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明治大学の潔すぎる敗戦談話。「差」はどこに?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
紫と白の小旗がスタンドではためいた。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 ラグビーの全国大学選手権の決勝戦が1月7日、東京・秩父宮ラグビー場であり、19年ぶりのファイナリストとなった明治大学は9連覇を狙う帝京大学に20-21で惜敗。1996年度以来の優勝を逃した。

 試合後、敗れた丹羽政彦監督と古川満キャプテンが会見。冒頭で敗因を潔く明かし、質疑応答では最終局面での心境などについて述懐。ファンへの感謝や観戦文化への私見も伝えた。試合の録画映像を見ながら振り返れば、よりお楽しみいただけそうだ。

 以下、共同会見中の一問一答の一部(編集箇所あり)。

丹羽監督

「お疲れさまでした。明治大学としては久しぶりにここへやって来まして、会場の応援もあり、学生にとっては良い経験になったと思います。勝敗がつくのでしょうがないのですが、おそらく私の5年間のなかでの(対帝京大戦での)最少失点で、(勝利は)ほぼ手のなかに入っていた。ただ、ずっと勝ち切ってきたチームと19年ぶりにここに来たチームとの間の、少しの差が、あったかと思っています。

 選手は一生懸命やってくれました。特に4年生は満、梶村(祐介副キャプテン)を中心に、最後までラグビーに真摯に向き合ってくれた。その意味では、ここで勝って新しい文化を作ろうと皆が思ったと思うのですが、1点だけ、足りなかった。この悔しさを次の世代に引き継ぎ、常に明治大学が正月を超えて常にファイナルの場に出られるよう強化したいです。以上です」

古川

「ありがとうございました。明治大学といたしましては、セットプレー、ディフェンス、ブレイクダウン(ボール争奪局面)にフォーカスを置いてゲームに臨みました。セットプレーでミスが多かったり、ブレイクダウンでは良かったところもありましたがペナルティーを取られたり。自分たちの決めたことを80分間できなかったことが、きょうの敗因だと思います。届かなかった1点を後輩に託して、次は、必ず勝てるようにしたいです。僕はまだ卒業していないので、部に残って、もう少し後輩たちのためにできることはやって、残せるものは残していきたいと思っています」

――足りなかったものは。

古川

「気持ちの部分もよく、劣ってはいなかったのですが、ゲームのポイントとなるところでのミスで、なかなか流れに乗れなかったと思います」

――10点リードで迎えたハーフタイムは。

丹羽監督

「前半は我慢もでき、スコアを先行できた。後半も堅く行こうとは思っていなく、チャレンジャーとしていままで積み上げたことをやろうとしました。ただ敵陣ゴール前で取り切れず、(直後に)スコアをされていたところに敗因があったのかと思っています(後半の帝京大学の得点場面の直前は、明治大学のスコアチャンスがあった)。あそこでフォワードに固執せずに、もう少しバックスへ動かしていれば、と」

古川

「後半の入りは、帝京大学さんがいつも狙ってくるところ。ハドル(円陣)のなかでも、僕らはリードしていてもゼロゼロの意識で明治大学のラグビーをしていこう、4年生が中心となって引っ張っていこうと再認識して臨みました」

――後半、やや反則が増えた。

古川

「自分たちの(ブレイクダウンへの)2人目のサポートの質が落ちてきたと感じていて。あとは、ブレイクダウンでの(ランナーが)倒れた後のワンアクションで、自分たちにいいようにコントロールしないといけないのですが、そこで帝京大学さんのうまいディフェンス、セカンドマンのファイトに絡まれました(寝たまま球を手放さないノット・リリース・ザ・ボールの反則についてか)。2人目の質の部分で、落ちたのかと思います。

 後半、少し帝京大学さんに流れが行った時、いままでではフォワード3人が一か所に固まり、ボールを活かそうという消極的なプレーを選択していたと思うのですが、後半の途中、僕の方から出ているフォワードに『バックスがゲインを切ったら(突破したら)、積極的にゲインラインバトル(攻防の境界線へ走り込む動き)を仕掛けていこう』と話した。それが勝利の近道だとも、それがミスで終わってもチャレンジするのが大事だとも思いました」

