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ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ、サンウルブズで「なぜローテーション」?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
北九州のキャンプでもタフに。(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

 国際リーグのスーパーラグビーへ日本から参戦して3季目となるサンウルブズのジェイミー・ジョセフヘッドコーチが2月3日、個別のインタビュー要請をしたメディアを対象とした共同取材に応じた。福岡市内で現地記者を集め、東京の記者とも無料テレビ電話をつないだ。

 

 日本代表の指揮も兼ねるジョセフヘッドコーチは、昨季まで「チームジャパン2019総監督」という立場でサンウルブズの選手のスケジュールや体調を管理。今季は2019年のワールドカップ日本大会への強化促進のため、サンウルブズでの直接指揮に踏み切った。

 ジョセフは「3つのチームを同時進行でマネジメントしている」と強調。ひとつが毎年6、11月に稼働する日本代表で、もうひとつがサンウルブズ、さらにもうひとつがNDS(ナショナル・デベロップメントスコッド=ジョセフが発案した日本代表候補選手の強化機関。昨季はサンウルブズの海外遠征中にキャンプを開催)である。

 ここでは総監督として臨んだ昨季の反省、それを受けての今季への修正点などを明かす。

 以下、共同取材時の一問一答(編集箇所あり)。

――2月5日からの北九州合宿でやりたいことは。日本のシーズンで最後まで戦って疲れがたまっている選手のコントロールは。

「(トップリーグなどのため)準備期間が短く、心身共に消耗しているなかでスーパーラグビーへ入る。ただ、それを気にしていたら、強気には戦えない。置かれた環境下でやるべきことを全力でやらなくてはいけないと、選手に伝えています。強度の高い練習を続ける。選手の習得は早く、いい質問も出てきています。ゲームプラン、戦い方の落とし込みは順調に進んでいくと思います。ハードワークをしながら、攻防のプランを落とし込んでいきたいです。ゲームプランの前にチーム作りをしないと戦えない。こだわっているのはチーム作りです。

 サンウルブズの試合ではベストプレーヤーを使う。元気、やる気のある選手を選びたいと思います。これは昨季からの学びですが、ローテーションで色んな選手を起用した結果、入れ替わった選手が違った意識で入ってしまって、パフォーマンスに影響が出てしまった。そこらへんはやり方を変えていきます。レストを与える選手はテストマッチに向け、5月の試合で外すなどし、管理したいです」

――具体的には。

「まずは、昨季なぜローテーションを設けたかというと、選手たちが休息を取る期間があまりにも短く、オフを与えたいということでした。ただ、堀江や田中史朗にブレイクを与えましたが、6月の代表期間中、それまでの積み上げができておらず、ちゃんとしたパフォーマンスを出せていなかった。ただ、いま2人を見るといい状態です。選手を平等に扱いたい。選手はポジション争いで奮闘している。成功するには、チーム内で健全なポジション争いが起きることが必要なのかもしれません」

――総監督という立場、難しさはありましたか。思うようにいかないこともあったのでは。

「質問が漠然としているので具体的にどんな回答を求めているかわかりませんが、総監督としての苦戦は何も感じていませんでした。3つのチームを率いてそれぞれを見ていたというだけです。今年はサンウルブズのコーチング、ジャパンもそのまま引き継いでやっていくというだけです。

 昨季取ったやり方も、良かったと思っています。サンウルブズではある一定の選手を継続的に鍛え上げられたし、自分が自らNDSで新しい選手を見た。布巻峻介(サンウルブズ入りも本格合流前はNDSで調整)、流大、石原慎太郎を見ましたが、彼らは代表に定着して、流はサンウルブズのキャプテンをしています。このような選手たちを発掘し、才能を開花させ、鍛え上げられたのは、NDSで自分が密接にコーチングできたからです。NDSなしでは、彼らは代表に入っていなかったかもしれません。野口竜司、松田力也、中村亮土もそうです」

――昨季はNDSも離れてブレイクしていた堀江選手、田中選手も、今年はNDSで継続的にトレーニングするということか。

「サンウルブズでツアー(海外遠征)メンバーにならなければ、NDSに参加します。NDSでは体力強化を継続的にコーチングしてもらいます。NDSにも優秀なコーチが揃います。堀川隆延コーチ(ヤマハ)、相馬朋和コーチ(パナソニック)、大久保直弥コーチ(NTTコム)、さらにサンウルブズからはヘッドS&C(ストレングス&コンディショニング)コーチ(サイモン・ジョーンズか)、田邊淳スキルコーチもNDSに残ります。NDSには、ジャパンのキープレーヤーが入るからです。しっかりと強化を図りたいです。堀江、田中に関しては、昨季は長いブレイクを与えたことで、6月に突入した時に準備がなされていませんでした。しかしそこを経て、11月にはいいパフォーマンスができていたと思います」

