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サッカーの次はラグビー? 岩渕健輔、メダル獲得への決意。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
リオデジャネイロでの歓喜の瞬間。(写真:ロイター/アフロ)

 この国のラグビー界は2019年に15人制のワールドカップ日本大会、翌2020年にはオリンピック東京大会での7人制ラグビーという一大イベントを控えている。

 ナショナルチームの勝利が競技人気に火をつけるのは、現在おこなわれているサッカーワールドカップロシア大会への国民の反応を見れば明らか。日本代表がコロンビア代表に勝利するや、ファンは手のひらを返したように熱狂する。

 ラグビーフットボールの方でも、これに近いことは起きた。2015年にワールドカップイングランド大会で男子15人制日本代表が3勝し、翌2016年にオリンピックリオデジャネイロ大会で男子7人制日本代表が4位入賞。当時は注目度が増し、特に2015年には大きなブームが巻き起った。

「2019年、20年の戦いが、日本ラグビーのその先の50年を決めてしまう。それにあたって、戦う理由を明確にしなくてはいけない」

 決意を明かすのは、岩渕健輔。今年6月から男子7人制日本代表のヘッドコーチに就任していた。

 同代表ではリオデジャネイロ大会後、ニュージーランド出身のダミアン・カラウナヘッドコーチが就任。もっとも経験豊富な選手の確保に難儀し、2017年には世界サーキットのワールドシリーズでコアチーム(常時出場可能枠)から降格した。今年4月には再昇格も、日本協会は指揮官交代に踏み切った。

 白羽の矢が立った岩渕は、もともと男女7人制日本代表の総監督。日本協会側へは「責任は私にもある」と話したというが、結果的に現職へ就くこととなった。それまで務めていた男女7人制日本代表総監督と兼務する形で、2020年のオリンピック東京大会まで指揮を執りそうだ。

 岩渕は2015年までの4年間、男子15人制日本代表のゼネラルマネージャーを務めていた。強豪国とのマッチメイクや長期合宿の計画立案を通し、イングランド大会に臨むチームを後方支援。イングランドでのプレー経験があるなど、日本ラグビー界では希少な国際派としても知られる。

 思いを明かしたのは5月25日。正式就任前もタクトを振るうこととなった、セブンズ・デベロップメント・スコッドのS&C合宿中のことだ(東京)。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――現場に立ってみて、いかがですか。

「2012年から強化担当をやらせてもらってきていましたが、責任の重さ自体は(変わらない)。スーツを着ていようが現場にいようが、常に自分に責任があると思ってやっていました。ただ、(指揮官になることで)選手との距離感が近くなる。チームそのものの空気、雰囲気を作っていくことが、いままでとは違う仕事のひとつになります。自分自身、800日で大きなチャレンジをしなくてはいけない」

――キーワードは「メダルクオリティ」。メダルを取るに値する心技体を身につける、という意味でしょうか。

「正式な就任は6月からですが、5月24日にチームへ『自分たちがやらなきゃいけないことはメダリストになること。そのためには何をやらなくてはいけないか』について話をさせてもらいました。ウサイン・ボルトと同じようにならなくてはならず、そうなるにはやらなくてはいけないことがたくさんある。いまはオセロで言えば、盤の上には我々の黒い石の数が少ない状態で、空いたマス目はほとんど残っていないという状態です。ここから全部を黒にひっくり返すには、相当なことをしなくてはならない。2020年7月に向けて24時間、ひとつひとつ白を黒にしていかないとメダルは夢のまた夢です」

――チームフィロソフィーを作りたいとお話になっていました。

「リオデジャネイロ大会での結果は、我々歴代の代表チームが世界大会で残した結果のなかではベストだったと思います。ところが日本へ帰ってみると、ほとんどの方が我々のことを見ず、ほかのメダリストの方を注目していた。2015年(15人制ラグビーのワールドカップの日本代表)も注目をしていただいたけど、言い方はよくないですが、オリンピックの大きな波に消されてしまった。2019年の日本のワールドカップで15人制代表が結果を出してくれても、翌年に我々が活躍できるかどうかがすべて。ここでメダルを獲れなければ、19年の盛り上がりも消えてしまう。それくらい大きな覚悟があって、2019年、20年の戦いが、日本ラグビーのその先の50年を決めてしまう。それにあたって、戦う理由を明確にしなくてはいけない。目標ははっきりしていますが、それよりももっと大きなもののために戦う。自分自身のためよりも、もっと大きなもののために戦う。まだ始まって数日ですが、私が『これだ』と出すのではなく、選手たちと一緒に(チームフィロソフィーを)作ろうという話はしました。色んな形でセッションしてやっていきたいと思っています」

――コーチ陣との役割分担などは。

「カラウナ体制の下でやってくれていたコーチたちは皆、優秀。自分がやること、他のコーチがやることを含め、大きく変えずに行こうかなと思います。ただ一方で、本当にオリンピックで勝つことを考えると、(今後)加えなきゃいけない担当分野のコーチはいます。時間に限りがあるので、どんどん手をつけていきたいです」

――練習を拝見するに、カラウナ時代よりスキルの細部にこだわっている印象があります。

「大きなラグビーの方向性も示していますが、細かいことをやっていかないとそこにはたどり着けない。先ほどのオセロの話で言えば、ひとつひとつしっかり埋めていかないといけません。2020年、急に魔法はかからないので。