――点差が詰められてきた時には、どんな声掛けを。

古川

「皆のなかには、少しやばいという顔をしていた選手もいたので、そこには『気にすることはない。自分たちのラグビーを強気にやろう』という話をしました」

――1点差。スタンドオフの堀米航平選手が1本でもゴールキックを決めていれば…。

古川

「堀米も泣いていて、『俺が決めていれば』と。そういうことは、キックを蹴るという勇気のある人しか言えないので、そこに対して僕は何も言うことはないです。堀米はキック以外でもチームを引っ張っていて、タックルでも身体を張ってくれていた。何も言うことはないです」

 両軍のファンが興味深く見つめていたのは、明治大学が自陣深い位置まで攻められていた最後の場面だろう。

 1点リードの帝京大学は、ペナルティーキックを獲得。ここでキャプテンである堀越康介は、決まれば3点のペナルティーゴールではなくスクラムを選択。点差を4に広げて最終局面を迎えるのが定石とされるところで、攻め返されるリスクを背負ってトライを狙ってきたのだ。

 ちなみに堀越と古川は桐蔭学園高校時代の同級生である。友でありライバルの決断を受け、古川はどんな気持ちだったのだろうか。

――いかがですか。

古川

「そうですね…。まぁ、凄く、楽しいなと感じました。こういう舞台で、春からこだわってきたスクラムを堀越が選んできて、意地と意地のぶつかり合いになったと思いました。僕らとしても負けられないですし…。フォワード8人で、春からやって来たことを出し切ろうという思いを皆で統一して、臨んだ。そこは…楽しかったですね。帝京大学さんはスクラムで時間を使うことを狙ったと思うのですが(堀越は「トライを狙った」と回答)、僕らは負けずに我慢して…」

――その後、帝京大学の反則により明治大学が攻撃権を得ました。

古川

「そこでアタックのチャンスが巡って来た。後輩たちにも、何かを残せたと思います」

――大勢のファンの前でプレーできた。

古川

「19年ぶりの決勝と言われても、僕らとしては(当時は)まだ生まれたぐらいで、実感がなかったのですが、きょうは試合が始まってから終わるまで、本当に温かいファン、OB、OGの方々から、19年分の思いの詰まったような応援をしていただいた。

 いままでなら明治大学の悪いプレーがあったらヤジが飛んできていたのですが、きょうは皆さんのおかげで外から『ドンマイ』『次、次』という温かいお言葉をもらえて、僕らとしても本当に嬉しかったです。本当に、こうした素晴らしいOB、OGに応援してもらえる明治大学を選んで本当によかったと思います。今度は卒業してOB、OGの仲間に入って、22年ぶりの優勝に向け、受けてきた恩を返していけたらと思います」

丹羽監督

「いま、古川の話を聞いていますが、大人になりまして…。OB、OGの方にとっては待ちに待った時間だったのだと思います。ここで勝っていれば大きな形になって残っていくと思ったのですが、決勝まで来て勝利に手のかかった試合ができたという意味では文化を残せたと持っています。4年生にはありがとうと言いたいですし、僕らスタッフはこれをひとつのきっかけにして、ここからもう1歩前に出るにはどうすべきかを考えて、帝京大学さんの10連覇を阻止するチームになりたいと思いました。

 ファイナルに行くということで、少し気持ちの入る観客がいると思いました。そこで実は昨日、色々な媒体を使って『明治大学のファンは紳士たれ』ということを書きました。それが奏功しているのかもしれません。

 ラグビーの環境を変えていかなくてはならないなか、相手へのヤジ、レフリーへの文句について、僕なりには気になっていました。レフリー、選手、ファンが一体となってやるのがラグビーのいい文化だと思っています。きょうはそういうゲームだったと思います。1点差、悔しいです。僕と岩出雅之監督(帝京大学)の差かも知れません。4年生にはありがとうと言いたいです。1年間、本当に素晴らしい時間でした。ありがとうございました」

 敗者は、幸せで悔しいひとときを過ごした。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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