそうしたシチュエーション(サンウルブズの存続)を求めます。メディアに『なぜ勝てない』と問われた時、『アマチュアだから』とは言いたくない。タフな状況下にいた方が頼もしいと思われます」

 本稿では、記者会見中の質疑応答の一部を日本代表関連、サンウルブズ関連の話題に分類して紹介している。スーパーラグビー撤退論の質問は、実際の会見では中盤あたりで出ていたが、この時のジョセフが通常よりも踏み込んだ発言をしていたのが印象的だった。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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