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20歳以下日本代表・武井日向、明治大学の「1点差」は明確?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
地を這うランは渋く光る。将来のリーダー候補か。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 ラグビーの大学選手権の決勝戦。明治大学は9連覇を目指す帝京大学に20―21と肉薄も、勝てなかっただけに悔しさは募るか。特に、プレーしながら課題を見つけた選手にとってはなおさらだろう。

 1月7日、東京・秩父宮ラグビー場。19シーズンぶりにこの舞台に立った明治大学は、大健闘でファンの心を掴みながらも白星は逃した。なかでも「あと1点、何が足りなかったか。僕のなかでは明確になった」と話すのは、2年生の武井日向だ。

 國學院大學栃木高校出身で、ポジションはフッカー。フォワードが8対8で組み合うスクラムでは最前列中央に入り、空中戦のラインアウトではタッチライン際からのボール投入役を務める。

 キックオフを含めてセットプレーと総称されるスクラムとラインアウトは、ラグビーにおける攻防の起点。力勝負を伝統とする明治大学が、歴史的に重視してきた局面だ。

 そんなセットプレーの軸をなす武井だが、身長170センチ、体重95キロと、一線級のフッカーにあっては決して大きくはない。

 プレーを終えたらすぐに起き上がる。低い姿勢でのコンタクトで大男を押し返す。タックラーに倒された際はその場で身体をごろりと回転させたり匍匐前進したりして、味方の援護が来るまで持っている球を守る…。

 こうした基本に忠実なプレーを徹底し続ける集中力と運動量で、存在感を示してきた。1年時からレギュラーを務め、今季は20歳以下日本代表としても活動。1季ぶりの大学日本一に向け活躍が期待された今回の接戦でも、持ち味を発揮した。

 しかし…。

 以下、試合後の単独取材時の一問一答(編集箇所あり)。

――何が一番、悔やまれますか。

「まず1年間、(ほぼ主力格として)やってきたのに(この日は)先発で出られなくて…。最後まで(フッカーのスターターがつける)2番を背負い続けられなかったのが、悔しかったです」

 この試合でもっとも悔やまれるポイントは、試合の前にすでに発生していたこととなる。ファイナルの舞台では、セットプレーの安定感を買われ4年生の朴成浩が先発。武井は後半から出場していた。

「そのなかでも決められた役割を遂行しなくてはいけなかったんですけど、セットプレーのところでうまくいかない部分があった。あと1点、何が足りなかったか。僕のなかでは明確になったかと思います」

 帝京大学に届かなかった「あと1点」の差を埋める「何か」。武井はそれを、自らの「セットプレー」における正確性と、それを支える強い心だとする。

――確かに、ラインアウトではいくつかノットストレート(ボールを真っすぐ投げ入れられない反則)がありました。フッカーとしては悔やまれるところかもしれません。

「やはり、緊張というものがすごくあって…。決勝という舞台が初めてだったこともあるのですが、緊張を楽しめなかった。まだまだ未熟な部分を感じましたし、そこで正確なセットプレーをするのが役割だったと思うのですが、それをできなかったことがすごく悔しいです」

――「緊張を楽しめなかった」という言葉がありました。その点、明治大学が最大13点リードを保っていた頃の帝京大学の選手はどう映りましたか。

「後半、最後の最後まで帝京大学さんが(劣勢を)覆してくるのはわかっていました。経験の差がすごく出た。ああいう場でも焦らずやって来たことを出し切るということを、帝京大学さんはやられていたと思う。ポジティブに考えたら、いい経験ができました」

――大舞台で勝つ人たちの勝つまでの過程を、至近距離で見られたという「経験」。

「そうですね。勝ち切るチームというのは、いつも通りのことをどんな場面でもできるんだなと思います」

 20―7とリードして迎えた10分過ぎ。明治大学は敵陣ゴール前左で自軍スクラムを獲得する。追加点のチャンスを得た。

 ところがこのスクラムで、明治大学は塊を故意に崩すコラプシングという反則を犯してしまう。

 以後、帝京大学は、ペナルティーキックで陣地を獲得するたびに明治大学のペナルティーを誘発。15分のトライなどで14―20と接近した。続く22分、明治大学は勝ち越された。

 舞台の秩父宮はグラウンドコンディションの問題で批判を浴びるステージだが、武井はそれさえも言い訳にしない。悔恨のスクラムについて、こう振り返る。

「8人のまとまり、相手の組み方(への対応)、下が滑るなかでどう組んだらいいかという修正を、あまりできなかったと思います。この悔しさを忘れないように、1年間やっていきたいです」

 20歳以下日本代表としてウルグアイへ渡り、「大きい相手に対してやれるという自信を持てて、課題も見つけられた」。国内の強豪という「大きい相手」にも、引き続き果敢に、落ち着いて立ち向かいたい。苦い経験を肥やしにする。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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