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攻めるか埋めるか。細かすぎても伝えたいトップリーグプレーオフレビュー。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
球をさばくのはサントリーの流。ポーコック(写真中央)は休まず動く(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

 赤城おろしの吹く群馬県太田市の本拠地で、一昨季まで3連覇していたパナソニックのロビー・ディーンズ監督は、対するサントリーの特徴を穏やかに話す。

「相手チームは我々にいろんなことを問いかけてきます。我々の弱みを探します。我々は、いいゲームをしたい」

 一方、東京都府中市の瀟洒なクラブハウスでは、昨季優勝したサントリーの沢木敬介監督が、当日の試合展開を「ロースコア、じゃないですかね」と見立てる。

「ファイナルって、それほどテンポも出ないし、ペナルティーがあったらショットを狙うし(決まれば5点のトライを目指すよりも、ペナルティーゴールで3点を取ろうとする)。テンポの速くないなかでどれだけサントリーがゲームをコントロールできるか。少ないチャンスをいかに仕留められるか。ファイナルでは、そこが大事です」

 1月13日、東京は秩父宮ラグビー場。国内最高峰トップリーグのプレーオフ決勝戦がある。日本選手権のファイナルも兼ねたこの一戦では、攻守逆転の得意なパナソニックとスペースを組織的に攻略するサントリーが対峙。世界中の有力選手をひとまとめにした点は両軍に共通していて、当日はクロスゲーム必至だ。焦点はどこにあるか。

スペースを突くor埋めるという問題

 当日は麻生彰久レフリーが笛を吹く。その決定を踏まえてか、サントリーのスクラムハーフとして先発する流大は「ボールを持っていた方が、いいかな」。接点などでの判定の傾向を、当日のプレー選択に反映させそうだ。

 そもそもサントリーは「アグレッシブアタッキング」を近年の部是とする。沢木監督も、鉄壁とされるパナソニックの防御についてこう話す。

「スペースは絶対に、ある。そこに勇気を持って攻める」

 リーグ戦における直接対決は10月21日にあり、パナソニックがサントリーを21―10で下している。それでもサントリーは接点周辺に相手を引き寄せるなどして大外のスペースを攻略したこともあった。

――当時と、見えている「スペース」への印象は変わりませんか。

 

 沢木監督は強気に続ける。

「変わらないですし、新しいスペースも見えてきました。もちろん、(パナソニックの)ディフェンスはいいんですけど、自分たちのいい状況に持ち込んだらスペースは生まれます。完璧なディフェンスは、ないので」

 バックスを司るスタンドオフには、マット・ギタウが入る。バイリンガルのコンダクターたる小野晃征はコンディション不良で欠場も、開幕時はインサイドセンターだったオーストラリア代表103キャップの職人が穴を埋めるのだ。

 防御ラインに近い位置で球を受け、複数の選手を引き付けながら周囲のスペースへパスを配す。その簡潔な動きに、決勝でインサイドセンターに入る中村亮土は感謝する。

「ギッツ(ギタウの愛称)が仕掛ける分、僕も溜められる(相手との間合いを取れる)。選択肢を広げられる」

 ひとたび穴を破れば止まらないサントリーの攻めに対し、パナソニックのプロップである稲垣啓太は「フォワード同士の戦いで負けない」と意気込む。

 大まかに言えば、サントリーは司令塔団の周辺でフォワード陣が複層的な陣形を形成。狭い区画での突進やパス交換などを経て、フィールドのどこかにスペースを作ろうとする。だからだろう。ギタウらバックス陣の勢いを断つには、接点(ブレイクダウン)などでのぶつかり合いをなるたけ少人数で制したいと考えている。

「サントリーはブレイクダウンでフォワードを前に出した後、バックスへ展開します。フォワードがその流れを寸断できれば、バックスに球を出すことはできない」

 サントリーが人数をかけた地点をパナソニックが1人のタックラーだけで制御できれば、次の局面ではパナソニックの守備網に数的優位が生まれる。スペースは埋まる。稲垣やロックのヒーナン ダニエルら強烈なタックラーが、その流れを呼び込めるか。

ポーコック戦争という問題

 パナソニックの防御のキーマンは、オープンサイドフランカーに入るデービッド・ポーコックだろう。オーストラリア代表66キャップを持つこの人は、接点で相手の持つボールへ絡むジャッカルというプレーを得意とする。サントリーとの直接対決時も、後半に好ジャッカルを連発していた。

 サントリーが沢木監督の思う通り「自分たちのいい状況に持ち込」めれば、球を取られるリスクは最小化される。とはいえ、ここは強豪同士の頂上決戦。向こうの防御網はそう何度も割れないだろう。

 そこでポーコックの脅威を防ぐには、「ポーコックにタックルさせる」ことが肝要。フィニッシャーとして期待されるフルバックの松島幸太朗ら、複数の選手が証言した。

 確かに、味方のタックラーが相手ランナーを倒した先で繰り出されるのがジャッカルの典型例。本人も「ジャッカルはいいタックルが起きた後の二次的なもの」と口にする。いわば、ポーコックがタックルした場面ではポーコックのジャッカルは生まれにくくなる。

 もちろんポーコックは百戦錬磨。タックルした直後に起き上がり、相手側の援護が来る前にジャッカルを繰り出すこともある。ラック(寝たボール保持者を起点とした接点。ボール保持者、タックラー、いずれかのチームの1人が揃って成立)ができた後にジャッカルをすればハンド(ラックのなかで手を使う)という反則を取られるとあって、それはグレーゾーンへのチャレンジではある。

 もっともサントリーのギタウは、こんな言葉で警戒心をあらわにする。

「彼は上手い選手なので、いろんなことをやってくる。本当に、わからないですね」

 またサントリーの攻めの構造上、端側のスペースへ駆け込んだランナーが孤立するシチュエーションもゼロではない。かような局面はポーコックにとっては大好物だ。サントリーのオープンサイドフランカーに入る西川征克は「リアクションスピードで上回る。相手よりも速い動きで、そういう危ないところを埋められれば…」。どの位置のランナーも助けられるよう、球の動きに応じて動き回りたいという。

 球を奪わんとする方が勝つか、球を奪わせまいとする方が勝つか。両軍の判断力と眼力と運動量の総和に、注目が集まる。

小差は大差?

 両軍の脅威とその対策のほかには、双方の順法精神にも注目が集まる。ぬかるんだ足場でのスクラム、双方の思惑が入り乱れるブレイクダウンなどでの笛がどちらに傾くか。それも、当日のスコアを左右するだろう。

 堅守が命のパナソニックとて、無用な反則で相手に攻撃権を渡す気はあるまい。オーストラリア代表51キャップのスタンドオフ、ベリック・バーンズを起点に、左右、前方へ球を動かしながらアンストラクチャー(セットプレー=攻防の起点以外からの攻防)の状態からフィニッシュを目指したい。

 試合は14時15分、キックオフ。仮に魅惑的な内容にならなくとも、味わい深いつばぜり合いになりそうだ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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