 リオデジャネイロ大会での大きな反省は、3日目の5試合目にいいクオリティを出せなかったこと。その(改善の)ためには、オリンピックまでの間にワールドシリーズでのベスト8、ベスト4の戦いをできるようになっていないといけない。あの時のあのチーム(リオデジャネイロ大会時)は本当に素晴らしいパフォーマンスを出してくれましたが、いわば3日目の3試合目(で強敵とぶつかること)が初めてだったのです。戦いうる体力、スキルが、最後はなかった。大会5、6試合目の残り3分でいいクオリティを出すには、単純に走れなくてはいけないし、それに耐えうるスキルがなくてはだめ。大きな方向性と、その達成のための小さな目標を明確にしていきたいと思っています」

――選手はできる限り固定する予定ですか。

「もちろんです」

――リオデジャネイロ大会以来7人制から遠ざかっているメンバーへのアプローチは。

「私にとっては、いまここにいるメンバー(5月のS&C合宿に名を連ねた14名)を第1次オリンピックスコッドと考えています。そういう発表の仕方はしていませんが、選手にはそう伝えています。『現時点でオリンピックに一番、近い。だからと言って、決まったわけでも何でもない』と。他にも、15人制の代表にいながら7人制にもチャレンジしたいと言っている選手は多々います。それらへの扉を閉めるつもりは、一切ない。全競技者がオリンピック候補で、いい選手がいれば是非一緒に戦いたいと思っています」

――すでにアプローチしている選手は。

「ヘッドコーチとしてだけではなく、リオデジャネイロ大会が終わってから話をしてきた選手は何人もいます。これからも継続してコミュニケーションを取っていきたいと思います」

――大変な道のりですが。

「オリンピックでの目標を入賞ということにしようか、という話も(選手に)したんです。でも、そうじゃないよな、と。『ラグビー界が掲げたことのない目標にチャレンジする。その覚悟がなければこの時点で出て行ってくれ』とも言いました。ただ、選手だけではなくスタッフも全員、戦うと答えてくれました。『(東京大会でのメダル獲得は)2015年、2016年に起こったこと、2019年に起こることよりも難しいこと。それに対する覚悟はあるか』という話は、選手を集める前にスタッフだけにも言いました。私はリオデジャネイロ大会の時もメダルを獲らなくてはいけないという思いでやっていましたし、自分自身はぶれていない。選手の近いところで戦うことになったことで、空気を直に感じながら、先頭に立って戦っていきたいと思います」

――カラウナ前ヘッドコーチがいたことの意味は。

「瀬川智広元ヘッドコーチが(リオデジャネイロ大会までに)残したことの大きさを踏まえ、実績のある、エッセンスを持つ人を加えるというのが瀬川からカラウナに代わった理由です。カラウナ体制に入るなかKPI(目標の達成度を評価する指標)を作りましたが、達成した項目、達成しなかった項目などを見て、ここから強化のスピードをもう一段階上げていく必要があると思いました。それ(達成しきれず、強化スピードを上げる必要がある項目)が、今日見ていただいたような練習内容のひとつひとつ(スキルの正確さなど)だと考えています。

 ヘッドコーチの交代についてはいろいろな議論、ご意見があると思います。ただ、私がこの間までの第1次ヘッドコーチの評価者としてやってきた仕事は、男子15人制日本代表前ヘッドコーチのエディー・ジョーンズにも、女子7人制日本代表前ヘッドコーチの浅見敬子にも、15人制女子日本代表前ヘッドコーチの有水剛志にも(やっていた)。お互いに話していたKPI、大会結果以外の目標値があって、それをクリアしたかしていないかで協会にレビュー結果と意見を出す。それ自体は何も特別ではないです。カラウナのレビューを出す時は、私自身の責任も当然、生じます。同じタイミングで私の進退の話を専務理事にしましたし、それ以前から他の候補者も出していた。最終的に協会として、色々な話し合いのなかでこういう(岩渕新ヘッドコーチ就任への)オファーがあった、というのが流れです」

――カラウナの仕事について、どこを注視していたのですか。

「いまいるメンバーをどこまで鍛え上げていけるか。これが男子7人制代表でやらなくてはいけないことなんです。15人制のワールドカップがある以上、15人制代表の選手は選べない。トップリーグとの色々な兼ね合いがある。そんななかで7人制に覚悟を決めてくれているメンバーを、どこまで鍛えられるか。そこが(カラウナを評価する際の)大きなポイントでした。香港での入替戦結果(コアチーム再昇格)はもちろんいい結果でしたが、その前のワールドシリーズ、アジアシリーズでの強化の仕方が、大会結果以外での大きなポイントになったひとつです。それは今後、誰がヘッドコーチをやるにしても(同じ)。2020年はいろいろな企業にご協力をいただいていますが、2024年、2028年になるにしたがって、そこ(現有戦力の底上げ)ができるコーチでないとより難しくなります。

 コーチにはいろいろなタイプがあります。カラウナの残してくれたもの、7人制への知見は全く疑いがありませんでした。カラウナと一緒にやろうと決めたことも悔いはないです。一方で東京オリンピックまでの期間、その先に向けたレビューの上で、この形になったということです」

 7人制日本代表候補にあたる男子セブンズ・デベロップメント・スコッドは、以後もメンバーの追加や入替を繰り返しながらキャンプを重ねてきた。

 6月28日からの3日間は東京で府中合宿を実施し、7月1日には東京・秩父宮ラグビー場でのジャパンセブンズへ参加。当面は、同月にサンフランシスコである7人制ワールドカップを見据える。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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