――サンウルブズとNDSの規模について。

「サンウルブズに40名ほどいます。NDSは30名ほどにする予定です。また20歳以下に本代表の遠藤哲ヘッドコーチとも連携を取って、パシフィックチャレンジ(昨年は3月に実施。環太平洋代表予備軍にジュニア・ジャパンとして挑む)で才能を見ます。これらから選出したい。それ以外の場所ではタレントの発掘が難しい。プレーしていないので。いま、プレーしていて可能性のある選手は全体的に把握できています。今回、キヤノンの荒井康植をトレーニングスコッドで招集していますが、キヤノンでは最後の数試合しか出ていない。東芝の知念雄もそうですが、いい選手にも関わらず試合に出ていないと、発掘が難しい。トップリーグのチームには、そういう選手に経験を積ませて欲しいです。試合時間が与えられていない東芝の徳永祥尭も、そうですね。彼にはポテンシャルもあります。いいスキル、能力、個性を持っていると思います」

――NDSの30名には、20歳以下日本代表も入るのか。

「能力ある選手がいたら、(20歳以下日本代表でも)その30名に入ると思います。鹿尾(貫太)、尾崎晟也は昨年のアジアラグビーチャンピオンシップでいいパフォーマンスをしていましたね。野口は6月のウィンドウマンスの代表でも出ていました。能力があれば、入れます」

――サンウルブズにけが人が出ればNDSから追加招集という理解でよいか。

「基本的にはそうです。まず、いま何名かのけが人がいます。その選手たちは松島幸太朗、福岡堅樹、ゲラード・ファンデンヒーファー、ウィリアム・トゥポウです。彼らは経験者で、ポジションはアウトサイドバックスで重なっています。最初の何試合かでキープレーヤーが参戦できないのであれば、経験者を代わりに。もし(けがをした選手が)若手であれば、若手を補充します。ケースバイケースでやります。プロの大会に向け、セレクションに制限はかけません」

――藤井雄一郎キャンペーンマネージャーの就任について。

「来日して1年半ですが、そこで学んだことは3つのチームを同時進行でマネジメントしないといけないことです。3つとはNDS、日本代表、プロ集団のサンウルブズです。

 総監督としての役割は把握していますが、ラグビーチームを率いるうえでの試練の半分はラグビー以外(グラウンド外)での関係性です。

 またラグビーにおいては、試練のうちの半分がゲームで、もう半分は外部との関係性です。大学、トップリーグのチームに選手を要請する際に立ちはだかる困難、障害、スタッフを要請する時に生じる困難。直接、自分に『できない』と話せない選手がいるのであれば、と、キャンペーンディレクターという窓口を設けました。

 チームにはCEO、マネジメントグループ、協会、ステークホルダーなど色々な経験者が揃っていますが、以前からの反省としてトップリーグや大学へ選手を要請する際の段取り、手順というものがありました。またこの環境下で何が必要かを理解されて、サンウルブズのマネジメントをサポートするスキルを持っている方は、藤井さんしかいない。私との関係性もありますし、彼が適した方だと思いました」

――藤井キャンペーンディレクターは、日本協会の薫田真広強化委員長と役割が重なりそうですが。

「サンウルブズは藤井さん、日本代表は薫田さんが担当ということです」

――現在の43名のスコッド中、2019年のワールドカップ日本大会時に明らかに日本代表入り資格を取れない選手は5人。37名からワールドカップのメンバーを選ぶのか。 

「昨季のサンウルブズは、代表資格がない選手は選ばないというポリシーでした(南アフリカ代表選出経験のあるリアン・フィルヨーンは例外)。今年入ってきた選手の何名かは、昨季のポリシーでは参加できなかった。去年からその選手たちが参加できていれば、チームはもっと強くなれた。

 皆さんにお聞きしたいのが、『日本人が経験、才能あふれる外国人とスーパーラグビーを戦う』『日本人だけのチームでスーパーラグビーを戦い、勝てない』のどちらが強化につながるのかということです。そのバランスを取るべきです。日本代表選手の育成の妨げにならないように強化を図っていくことと、彼らにより最高峰のレベルで戦うチャンスを与えることが重要だと思います。スコッドを見ると、代表資格のない選手は10パーセント。その比率はいいものだと思います」

――ワールドカップでは外国人選手の力は必要か。

「いままでの日本代表を見ていても、ラグビーのプロ化以降は常に外国人がいました。なので、私は新たな試みをしようとしているわけではない。イングランド大会で南アフリカ代表に勝った日本代表は海外出身者が8名(実際は5名)。リザーブにも外国人が入っていました。自分もベストプレーヤーを選ぶだけです。勝たせるのが自分の役目なので」

――かつて7人制オーストラリア代表入りしているエドワード・カークが日本代表に入れるかどうか。わかるところを教えてください。

「カークに関しては担当責任者ではないので、他の方に聞いてください」

――ヨーロッパの6か国対抗が間もなく始まります(取材時)。ワールドカップ予選プール同組のスコットランド代表、アイルランド代表について。

「アイルランド代表についてですが、シンプルな戦い方をしています。セットは整備されている。シンプルがゆえに高い遂行力がある。感心しています。スコットランド代表はコーチが変わり戦い方が変わっている、より攻撃的になっている。プール戦で戦う4チームに対していつから準備するかはもう少しワールドカップが近くなってから。すでに情報収集をしていて、しかるべきタイミングで落とし込みを始めていきます」

 主力組の体調管理に反省点を見出したジョセフは、6月に向けてはリフレッシュよりもハードワークを課すかもしれない。国籍にとらわれず「ベストプレーヤー」を集めるのは万国共通。ジョセフの選ぶ「ベストプレーヤー」とその選考基準に、引き続き注目が集まる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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