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トヨタ自動車のジェイク・ホワイト監督、相手キーマン獲得を直訴?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター

 日本最高峰のラグビートップリーグは、日本選手権を兼ねたプレーオフトーナメントを開催中。1月6日の準決勝では、一昨季までトップリーグ3連覇中のパナソニックにトヨタ自動車が挑戦。終盤の追い上げもむなしく11―17で敗れた(大阪・ヤンマースタジアム長居)。

 試合後、ジェイク・ホワイト新監督が姫野和樹新キャプテンとともに会見。指揮官は、相手のゲームキャプテンであるデービッド・ポーコックのブレイクダウン(ボール争奪局面)でのジャッカル(相手の持つボールを奪いにかかるプレー)へ、ジョーク交じりに悔しさをぶつけた。

 ホワイト新監督は、かつて南アフリカ代表を率いて2007年のワールドカップフランス大会で優勝。2004年と2007年にIRB(現ワールドラグビー)の年間最優秀コーチ賞を受賞するなど国際舞台での影響力を誇示する。トヨタ自動車では着任早々に新人の姫野をキャプテンに据えるなど、ビビッドなチーム改革に着手してきた。

 以下、公式会見中の一問一答の一部(編集箇所あり)。

ホワイト監督

「選手たちが最後まで戦い続けてくれたことは誇りに思います。1年目でセミファイナル。これも誇りです。この試合をご覧になった方は、トヨタ自動車がどれだけ飛躍したかがわかると思います。ここ10年間のトップリーグを振り返ると、パナソニックとサントリーがずっと上位を争ってきた。そんななかトヨタ自動車には、初のプレーオフという選手が多かった。奇妙なプレッシャーがあった。ただ最後は、パナソニックのようなチームがプレッシャーを受けているという奇妙な状態が起きました。レフリーのコールが1つ、2つ違っていたら、またプレッシャーが異なったでしょう。特に、試合の最後の場面などです。違っていた。

 ブレイクダウンの解釈は色々あるが、解釈によっては判定が違っていたであろう場面はたくさんありました。豊田(章男)社長に話してポーコックを獲得すれば、逆側にペナルティーが課されるといった状態になるでしょう。豊田社長は、好きなようにやってくれと私に言って下さいました。月曜日、ポーコックの話をしに行きます。

 パナソニックはいいチームです。田中史朗(日本代表スクラムハーフ)やディグビー・イオアネ(元オーストラリア代表アウトサイドセンター)を途中で外してもいい選手が揃っている、いいチームです。スタンドオフではベリック・バーンズではなく山沢拓也を使っていましたが、山沢はすでに10シーズンぐらいやっている風格があります。

 ペナルティーに関しては冗談を言いましたが、勝負は表裏一体でした。ブレイクダウンへポーコックがやや遅めに入っていて、それは『ラックのなかで手を使っているので反則』と取ることもできます。ここでトヨタ自動車にペナルティーキックが与えられていたら、また流れが違っていたと思います。

 最後に言いますと、トヨタ自動車はスクラムを組めるチームです。来年は、そう見てください」

姫野

「率直に悔しいです。ただネガティブに捉えず、ポジティブなところもたくさんあったゲームだと見ています。大事なところでミスをしてスコアに繋げられないシーンもありましたが、チーム全員が80分間勝つ気持ちで戦ってくれたのはポジティブなところです。試合後、皆に言いました。『スコアボードを見てくれ』。今季のリーグ戦でパナソニックと試合をした時は43-16で負けました。しかしきょうは、それぞれが成長を感じられましたし。この試合で終わりじゃない(13日に東京・秩父宮ラグビー場で3位決定戦)ので、次も勝ち切って、パナソニックに勝てるようにやっていきたいです」

――キャプテンの自己評価。

姫野

「50点です。まぁあの、キャプテンという経験も少なくジェイクにも選手にも助けてもらった。僕のことを支えてくれて、やっとできたという思いです。ただ、やるからにはチームを勝たせないといけない。まだまだです」

――来季へ。

ホワイト監督

「来季も勝つ。何も変わらない。来季はいまよりいい成績を残したい。勝っていきたい。優勝するチームにしたい。豊田社長も皆も、優勝したいと思っています。『No excuse』。シーズンが始まる時に言ったことを体現します。先ほど申し上げたように、パナソニックもサントリーもこういうプレッシャーに慣れていた。それゆえ、当日に何が起こるかを予測できているのでしょう。トヨタ自動車はプログラムを振り返り、選手たちをさらに向上させる人を呼んで強くする。荒木香織さんには、サイコロジストとして来ていただいています。この結果を見て喜んでいると思います。同じメンバーで勝てるという信念を持つ選手がここにいて、神戸製鋼戦、NTTコム戦も最後のプレーで勝利を掴みました。今回の舞台でもそれができそうでした」

姫野

「僕もジェイクと同じ。優勝することです。今年トップリーグ3敗していますが、そういった(今季負けた)チームに勝ちたい」

――後半、僅差。差を詰め切れなかった違いは、

ホワイト監督

「ポーコック。それだけです」

――ポーコック選手について、プレーしていた側からの印象は。

姫野

「ボールが取れるという感覚を持っています。そして、取れないところへは絡まない。ボールに絡んでからは、地面に張り付いているんじゃないかというくらい簡単にはがせない。それは本当に自分も見習うべきところです」

――ホワイト監督の言う、判定にまつわる領域についてはいかがですか。

姫野

「ポーコックのところに関しては言えなかった。うまかったので。ただ、ロールアウェー(タックル後のその場への滞留)のところはアピールしましたけど」

 ホワイト監督は、隣で笑う。

ホワイト監督

「ポーコックは何も間違ったことをしていない。世界でも有数な選手で、彼がいるかいないかで勝敗が変わるという選手です。ブレイクダウン、ボールキャリーの際の判断もよかったです。ああいったいい選手を獲得できるパナソニックの努力は、称賛にふさわしいと思います。表裏一体のプレーなので、本当に難しかったです。レフリーの方が毎回100パーセントの判断ができるわけではないので、ひとつひとつのクリップを見せて『どうだ、どうだ』とは言えません。ただ何となく、ポーコックがブレイクダウンにいる時にパナソニックがペナルティーキックを得ているように思います。きっとそれを知って、リクルートしていると思います。サントリーのジョージ・スミス(ポーコックと同様、オーストラリア代表経験の豊富なフランカー)もそうです。トヨタ自動車の選手は、そうした選手へ適応しなくては。70分くらいまではその対応力はよかったと思います。トヨタ自動車もこれからもっとよくなります。必ずよくなります」

 国際経験豊富なホワイト監督は、日本のレフリーの海外出身バックローへのリスペクトの傾向を見たか。実相はどうであれ、来季のホワイト体制の一手には注目が集まる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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